第16話 八坂神社の謎
カオルは八坂神社の朱塗りの西楼門を見上げた。
童子姿の悪童丸、雛子と狼の子供のような子犬と角が生えた子猫も憑いてきている。
カオルの使い魔と、大体、正体が分かってきた物の怪一行である。
右手に八坂神社と刻まれた石碑、門の左右には二頭の青銅製の狛犬が目に入る。
門の両脇は平安時代の貴族の護衛役である「
正門は南楼門であるが、観光客は祇園の待ち合わせスポットである西楼門から入って南楼門に抜ける人も多い。古くは
主祭神は
全国に約2300社の八坂神社や素戔嗚尊を祭神とする神社の総本社である。
「カオル殿、ワシは陰陽師、安倍晴明の式神の中でも随一の美貌を誇る『雛御前』と申す。生前はカオル殿と同じ道術使い、
さっきまで幼女姿だった雛子は、急に背が伸びて華麗な十二単衣をまとった十四歳ぐらいの美少女に変化していた。まるで雛人形のようだった。
呪禁師は元々、道教の呪術で邪気を祓う治療などを行う呪医である。律令制においては典薬寮に所属していたが、
「いや、幼女キャラは捨てたんですか? 今度はロリババアキャラですか?」
「失礼な! あれは世を忍ぶ仮の姿じゃ。本来の姿に戻ったまでじゃ」
「そうなんだ」
「こちらはワシの使い魔の≪
子犬は精悍な狼になり、子猫は一角獣のような角を生やした猫というより大型の虎に変化していた。
何か伝承とイメージが違うんだけど、まあ、いいか。
「押しかけ式神かい! いや、使い魔は悪童丸がいるし」
悪童丸もあきれて、コクリうなづいている。
「カオル殿は冷たいのう。ワシも晴明殿が作った京の結界を守りたい一心で、一条戻り橋の下の異界からこっそりつけてきてたのじゃ」
「全然、こっそりじゃないじゃん。ストーカーじゃん!」
「いや、スサノオ殿から頂いた≪八重垣の剣≫もおまけにつけておくから、何とか頼む!」
何かカオル好みの青銅の破邪の直刀≪八重垣の剣≫をみせびらかす雛子改め、雛御前である。
いいとこ突いてくるなあ。
「いや、年齢詐称ですか、一体、何歳なんですか!」
「それは、ひ・み・つ」
唇の前に人差し指を当てる。
ちょっとかわいい。
「いや、恥かしがるような歳じゃないでしょう」
「最近、常世も平和で暇なんじゃ。退屈で退屈で……。式神は使ってくれる人がいないと現世に出れないので、頼む、カオル殿!」
「退屈しのぎかい! もう、彷徨い出てるじゃん!」
はあ、とため息をつくカオルであった。
が、しばらくうなだれて寂しそうにしてる雛御前についつい同情してしまう。
「はいはい、わかりましたよ。確かに、何が出るか分からなので戦力アップは歓迎ではあるし。その≪八重垣の剣≫も下さい」
「ほほほほ、カオル殿もお目が高い。しかし、カオル殿は贈り物に弱いタイプじゃのう」
「雛御前、後半は心の中でつぶやいて下さい!」
ということで、吉備団子もないのに押しかけ式神の雛御前、犬神と猫鬼を獲得したカオルであったが、ひとまず、八坂神社の西楼門をくぐって、結界の綻びを探索することにした。
八坂神社の下には巨大な地底湖があってそこに龍が棲んでいるという伝説がある。
たぶん、風水の大地の気の流れ≪龍穴≫のことだと思うが、本殿の下に深い井戸があり、京都の龍脈はこの龍穴と神泉苑を通っているいわれている。
神泉苑は中京区の二条城の南側にあるが、京都の東西を結ぶ龍脈のひとつである。
龍だとか、それを抑えるためのスサノオ命とか、八坂、八王子、八門遁甲とかのマジックナンバー≪八≫がどうも気になる。
嫌な予感しかしないカオルであったが、本殿に向かって歩くことにした。
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