第20話

 あくるの日の午後、ゲンジに呼ばれた千吉は、いそいそと部屋に向かった。

「千吉です」

「入ってもいいぞ」

「機械が出来ました」そう言うと千吉は、小型の送受信機をゲンジに見せた。

木箱の中から取り出したのは、トランシーバーだ。

「これを、たった一日で作り上げたのか」

ゲンジが呆れて言うと千吉ははにかんだ様子で「この機械さえあれば、ヨイチやゲンジ兄さんと話ができるかも知れないと分かったら、いても立ってもいられなくなって」と言った。その顔はどこか誇らしげだ。

「ところで千吉。明日の朝、俺はヨイチに会いに再び西ノ瀧に行く。万が一何かがあればこれを使い俺はお前に助けを求めるかも知れない。その時は頼んだぞ」と告げた。千吉は「分かりました」と言った。

強化服を身に着け、その上から白い単衣を纏うとゲンジは寺を出発した。

東の空が一面に紅く染まっている。

目が覚めるような朝焼けだ。錫杖の華厳な響きは山々に木霊する。千吉はゲンジの姿が見えなくなると急ぎ自室に戻り、大きな背負い袋を担ぎ、身支度を整えた。

小型のロボットも一緒だ。千吉は苦労の末、パソコンからロボットを操作出来るインターフェースを開発し、ゲンジには内緒でこの日に臨んだ。

「サスケ、行くぞ」

千吉は小型ロボットにそう呼びかけると、東に向かい歩き出した。

西ノ瀧の北壁はそそり立つ断崖の嶮しさから黄泉の険阻とも言われている。

千吉は比較的傾斜が緩やかな南壁を目指して進んだ。

小型ロボットのサスケは蓄電は出来るものの、太陽光が弱くなると動きは鈍くなるため、日暮れまでにはどうしても頂上に着きたいと千吉は考えていた。

「頑張ろうな」とサスケに呼びかけると、サスケは千吉を見て

「ハイ」と答えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る