願望

 私は小学校二年生のときからずっと心にひっかかっていることがあった。

クラスの女の子との約束を破ってしまったことだ。

 私は幼い時から、父の都合で土地を転々としていた、大体2、3年に一度のペースだ。

今度も転勤が決まったので、出発の朝、見送りに来たクラスメイトと別れを惜しんでいると、件の彼女が「渡したいものがあるからちょっとまって」と家へ引き返していった。

しかし、残念ながら飛行機に乗り遅れてしまいそうだった私は待っていられなかった。以来彼女とはそれきりだ。

 大学進学を機にその土地へ戻った私は、どうしてもあの時のことを彼女に直接謝りたいと思った。

確かに障害はある。

1つは、彼女の名前を思い出せず、居場所が分からないこと。

2つめは、向こうも私の事は覚えていないだろうということ。

3つめは、いざ会ってもどう接すれば良いかわからないことだ。

 だが私は決してあきらめない。やるだけの事はやりたかった。

とりあえず、かろうじて名前を覚えていたクラスメイトと、SNSを介して再会することからはじめた。それと並行して、当時通っていた小学校付近で聞き込みをおこなう。さらに、彼女が遠方へ移り住んでいた時の為に、人生初のバイトも始め旅費を稼いだ。

 結果、収穫はなかった。どういうわけかクラスメイトも私との再会を喜んでくれたが、私が言う女の子に心当たりがないという。そんな馬鹿なことあるはずがないとうろたえる私に、彼は卒業アルバムを見せてくれた。そこには本当に私の記憶のなかにいる少女は見当たらなかった。お手上げだった。熟慮の末、子供がつくりだした空想上の友人だったと思うしかなかった。

 ―今、私は大学近くのアパートをシェアして住んでいる。あの少女さがしを終えた後、私とクラスメイトは意気投合したのだ。バイト先では人間関係に恵まれ、やりがいを感じながら、充実した日々を送っている。

 ふと最近思う。彼女のことがなければ、私はこの土地へ果たして戻ってきていただろうかと。親元を離れ不安だった大学生活も、友人や職場の事を考えれば滑り出しはこれ以上なく良い。私は結論づけることにした。たとえ独りよがりと言われても構いはしない。

 彼女が「渡したかったもの」はもしかして・・・ 

 

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