第24話
「主よりおぬしの先導を頼まれた時は、戯言と思い、一も二もなく、突っ撥ねたわ。導くなんて、柄にも無いし、第一、面倒臭い。しかし主がわざわざ相見し、肩入れするおぬしとは、一体どんな奴なのか、まあ、感興が湧いたので、しばらく傍観させてもらうことにしたのよ」ヨイチは脇の木から実を取って食べ始めた。
「ところが、おぬしと来たら頭でっかちの木偶の坊、理屈や知識は人並み以上にあるくせに、他人に対する礼儀、礼節が欠けておる上、因縁因果の根本すら知ろうとせず、驕り高ぶることこの上ない態度。主には再度断り申した次第よ」ほれ、といちじくを勧められたゲンジは無言で口に含む。
「俺は……生きることとは、他人と競い合うことだと思って生きて来た。競争に勝つことによって自分という存在が周囲に認められることで、自我を保っていた。しかし、親が死んで、もう、そんなことはどうでも良くなった」ゲンジは諦めたように言った。
「親の遠逝、誠に不幸なことであった。しかし、その苦しみが分かるのなら、同じ境遇の千吉をこのような危険な場所に連れて来るようなことをするのじゃ? なぜおせいの気持ちを分かってやろうとはしない」
ヨイチは暗がりの中で、けなげにゲンジの帰りを待つ千吉の姿を見てとった。
「千吉は、この度のおぬしの行をどうにか貫徹させようと、村からここまでの雲居地を、一昼夜歩き通しで、検分したのじゃぞ。物の怪が這い回るこの地を」
「夜雨が降る中、路傍の地蔵菩薩に手拭を掛けてやり、手を合わせておった。自分はどんなに濡れても」ヨイチがそう言い終えた時、島のはるか向こう、泉州あたりの沖より、無数の灯し火を挙げて進む多くの船が見える。
「何っ!」
跡白波がわさわさと立ち、大山を鳴動さすような気で迫る船団だ。
その真黒い軍船らしきものは、瀬戸内の水軍が操るものの比ではない。百六十五尺(五十メートル)はあろうか、総矢倉と呼ばれる周囲を鉄で頑丈に囲んだ造りで、狭間からは銃眼が見て取れる。船首には龍頭が、船旗には五七の桐が汐風に棚引いている。「あれは!」ゲンジは驚き言った。
ヨイチは、先を駆く勢いで、オオワシの背にゲンジを乗せると、千吉のいる南壁に急ぐ。
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