第21話 天山原発の危機

 自衛隊の汎用偵察ヘリ『OH-1改ハウンド』、通称≪シャドウスキル≫は、京都の海上自衛隊の舞鶴航空基地から戸隠への飛行中であった。


 神沢優は自衛隊の偵察ヘリ『OH-1改』、通称≪Ninja≫のスリムな機体と驚異的な運動性能がとても気に入っていて『OH-1改』を個人的に改造して特殊装備などを追加していた。


 OH-1改ハウンド≪シャドウスキル≫は『OH-1改』同様にコックピット上部に赤外線センサー、可視カラーTV、レーザー測距装置などの索敵サイトを搭載し、昼夜問わず敵の地上部隊を探索できる。

 偵察ヘリであるが、自衛用の武装として空対空ミサイルを左右4発ずつ搭載している。 

 作戦指揮能力を向上させた戦術データリンク機能もあり、特に≪Ninja≫という愛称が好きでかつては移動にはこの機体を多用していた。


 『OH-1』をベースに自衛隊の汎用ヘリ開発計画もあり、川西重工業に試作機などが発注されていたが、東京地検特捜部による談合疑惑、つまり、アメリカの横やりでこの計画は葬り去られた。

 つまり、『OH-1改ハウンド』≪シャドウスキル≫はその試作機を秘密裏に流用した幻の機体である。

  

「神沢少佐、天山原発の状況は正直、どうなんですか?」


 安堂光雄はOH-1改ハウンド≪シャドウスキル≫の後部座席から、三年前の東日本大震災の津波でメルトダウンを起こした原発の話題を振った。


牛頭天王ごずてんのうがカオルちゃんに言ってたやつね。最近、ロボットによる原子炉の炉心調査が行われたけど核燃料は見つからなかったの」


 神沢優はヘルメット越しの通信システムで答えた。

 OH-1改ハウンド≪シャドウスキル≫は二人乗りなので、神沢優自身が操縦していた。


「見つからなかった?」

 

「炉心の底はとっくに溶融していて、その下のコンクリート障壁も破ってメルトスルーしてたのよ。研究機関の話では地下800メートルぐらいに沈降してるらしいわ。数千度の核燃料デブリを冷却するためには毎秒100tの水を40年間掛け続けないといけないの。今は地下水脈に接触して汚染水問題が発生していて水蒸気と不思議な光が観測されてるけど、地下の堅い地盤などで核燃料デブリが圧縮されて核爆発でも起こせば、大地震が発生して原発の連続メルトスルーという最悪の事態も想定されているわ」


「それはネットで噂になってましたが本当だったんですね。しかも、数千度の核燃料デブリを捕捉する手段ないし、全く打つ手がない」


 安堂光雄の黒い瞳は憂鬱な色に染まっていた。


「そうね。まあ、それを解決すために戸隠に向かってる訳だけど」


「でも、戸隠というか、長野に自衛隊の基地とかありましたっけ?」


「ないわ。戸隠付近に飛行場もないわ」


 神沢少佐は当然のように言い放った。


「まさか、どこかの空き地に降りるんですか?」


「いや、天鴉アマガラスの戸隠基地があるのよ」


「え! そんなものがあったんですか!」


「人気のない僻地、神社の側には大概、あるのよ」


「それどういう基準なんですか?」


 あまりにも話が謎すぎる。


「安堂君、あなた、天鴉アマガラスの主要任務を忘れたの? 常世、異世界からの侵攻を防ぐのが使命なのよ。神社というのは空間の特異点に建てられる『境の神』が起源なのよ。磐座イワクラとか、神籬ヒモロギとか、異次元との境界にあるものなのよ」


「そうだったんですか!」


「認識不足ね」


「―――神沢少佐、着陸準備完了です」 


 その時、戸隠基地の月読三奈つくよみみなから通信が入った。

 ちょっと高めの声である。


「三奈ちゃん、元気してた? 地上勤務は慣れたかしら?」

 

「ええ、3ヶ月したら、また、真奈姉さんと交代勤務ですけど、遊星クルドは重力が弱いから地球に帰って来ると少し身体が重いです」


「そうね。では、レーザー誘導、よろしく」


「はい、ゲートオープンしますので、誘導に従って着陸してください」


 戸隠山中の岩山のゲートが開き、OH-1改ハウンド≪シャドウスキル≫は基地の中に吸い込まれていった。

 遊星クルドのオペレータ―、月読真奈つくよみまなさんの妹かあ。

 ちょっと会うのが楽しみな安堂光雄であった。



 

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