第25話

 夥しい軍船は、潮の流れの速い浅瀬を避けながら、屋島の岬、長崎ノ鼻を目指して進む。

二人を乗せたオオワシは、西ノ瀧の稜線を帆翔、千吉のいる南壁に静かに着地した。

「千吉、無事じゃったか」ヨイチは夜風で冷たくなった千吉の頬をさする。

「ヨイチ。ゲンジ兄さん。今、もの凄い数の軍船が屋島に向かって行ったよ」

千吉は興奮冷めやらない様子で言った。

「――――秀吉の四国攻めだ」

ゲンジは幾万の松明を見てつぶやく。

長宗我部元親の四国平定に焦りを覚えた秀吉は、天勝十三年のこの年、黒田如水に四国に出陣するよう命じた。戦は敵方、十余万の兵力に対し、讃岐国の兵は僅か。半農半漁の村民も一領具足兵として、徴兵された。忠吉や安吉も例外ではなかった。

「まったく愚か極まりない。四国の兵力を見ろ。たちまち滅ぼされて、一巻の終わりだ」ゲンジは呆れ言った。しかしヨイチは、荘厳な松明を見やり言った。

「何事にも意味があるとは思わぬか。この戦も。戦による死も」

「戦による死に意味、だと?」ゲンジは呆れて言った。

「あの者たちは、今日あって明日ない身。命は儚く、この世は無常だからこそ、今あるこの命の灯火を燃やし尽くさなければならない、とワシは思う。戦とは、忠義だけではあるまい。その者の生き方でもある。それを我々がとやかく言うことはできぬ。今、この瞬間を生きるとは、おのれの過去を孕み、永遠の未来を孕んでおる。もし、この『今』を迷いながら生きている者がいるのだとすれば――――」

「――――?」

「……そんな奴は、生きていても仕方が無かろうな」

とはっきりと言った。その言葉はゲンジの荒んだ心に繰り返し響いた。

  

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