第3話 少しおかしい
「ミオ」
男から女へと変貌してしまったカノン、この子が俺の知ってる鹿野カノンで合っているのか。俺は確証を得ようとカノンを詰問攻めにした。
「お前の女性遍歴って、最初が靖田、次にモリさん、カスガさんと来て」
ひいふうみいと、奴が女にモテテいた事実を俺は証言している。
時にカノンは最大で五股をやっていた背徳者、俺からすれば、
――悪の権化。
それが鹿野カノンって奴の本性だ。
「くだらないなぁミオ、お前はいつもいつも、私を
奴が俺を知っていて、加えて奴は俺の僻みを具体的に回想している。
ともすれば、目前に居るこの子は俺の知っている鹿野カノンなん、だって知らんがな。
俺の知ってる鹿野カノンは男だぞッッ!!
「見ろミオ、一年次の必須科目欄を見てみろ」
「んぁ? あ、あぁ、とりあえずお前はこの後で俺の家に来いよ」
とりあえず、この後でこいつの身体検査をしなければ俺の心は落ち着かない。
必須科目:【大砲】
奴に言われて必須科目の項目に目を通せば、この様な科目が混じっているのに気付いた。
大砲、ってなーに?
「何だろうな、この大砲って授業」
「は?」
とか、奴から無粋な言葉を掛けられると本当に腹立つ。ほんとに腹立つっ。
胸揉んだろか胸、揉みしだいてやろうか。
「いや、分かった。とにかく今日の所は帰ろう」
「あぁじゃあな」
「一緒に帰らないのか?」
カノンは片手を上げて他へ向かおうとしていた、察するに逃げるおつもりですね。
「一緒に帰りたいのか?」
俺が? こいつと? 一緒に? かえ? る?
まぁいいまぁいい、とりあえず俺が大人になろうじゃないか。冷静になって考えれば、今カノンのスカートを捲り、下着を剥いで股間を確認すればいい訳で。
「何だ、止めろよ」
「いやちょっとした確認」
「はあ? いい加減にしないとぶち殺すぞ」
「穏やかじゃないな、事は穏便に、ってことでちょっと、ちょっと動くな馬鹿野郎!」
次の瞬間、俺はクラス中の女子やら男子からボコにされ、大顰蹙を買っていた。
カノンの下着を剥ぐ所まではいかなかったが、奴の下着を
だが、
そんな奴の矮小な色香を上回る美少女が、俺の視界に入ったからには呆然とするしかなった。
その人は正門で小首を傾げ、俺を、見詰めている?
長く腰元まで伸び行く黒髪はあの人の流麗な存在感に拍車を掛け、深い藍色の瞳は見る物を恍惚とさせる。常識に囚われない抜群のスタイルは絹の様な肌に包まれて、傾国美人、国を傾かせる美しさとはこのことを言うんじゃないか。
「……違うよな」
俺は正門でその美人とすれ違った、恰好から察するに、内の生徒ではなさそうだ。
気のせいなのか、俺とすれ違いざまあの人は「違うよな」と確認していたみたいだが。
何にしろ、俺には高嶺の花過ぎる。
あの美貌にして、凛とした美声、もしや芸能人かモデルだったりしないか。
――春休み――
3月1日に卒業してから、4月8日までの期間は入学式を除けば春休みだ。
卒業旅行なんて無かったが、きっとカノンの奴は誰かしらと卒業旅行にも行っているだろう。
奴は人間関係を清算しようと、常士学園にやって来たと言っていた。
この春休みは今まで受験勉強で使い果たした精根を滋養させ、
蓄積された鬱憤を春の陽気に乗ってパッパラパーと解き放つんだお。
それが不肖、火疋澪の有意義な春休みの使い方である。
まずは……何をしようか。
「ドゥアァアアァァ!! ア! アァァ! あ、夢か……夢で、夢で在って欲しいと願えば、全てが夢になるんだな、トゥフフ」
西暦2013年4月8日、その日は悪夢を見ることから始まる。
今日から授業も始まるし、辛い面持ちを洗顔で払拭して、気持ちを切り替えるとしよう。
「ん? 何やってんだ」
「待ってたんだよ」
玄関を開ければ女子に変貌した幼馴染のカノンが家先で待っていた。
朝の挨拶を交わすこともなく、まず俺は問い質した。
「それにしてもお前、重装備じゃね?」
カノンはこれから卒業旅行にでも向かうのか、と言いたくなる程の大荷物だ。
「悪いな、私一人でこれを運ぶのは骨が折れるとこだったんだ」
「……ファックユー、お前にだけは死んでも使われたくないんだよな」
「あっそう」
そう言ってカノンは荷物の一部を俺に寄越す、アッツカマシー。
「い、いいぜカノン、これ持ってやる代わりにお前の下着見せろよ」
「お前は私をどんな風に見てるんだ?」
俺はカノンのことなどフトヒゲムシぐらいにしか思ってない。
けど、俺の要望に応え、公の場で潔くスカートを捲り下着を顕わにするコイツはっ、出来る。
「これからもこの手を常用しよう」
「それは何だ、下着を見られるぐらいどうってことないって意味か」
「っ今さら、下着を見る見ないでどうこう言う程じゃない、お前限定でな」
何だろう、この違和感……俺とカノンの間に決定的な
にしてもこの荷物重いよ、重い重い、重いな重いな。大事なことだから何べんも言ってやる。
「煩いぞ」
家から常士学園までの道のりは徒歩でバス停まで行き駅へと向かい、鉄道を伝って学園の最寄り駅から徒歩で正門へと向かう。途中コンビニに寄り道するのも可だ、校則違反らしいって噂だけどな。
正門へ辿り着くと、カノンは「ありがとう助かった」らしくなく俺への感謝を口にした。
普段のカノンであれば鼻に付く態度でありがとうの一言も言わない所なのにな。
* * *
オカシイと思ったんだ。
まず唐突に幼馴染が男から女へと性転換したこと、それも一瞬の内にだ。
そして決定的だったのは一限目の【大砲】という必須科目が始まった時だった。
(常士学園には奇特な授業があるんだな)、そんなことを思いつつ体操着に着替えれば。
――地獄。
一限目は初っ端から地獄絵図と化した。
――――ッッッ!!
鼓膜を劈く爆音が辺り一帯を震撼させれば、
――――ッッッ!!
大砲に次弾が装填され、第二撃目が敵陣に放たれる。
俺は広大な校庭に構えられた自陣後方で呆然自失としていた。
その時、クラスメイトのマナベが今さら感満載のことを口にした。
「やばい!」
何が!? ヤバイって何がさあ! これがお前等の危機管理能力か! 大したこたぁねぇな!
「このままだと四面楚歌になって敗北する、誰か他クラスに共同戦線を持ち掛けて来い!」
クラス対抗戦で、出し抜き合いが勃発している。
そして何を発狂したのか、クラスの連中は弾が切れたと同時に大砲を担いで敵陣に特攻を仕掛けやがった。敵もこちらを真似て大砲を担いで正面から特攻して来やがった。砲身と砲身が
「生きてるぁああああああ!! あ、あぁ……夢か、そうだ俺が夢で在れと思えば全てが夢になるんだふふ」
「……可笑しな奴だ、この私の未来予測を以てしてもこうなることは予想出来なかった」
「センセイ」
目が覚めたら隣にモモノ先生が居て、心臓は良い意味で鼓動した。
服は体操着のまま、白いカーテンと壁とベッド、医療品から察するに場所は保健室。
これはもしかして、
「出席番号24番、火疋澪……お前にちょっと話がある」
先生は神妙な面持ちで、丸椅子から鏡面張りの床に立ち、俺に近寄って来て。
近寄って来て、俺の衣服を引き裂いた。
「アァッ!」
「妙な声を出すな、すぐに終わる」
先生は「ウァっ!」俺の「いぃ」言葉を無視して「ら、め」俺の身体を弄っている。
先生の指先は冷たくて、にゅるにゅると俺の身体を這って行く触手プレイみたいだ。
「……フゥー」
凌辱が一通り済まされると、先生は煙草を吸い始める。
酷いなどと思ってはいけない、ここはこの鬼悪魔、汚されちゃったと思うべきだろう。
「火疋澪」
先生が持つ低音の声帯に、俺の心は惹きつけられた。
「お前、生まれはどこだ?」
――生まれ? 俺の生まれは「日本の神奈川県の常士市の外れですよ」だが、だがどうにも納得がいかない。
自分の出自に違和感を覚えるというか。
「まぁいい、いずれお前もあの寮に辿り着くことだろうさ。その時になって改めて訊かせて貰うぞ、お前がどう言う存在なのかしばらく外で考えろ」
先生は俺を廊下に締め出し、保健室の前で下着姿のまま棒立ちになって俺は。
「……ちょっと、違う、少しおかしい、てか――変だ」
自分の身に起こった異常事態を看過出来ず、つい口から疑念を零していた。
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