第5話
西の空をわずかに残して辺りが夜陰につつまれる頃、二人は一の橋を渡った。
夜警と思しき梟が杉の木立にこちらを窺い、
いつしかさまざまな迷いや痛みが遠のく感じがして心底心地よくなってくる。
それは広大無限の宇宙にいても、母の胎にいるかのような平安。
これが神の加護なのか……
俺の躰にある無数の傷。
何千キロ、数ヶ月に及ぶ四国遍路の旅。
舞い灯篭のように歩いても歩いても果ての無い遍路旅だと思われ
た。
ねぐらを探し回った。
雨露をしのげる場所ならと橋の下で躰を横たえた。
蚊の羽音も子守唄になった。
乾くことに、
空腹から、
寒さから、
何度も歩みを止めようと思った。
相棒とのささいな感情の行き違い、
情けなさ、
無力感、
金剛杖に彫られた永劫回帰の文字がぼやけて見えなくなっても、
ふらつきながらも、
ただひたすら歩いてここまで来たんだ。
ゲンジは数珠を握り一心に手をあわす。
人々の厚情・・・
野宿をしていると使い古しだけどと言い毛布を持ってきてくれた。
沿道を走る車が目的地まで行くから乗ったらどうだ、と声を掛け
てくれた。
薄汚い躰の俺たちに手を合わせてくれたお婆さん。
ここに来るまでに、どれほどの加護があつたのだろう。
計り知れない加護。
回向文が読まれ、萬燈供養会の灯りがほつほつと消えるころには
月明かりが来た 道を導く。
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