第8話

 突として頭上には稲光が走る。

「月見ず月……か。六月最後の今日、ついに月光菩薩は現れなんだ。足留め3日、東屋で雨音ばかり聞くのもさすがに飽きてきたな。

海霧がいっこうに晴れる様子もない」とリキュウは深い溜息をつく。

「何かがおかしいと思わないか」

「うん?」

ゲンジは不穏な気配が漂う小豆島の方角を指差して

「西ノ瀧よ」

「西ノ瀧がどうした」

「胸騒ぎがする。このまま島に渡れば何らかの難儀に巻き込まれる

気がする。当て推量と言われればそれまでだが。何者かの煩悩がも

たらす執着や多欲により、島はやがて衰亡するかも知れん」

「衰亡……?」

ゲンジはあらん限りの念を込め、島でこれから起こりうる災いを

予見しようと試みる。三障四魔が災いとなることは当然としても、

誰が何のために島を衰亡させようとするのか。

「しかし、主がおられる西ノ瀧。そう簡単には手出し出来ないだろ

う」リキュウは威勢よく言い放つ。

 ゲンジは観想したのち、おもむろに九字を切り真言を唱える。リキュウも続けて真言を唱えだす。

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