第三章 安倍清明の遺産
第20話 幕間 桜の花の下での反省会
京都の円山公園の桜は四月に東京に雪が降るような天候不順のおかげか、一週間経ってもまだ八分ぐらいは花びらが残っていた。
今週もお花見をしながらの楽しい宴会のはずが、風守カオル、悪童丸の顔色は冴えなかった。
『雛流しの呪法事件』で活躍できなかったのが落ち込みの原因だと思われた。
「雛御前と舞ちゃんの活躍で京都の呪術災害は落ち着いてきたようです。その後、京都府警から怪死事件の報告はない。ですが、予断は許さないというか、根本原因を断たないと、また『雛流しの呪法事件』のようなことが起こるのは目に見えているわ」
公安警察にして、秘密結社≪
今日も黄土色の軍服にベージュのコート姿で紅色のサイバーグラスをかけていて表情は読み取れない。
「結局、京都の人々の集合的無意識や不安が怨念になって、雛流しによって八坂神社に集積してしまって、京都守護の結界が破綻したということになるのかな?」
最近、公安警察の神沢優の部下になったばかりの安堂光雄が疑問を挟んだ。
短く切った黒髪にチャコールグレイの背広、ベージュのコートを羽織っている。
「まあ、そういうことね。雛御前と舞ちゃんの巫女舞でその怨念も一時的に祓われたけど、また、時間が経てばどこかの結界が破れることになる」
とても褒められてるのだけど、気が重いなあと神楽舞は思った。
カオルちゃんと悪童丸がうなだれてるんだもん。
私はねえ、ほら、雛御前に無理やり踊らされただけで、ほとんど無意識なんだから、別に誉められるようなことをしたつもりはないんだけど。
「そこで、今後の捜査には雛御前さまと舞ちゃん、護衛役として玲奈ちゃん、飛騨君も加わってほしいの」
秋月玲奈はこくりとうなづいた。
紺色のGパンに紅いスタジアムジャンパー姿で体育座りをしている。
ちょっとしたしぐさがかわいくて絵になる。
「玲奈ちゃんは秋月流柔術の使い手だけど、僕には護衛役は務まらないと思いますが。任務というなら頑張ってみます」
飛騨亜礼はどちらかというと頭脳派というか、インターネット捜査専門の『複垢調査官』という役職を拝命していた。確かに、あまり荒事向きではない。
「私は飛騨君の頭脳に期待してるわ。物理的障害は玲奈ちゃん、霊的なものはカオルと悪童丸で対抗できるけど、今回の『安倍晴明の遺産』探しは推理力が必要になると思うの」
サイバーグラスの下の口元が少し笑っていた。
「了解です。では、僕もそちらで貢献します」
黒のスーツ姿の飛騨亜礼は納得したのか、ざぶとんに座りなおした。
「私は安堂君といっしょに戸隠に行ってくるわ」
神沢優は意外なことを言った。
「でも、戸隠の九頭龍大神は水龍では?」
飛騨だけは事情が見えているようだった。
「でも、龍になる前は鬼だっという伝承もあるわ。それに水龍の協力も必要だわ」
「なるほど」
「こっちも手探りだけど、そちらの方が大変よ」
「そこはわらわに任せてたもれ。まずは晴明殿の墓に詣でてみるわ」
「なるほど」
「そういうことか」
今度は神沢優と飛騨が同時に感心した。
「何のことか全くわからない」
風守カオルは困惑していた。
「カオル殿。人には向き不向きがある。仲間を頼って戦うのも悪くないものだわ。考えるのは飛騨殿に任せればよい。古い道術、清明様のことは式神のわらわに任せればよい」
「はい」
カオルは何かを感じたようだった。
「悪童丸の『悪』は『荒々しく強い』と意味じゃ。八坂神社の
「おいら、強い、頑張る!」
悪童丸も少し元気になったようだ。
桜の花びらが舞い散る円山公園で、カオルと悪童丸は新たな戦いへの決意を固めた。
「では、戦の前の腹ごしらえに、お花見弁当でも食おうかの」
いや、雛御前様、それ四個目のお弁当ですけどと、気弱な神楽舞には言えるはずもなかった。
今日も天気がいい。
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