第19話 終幕 雛流しの舞姫
「という訳で、『安部晴明の遺産』を探すことになったのよ」
風守カオルは京都を騒がせた『雛流し呪法』事件の真相を語り終えた。
結局、何も解決してないどころか、この話の続きが気になると神楽舞は思った。
それと、風守カオルの向こう側に、赤い十二単を着た雛人形のような少女と子犬と子猫が座っているのは気のせいかしらと思った。
風守カオルの膝の上にいた黒髪の童子、悪童丸が駆け出して、
「犬神、猫鬼、ちょっとあっちで遊ぼう!」
と狼のような子犬と小さな角のある子猫と戯れているのは、何か夢でも見てるんだろうと思い込もうとした。
「カオル殿、そちらのお嬢さんと優男にはわらわが見えてるようじゃの。あ、そちらの
雛御前はそんなことをつぶやきながら、お
化粧箱に入った『みたらし団子』にも手を伸ばす。
「そうです。あのメガネ―――『サイバーグラス』をかけると雛御前様たちが見えるんですよ」
「そうかえ、便利な世の中になったものじゃな」
と言いながら、雛御前は舞の方を見てにっこりと微笑んだ。
何か背筋がすっと寒くなったのは気のせいね、きっと。
「はじめまして、雛御前さま。私、秘密結社≪
神沢優はさすがに丁重な態度で雛御前に接していた。
八咫烏は天平十六年十一月(西暦744年)に
陰陽道の賀茂保憲や賀茂光栄などは吉備真備の子孫だと言われていて、吉備真備は備中国下道郡(岡山県倉敷市真備町)出身で陰陽道の開祖でもある。
吉備真備と共に遣唐使として唐に渡って重用され、ついに日本に帰国できなかった阿部仲麻呂の息子の満月丸の子孫が安倍清明だという説もある。
唐での吉備真備の活躍は『吉備大臣入唐絵巻』などに記されていて、阿部仲麻呂の生霊(鬼)によって難解な「野馬台の詩」の解読、囲碁の勝負などを切り抜けたと言われている。
無理難題を吹っかけて吉備真備を困らせてやろうとした唐の宮廷貴族は最後は吉備真備を高い楼に閉じ込めて食を断って殺害しようとした。が、吉備真備が双六の秘儀によって日月を封じたため、唐人は怖れ驚いて真備を釈放し日本に帰国できたという。
「いや、カオル殿はよくやってくれている。それと少し願いがあるのだが、そこの神楽舞とやらと一緒に巫女舞をひとさし舞ってみたいのだが」
突然のご指名で舞はかなり動揺した。
雛御前は滑るような足捌きで舞の側に来るとにっこり笑って
「そなた、丹波の青垣の生まれじゃろ。白拍子の素質がある」
雛御前の黄金の双眸が輝いた。
「白拍子ですか?」
舞は小首をかしげた。
「白拍子は平安時代の巫女舞じゃ。平清盛の愛妾の
結局、自慢かよ!と突っ込みを入れたくなったが、
舞はしばらく操り人形のように巫女舞を練習させられていたが、次第に自分の身体が自然に動くようになっていった。
舞の過去世の記憶か、潜在意識の中から何かが現れようとしていた。
いつのまにか、平安貴族のような装束の男が現れて、鼓を打ち、笛を吹きはじめた。
雛御前が舞いはじめ、舞もそれに
舞の中に懐かしい記憶の感触が形となって、身体は自然に舞いはじめた。
雛御前が鈴を手に持ち、鳴らしはじめた。
右に旋回、左に旋回しては、それを繰り返していく。
陰陽五行説の陰陽の舞である。
雛御前と神楽舞は次第に激しく踊りながら、舞の意識はトランス状態に導かれていく。
黄金の光が円山公園の地面から天に向かって伸びていく。
幾本もの黄金の光の柱が天空へ伸びていき、光の粒子が辺りを包んでいった。
黄金の
それは雛流しに蓄積された京都の人々の怨念が浄化され、常世という異世界に帰っていく姿だった。
神楽舞、『雛流しの舞姫』は光の中で舞い続けた。
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