第12話
その老人は心の奥深い、心根の隅から隅まで光を照らすような存在感がある。
二人がどこから来て、これからどこへ行こうとしているのかをも知っており、さらには無我の境地を悟るまでは、たとい命が無くなってしまおうとも決して諦めず、後には引かずとする二人の胆斗の如したる覚悟をも理解しているようだ。
(この御仁たちは、決死の覚悟で西ノ瀧に上がろうとしておる)
「ご住持、いや老師と呼ばせてください。あなたはわたしたちの命運をすでにご存知です。わたしたちは西ノ瀧にどうしても行かなくてはなりません。そこがどのような場所であっても。ヨイチという行者に会い、僭上ながら……主が授けてくれた永劫回帰の文字の意味を知りたいのです」ゲンジは振り絞るように言うと、老師は金堂に二人を連れて行き、不動明王の前に座らせた。
「けだしこの二人にあっては、恐れ無く、欲は無く、解脱の境地に達観することが真の望みだと申しております。いわんやこの私が何を言っても聞くはずはございません。本日より師弟としてここに住まわせ、西ノ瀧へ峰入できるよう、錬磨す
る所存です」そう老師は宣言すると、虚心合掌した。
戦国末期、長宗我部元親と摂津大坂城の秀吉との反目はやがて四国は讃岐国へも伝播する。半農半士の志を持つ若者たちはもとより年寄も含めた一両具足を集結させ群雄割拠せんと守護大名は策動する。信長からの承継により秀吉の四国攻めが本格的に始まろうとしていた。そんな弓箭弓馬の気配はこの島へも展延、元親はつわものを集めんと下位に指図、やがて島にもこの報が告げ知らされた。
齢七十になる老師・明龍はおせいの祖父にあたる。信長の比叡山焼き討ちに対して幕府に異議を唱えた罪で遠流の刑となった。絶えず硫黄が噴出するような過酷な環境にいたので底翳となり、今ではほとんど目は見えない。
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