第14話
「さっきは……ごめんなさいっ」
先ほどの印地打ちでゲンジの足に石を当てた男児だ。相撲取りのような立派な体格だが、今にも泣きそうなところを見ると、姉のおせいにこっぴどく叱られたようだ。誰にも聞こえないくらい小さな声で「ヨイチのことならどこにいるか知っているよ」と耳打ちしてくれた。忠吉はちらっと台所にいるおせいの方を伺い、ヨイチは、と続けて言った。「鷹や犬、猪を手下に、妖術使いの女とともに厳しい修
練を続けている」男だと言う。
オレはヨイチになりたいんだ、と興奮気味だ。「ヨイチの真似をして崖を上ったり、蔦にぶら下がって蝙蝠を生け捕ったり、石で野うさぎやねずみを仕留めたりする」兄の横で聞いていた弟の安吉も興奮して顔が真っ赤だ。
――明日の朝、二人を西ノ瀧に案内する
そう忠吉がささやいた。
「ヨイチとは如何なる人間なのか、いや人間というより……大威徳明王のような激しさがある……」リキュウは茶を含むとそう言った。
「櫛風沐雨のような一日だったな」
疲労困憊した二人は布団になだれ込んだ。
ゲンジは胸ポケットの両親の写真を見つめる。そして、ワンショ
ルダー・リュックに手を伸ばし、携帯電話にメッセージを書き込ん
だ。
「辞世の句……か?」リキュウが笑う。
「まあな」
そんな二人の会話を隣の部屋から聞いていたのは、気の弱そうな千吉という男児である。それに気づいたゲンジは、おせいが寝落ちしたのを見て千吉を手招きした。
「これ……何?」
「電話」
「電話……?」
「遠くにいる人と話が出来る」
千吉は目を瞬かせ、それを手に取った。画面には暗号のような記号のような文字が書かれている。驚き覗き込む。
「手紙も書いて送ることが出来る」
「何て……なんて書いてあるん?」
「教えない」
すぐにメッセージを保存すると、待受画面に変わった。画面にはゲンジと一緒に微笑む女性の写真。
「ゲンジ兄さんの……恋人?」千吉が彼の顔を覗き込む。「子ど
もはそんなこと知らなくていいの」と千吉の頭を小突く。
「これは何でしょう」彼が内ポケットから
取り出したのは、小さな小さなロボットだ。千吉の目がいっそうキラキラと光り輝く。
「また明日な。おやすみ」
千吉は興奮して寝付けそうもない。
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