第4話 神奈川ではなかった
帰宅したらボクサーブリーフのウィキを調べるとしよう。
今日から俺の渾名は「ボクサー」に決定されるだろうから。
保健室から教室まで戻る途中、くしゃみを一回、小を一回、撮影されること三回。
間、格好はボクサーブリーフ一枚のみ。
安心して下さい穿いてますよの先駆けである。
「……お前の下着を見せられた所で、私がお前の言うことを聞く理由はないよな」
「そりゃそうだ」
1-B教室に通じる廊下に差し掛かると、カノンが俺を露骨に引き止めた。
奴の心裏など手に取るように分かる、このまま俺を恥さらしにしたいらしいな。
だが、
「だが、俺が下着姿で他の生徒は金に物を言わせた制服を着ているのは不平等だよな?」
「それもそうだな」
奴の心裏など手に取るように分かる、と誤解していた。
奴の下着など萎えるものばかりと、そう思っていたのに。
カノンはスカートの裾を手繰り、チラチラと俺を扇情している。
見えそうで見えない眼福ぇ……ですよね、って俺は誰に同意を求めているんだ。
「なぁ、ここってもしかして私服登校ってありだったのかな」
奴が俺を扇情している雰囲気が気に食わなくて、話題を唐突に切り替える。
ここに辿り着くまでの間、制服を着てない若人を俺は目にしていた。
見た目からこの学校の生徒なのは分かるんだけど。
「恐らくな、私達の担任が担任だけに、そこら辺も独自で洞察するしかないんじゃないか」
「じゃあ明日からは私服でいいか」
「ミオは怒られたら内申点が下がるとか端から頭にないようだ」
その日の俺はボクサーブリーフの格好でそのまま過ごした。
酷いのは俺の就学態度ではない、上には上が居るって言葉を使わせて貰えるなら。
酷いのは、1-Bの担任であるモモノ先生だ。
あの人、白髪が堂に入っている美人だからって全HRをサボタージュする人なんだぞ。
モモノ先生は帰りのHRの時、同僚の真白先生に引き連れられ渋々やって来ては。
「……はぁ、諸君、今日のHRは長くなるぞ」その発言を残して、モモノ先生は一学期に説明なされるであろうHRを前倒しにしてしまったんだ。
その後HRが終わったのは午後8時、夕日は沈み月光が常士市を照らしていた。
「では解散、言っておくが、今の内容を後で確認取りに来た奴は退学だからな」
――退学だからな……穏やかじゃないな。
この前刑事ドラマを観てたら、犯人の動機が退学云々に関わる内容のものだったぞ。
――ボクは死なん!!
夜の学校は怖い所だと、俺はこの奇声を聴いて知る。
長い長いHRのせいだ、初日に一学期分のHR全てやるなんて聞いたことねぇよ。
僕は死なん? まさか自殺か……と思って玄関前から校舎屋上へ目をやると。
――アーイキャーン!!
「フライすなッ!!」
俺は自殺の瞬間を見たくない一心で絶叫した。
――こっち来なよ。
屋上に居る生徒は俺を誘き寄せているガクブル。
自殺の瞬間は見たくない→けれども屋上に向かうつもりもない→よし帰ろう。
という三段思考で俺は直帰することを選択した。
――四十秒で支度しな!!
さすがに四十秒じゃ何も出来ねーよドーラ船長。
そして俺はその日知ったんだ。
あの学校の必須科目には【大砲】があるけども、
それは世界的に見て、特殊ではない。
今日の一限目の【大砲】が気になって、家でネットサーフィンすれば色々と思い知らされた。
現状の国内情勢は冷戦状態にあること。
何しろネット情報のため信憑性は把握し辛い。
と思ってテレビを点けてニュースを観ても、現状では印象操作の疑惑ももたげる。
それに何より――
何より、この世界は明らかに俺の知っている地球、日本、神奈川ではなかった。
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