第15話 セーマン ドーマン

 セ―マンドーマンとは陰陽道とも関係してると言われるが、伊勢志摩の海女さんが海の魔物から身を護るための魔除けである。


  五芒星の印の「セ―マン」と格子状の印の「ドーマン」などを、磯手拭てぬぐい、磯ノミ、磯メガネ、襦袢じゅばん、上着の磯ジャツなどに黒糸、澄んだ赤みの紫の「貝紫色」で縫い付けた。漁師のふんどしなどにも使われた。


 海の魔物は、曇天の日、海女そっくりに化けるドッペルゲンガーの「トモカヅキ」、身体をちくちくとさす「山椒ビラシ」、肛門から生き肝を引き抜くという「尻コボシ」、船幽霊の「ボーシン」、海の亡霊「引モーレン」、龍宮からのお迎えなどがいるという。


 五芒星は一筆書きで終わりも始まりもなく魔物が入る余地がなく、無事にも戻って来れるようにという願いも込められいるという。格子は籠目かごめ同様、多くの目で魔物を見張って寄せ付けないと言われている。


 

 陰陽道においては安倍晴明あべのせいめい由来の「セーマン」(晴明桔梗、晴明紋、五芒星)、晴明のライバルだった芦屋道満あしやどうまん由来の「ドーマン」(九字格子)だと言われている。


 京都という呪術都市においても、風水によって碁盤の目のような通りで各所の神社仏閣を結ぶことで結界が形成されていた。


 それに加えて、安倍晴明の時代に五芒星の結界によってさらに強化されたようです。

 

 「セーマンドーマン」とは「星が満ちて 道を満たす」という意味もあり、≪泰 星シリウス≫の光のエネルギーを京都の道に満たして霊的なバリアのようなものを創り上げているらしい。



 

「カオルお姉ちゃん、子猫と子犬ちゃんにも『ひつまぶし』あげてもいい?」


 カオルは雛子の声で我に返った。スマホのから顔を上げて、雛子の足元にいる可愛らしい子猫と子犬をみる。

 金色の瞳の猫と犬が小首をかしげて、物欲しそうにカオルの方を見上げていた。

 子犬は狼の子供のような感じだし、子猫は額にかわいらしい一角獣のツノのようなものがついていた。

 この二匹もどうも何かの「もののけ」のようだが、害意は感じられないので、まあ、大丈夫だろう。

 

 そこは鴨川沿いの京都中京区先斗町のうなぎの名店『いずもや』である。四階の椅子席に三人は陣取っていた。そこから四条通を東に向かうと八坂神社はすぐそこである。

 とりあえず、戦の前の腹ごしらえということで、三人は早めの夕食をとることにした。

 といっても、すでに夕方の六時である。


「仕方ないわね。あげてもいいわよ。店の人に見つからないようにしてね」


「大丈夫。店の人には見えないから」


 にっこり笑った雛子は小さな手で子猫と子犬とひつまぶしとご飯を少し与えた。

 あっという間に食べ終わったが、子猫と子犬は小さな舌で雛子の手をペロペロと舐めている。


「カオルお姉ちゃん、もう一杯、『ひつまぶし』食べてもいいよね?」


 悪童丸は漆黒の瞳をキラキラさせて、甘えたような声を出す。

 三杯目のひつまぶしを平らげて、四杯目をおかわりしたいらしい。

 

「坊主、よく食うなあ。小さいのに大したものだ。おじさんがおごってやるから、いくらでも喰え!」


 夕食代が二万円に届きそうな勢いにカオルが渋い顔をしていると、隣の恰幅のいい社長風の初老の紳士が助け船を出してくれた。


「本当にすいませんねえ、小さいのに大食漢なもので。申し訳ないですが、お言葉に甘えさせて頂きます」


 かなり気が引けたが、財政難のカオルとしてはここは有り難い申し出に素直に従うことにした。

 

「坊主は今年で何歳かな?」


 紳士が悪童丸に話しかけた。


「うん、1600歳ぐらいかな? よくわかんないや」


「え?」


「いや、六歳です。ちょっと、いたずら盛りで……」 


「いや、それぐらいの歳はそんなもんだよ。私も餓鬼の頃もやんちゃっだったよ」


 と初老の紳士は何故かご機嫌だった。 


 カオルはほっとして、スマホに目を落とすと、八坂神社の境内の地図と伝説などを調べ始めた。

 道術士がネットとスマホで情報収集というのも何か違和感がある気もするが、使えるものは何でも使うのがカオルのポリシーだった。


 ネットに全ての真実があるとも思わないが、きっかけ、兆し、ヒントだけでもあれば、現実の肌触りと擦り合わせれば、何か見えてくるかもしれないと思っている。


 鬼が出るか蛇がでるかどっちも出そうな気もするが、まずは腹ごしらえを済ませた三人に死角はなかったが、油断はあったかもしれない。


 

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