第10話 天の浮船
日御子とナシメとアヤタチと洋子の四人は天皇陵の墳頂で拘束されたまま、すでに一時間近くが経とうとしていた。
群長は近くで頻繁に外部の部隊と交信しているようだった。その間も『かごめかごめ』の大合唱は大きなうねりのように続いており、そのために、日御子たちの扱いに慎重になって動きが取れなくなっているのだろう。
確かに現状のまま、日御子を拘束して天皇陵の外に出れば、それを見た何千何万もの信者たちがどういう行動に出るか予測がつかない。日御子自身は信者たちに害意はないと言ったが、周囲を圧倒し、そして刻一刻と人数が増えているのがその声量でわかるだけに簡単にその言葉を信用するわけにはいかなかった。
「群長、誰かこの陵内に侵入した者がいます」
ナシメが使っていたセンサーを注視していた隊員の一人が群長に報告した。
「侵入者は一人。我々と同じルートを通って墳頂に近づいてきます」
「ひとり? 」怪訝な顔で群長は呟き、そして日御子を見た。
彼女も何も知らないらしく首を振った。
「間もなく侵入者がここへ着きます」
隊員の報告に、群長の周りにいた数名が自らが辿ってきた森に向かってM4カービン銃を構えた。
その場の全員が緊張した面持ちで侵入者の姿が現れるのを注視していた。
がさがさと無造作に樹木を揺らしながら彼は出てきた。
「尾田さん」
洋子が一番に叫んだ。
内閣調査室の尾田だった。同じ内調の所属とはいえ、内勤が主な尾田と年中世界中を飛び回っている洋子とでは、ほとんど接点は無かったがお互いの顔と名前ぐらいは知っていた。
「一体何をしに来たんですか」
群長は左手で周囲の隊員に構えていた銃をおろすよう指示すると冷ややかな口調で言った。
「予定通りテロリストの身柄は確保しました。あとはこの『かごめかごめ』の大合唱からどうやって彼らを勾引するかだけの問題です」
その言葉には明らかに(今更もうあなたの出番はありませんよ)という感情が読み取れた。
反発を押し殺して、群長の言葉を無視するかのように尾田は胸ポケットから携帯を出すと多分着信リダイヤルと思われる操作を行なってどこかに電話をかけはじめた。
洋子やアヤタチ、日御子、そして特殊作戦群隊員の視線の中心で尾田は携帯電話で話し始めた。
「はい、今ようやく天皇陵の頂上に着きました。はい、特殊作戦群により身柄は確保されていますが、怪我などはないようです。ええ、ご安心ください」
(この非常時に一体誰と話しているんだ)
群長の思いが伝わったかのように、尾田の会話が止まった。
「はい、それでは群長と代わります」そして携帯を差し出すと言った。
「皇宮掌典長だ。君と話したいそうだ」
「掌典長?何者ですか?」
群長は掌典長という役職自体知らないらしい。無理も無い。日々戦闘訓練に明け暮れる彼らには縁の無い存在には間違いない。
「皇室にあって祭祀を取り仕切る役割を持つ人の長が掌典長です。旧皇族、華族から選任される皇室の私的使用人ですが、時によっては陛下の身代わりとして宮中祭祀で代拝することもあります。皇太子でさえ許されていない宮中祭祀の代拝を掌典長のみが務めることが出来る、まさに天皇陛下の影武者のような存在だと思っていいでしょう」
尾田の説明に少したじろぎながら群長は渡された携帯を耳に当てた。
「私が陸上自衛隊特殊作戦群長です」
「群長ですね。電話を代わりますから少しお待ちください」
掌典長だと思っていたが、今のは取次ぎの人か、と思っていると、携帯から別の声が聞こえた。
「あなたが特殊作戦群の山本群長ですね」
その声に聞き覚えがあると同時に、相手が自衛隊特殊部隊の最高機密のひとつである自分の本名を知っていることに群長は驚いた。
「はい、山本であります」
群長はまさかと思いながらも直立不動の体勢をとって答えた。
携帯の向こうの声が続けた。
「残念ながら、いろいろな制約があって、私は名乗ることが出来ません。またあなたに命令をすることも出来ません。ただあなたの本名を知ることが出来る立場にいることで想像していただくしかありません。山本一佐」
群長は体に震えが走るのを感じていた。この声、この話し方は日本の象徴とされるあの方に違いない。そしてそれが嘘や物まねでないことは、防衛上の最高機密のひとつである自分の本名と階級を知っていることが証明している。
「これは命令ではありません。あくまでもお願いです」
携帯の向こうの、あの聞き覚えのあるまろやかで優しい語り口調の声が言った。
「あなたが任務に忠実であることは承知しておりますが、どうかそこにいる女性を解放していただけませんか?」
とっさに群長は洋子のことだと思った。
「はい。内閣調査室の女性はすぐに解放いたします」
「いえ、私が言っているのは、もうひとりの女性です」
そこで群長は初めて相手が日御子の解放を依頼しているのだと悟った。
「ですが、陛下、この女性ともう一人の男は核物質を使って政府転覆をを図った者です」
「陛下という呼び方は今はやめてください」
あの声が群長の反論を遮った。
「山本一佐、あなたの言いたいことはわかります。それを承知のうえでお願いをしています」
「はっ」
「その女性は私達と千年以上の深いをもつ一族の人なのです。ある時は協力し、ある時は反目しながらも、互いに必要とし交わってきた間柄なのです。私達の関係は、日本の近代化以後、ほんの百五十年足らずの価値観だけで否定できるものではありません。まして私の代でその女性を犯罪者として拘束してしまうことは脈々と受け継がれてきた私の一族自身を否定することと同じなのです」
その尊い声の主の内容はよくわからなかったが、目前の女性に対しての深い畏敬の念、尊崇の気持ちが込められていることは感じられた。そして声の主が誰であるか理解した以上、日本人としてこれ以上相手に説明を求めたり、反論することは出来なかった。
「かしこまりました」
群長の言葉に携帯の向こうで一瞬安堵の沈黙が流れた。
「無理を聞いてくれてありがとう」
そして
「少し彼女と代わってもらえますか」と言われ、群長はそれが日御子のことだと悟った。
しかし、両腕を拘束されたままの日御子に携帯を渡すことが出来ない。
「少しお待ちください」
そう言って彼は携帯を部下に一度手渡すと、装備品のナイフで日御子のフレックスカフを切断した。
両手が自由になったのを確認して、日御子が軽く微笑んでお辞儀をしたが、群長は目をあわさず携帯を手渡した。
相手が誰かわかっているように彼女は携帯を耳に当てた。
「代わりました」
静かに答えた日御子は小さく頷きながら相手の話を聴いていた。
「大変光栄なお話ですが、遠慮させていただきます」
彼女はきっぱりとした口調で何かを拒否していた。もし電話の相手が群長の予想通りであったとすれば、その方の申し出をこのように断る日御子に驚くだけだが、彼女の言葉には不思議と不敬とか、反感といった感情は持てなかった。
「わかりました。おっしゃるとおりにいたします」そう言って通話ボタンを切ると群長に携帯を返した。
「すぐに迎えを寄こすので、とにかく一度ここを出て欲しいそうです」
「迎え?」
そう聞きなおした群長の問いに返事を待つことなく日御子はナシメを呼び寄せた。
半ば放心状態が続いていたナシメの耳元にほんの数言、何かを囁くとすぐに日御子は彼の傍を離れた。
東の方向から大型ヘリの音が響いた。
その音は瞬く間に天皇陵に近づき、信者の『かごめかごめ』の大合唱をかき消して墳頂上空にとどまった。
「スーパーピューマか・・・」
そのローター音を聞いただけで群長はユーロコプター社の大型汎用ヘリEC225シュペルピューマMKⅡ+であることを悟った。
果たして宙を見上げると、夜空に全長二十メートル近い巨大な黒い影がホバリング状態で静止している。
知らぬ間に月が昇っていた。
満月だった。
月明かりに照らされたその機体をあらためて凝視して群長は驚いた。
白い機体の後方には日の丸が描かれ、上部を青く塗られたそのヘリは群長が所属する防衛大臣直轄の陸上自衛隊中央即応集団の隷下、第一ヘリコプター団のスーパーピューマに違いなかった。それも最近、導入されたばかりのその機体は、要人輸送を任務とし、皇族、政府要人、国賓クラスの輸送を目的として、機内にラウンジまで設けられた最新鋭の一機だった。
あらためて先程の電話の主が本物であったことを思い知ると共に、電話を切ってまだ数分しか経っていないこの状況で国内最上級のヘリを呼び寄せる眼前の日御子の力におののきが込み上げてきた。
ホバリングしている機体からスルスルとレスキュー用のロープが降りてくると、そのロープに接続された金具を伝ってひとりの隊員が降下してきた。
さすがに自衛隊トップクラスの技術をもった隊員が操縦しているのだろう、ほんの狭い梢の間の空間を狙って何の造作も無いように彼は墳頂の日御子たちが祈っていた祭壇の脇に降り立った。
群長は、相手が自衛隊の礼式に基づき敬礼しながら所属と氏名を告げようとするのを首を振って拒んだ。
現在の状況が自衛隊として法的に認められた任務の範疇を超えていると感じたからだ。
そして『勝手にしろ』といった仕草で日御子を指差した。
ヘリの隊員は自分が救助する相手がこれほど若く美しい女性だと思っていなかったのか、一瞬たじろいだ。気圧されるように日御子を呆然と見ていたが、すぐに自らの任務を思い出したのか、ヘリのローター音に掻き消されないように、そして口の動きで内容が伝わるように大きく口を開けながら言った。
「命令によりお迎えに参りました。あなたをこのままヘリで玄界灘の孤島、沖の島までお連れするように指示されています」
小さく頷いた日御子に対し、遠慮がちに彼女の体に直接自分の手が触れないように安全帯のハーネスを装着した。
彼女はブランコのような金具のついたロープの先端に腰掛けた。
隊員が上空に向かい、OKの仕草を取ると、ロープはゆっくりと巻き上げられた。
地上を離れた日御子は、まるで、すぐ近所に買い物に行くかのように、何の躊躇も無くアヤタチや洋子、そして群長と尾田に対して軽く会釈をしただけで、空中ブランコに乗るサーカスの花形のように笑顔のまま上空に上っていく。
満月の夜空を背景に宙に舞う日御子はまさに息を呑むような美しさだった。
最後に彼女の姿がヘリの機体に吸い込まれるように消えたとき、洋子は思わず感動的な舞台の幕が下りた瞬間のような錯覚を覚えた。
全員が見守る中、もう一度ロープが降りてきてヘリコプター隊の隊員を吊り下げ、回収すると、スーパーピューマは機体を西に向けてあっけなく飛び去っていった。
ローター音が消えた後には、何かを悟ったのか、あの「かごめかごめ」の合唱も止み、静かに地上を照らす満月の光だけが周囲に満ちている。
「さて、ワイらはいったいどうなるんや?」
静寂を破るかのようにアヤタチが尾田と群長に向かってフレックスカフで拘束された両手を示した。
二人は顔を見合わせた。
戦後初めての内閣総理大臣による治安出動命令により出動した尾田と群長であったが、騒乱の首謀者を一度は確保しながら、目の前で再び解放してしまった事実をどう決着してよいか二人とも分からなかった。
命令違反も、重大な過失も無かった筈だが結果として、日御子を逃がしたのは二人だった。勿論スーパーピューマを派遣してきた陸上自衛隊の上層部は、先程の電話の主の意向を受けての行動であろうが、今後そのことが表沙汰になるとは思えなかった。
何故なら象徴でしかない電話の主には、法律上何の命令権も無い。だからこそあの時、あの方は、『これは命令ではありません。あくまでもお願いです』とわざわざことわったのだ。彼らの組織の最高指揮権は総理大臣にある。
その総理の命令に従わず、日御子を解放した今、その場に残された、アヤタチ、洋子、そしてナシメと前方部にいる筈の三人の処置をどうすれば良いのか、尾田と群長は途方にくれるしかなかった。
その時、尾田の携帯から『威風堂々』第一番のメロディーが流れた。
それは彼が所属する内閣情報調査室からの直通電話であることを知らせる着信音だ。
「はい、尾田です」
電話の相手は内閣情報調査室のトップにあたる内閣情報官からだった。
直立の姿勢で電話を耳にあて、尾田は何度か「はい」と返事をしていた。会話のほとんどは相手が喋っているようだ。
数分後、こちらはほとんど返事だけで、相手が一方的に喋って電話は切れた。そして尾田が大きなため息をついた。
「何か状況に変化でもありましたか?」
群長の問いに尾田が答えた。
「君にも伝えてほしいそうだ。先程内閣官房長官からの連絡で、総理の治安出動命令は間違いだったそうだ」
「間違いってどういうことですか?」
気色ばむ群長に対し尾田は冷静だった。
「治安出動命令は、官房長官の伝達ミスで、実際には化学工場火災に対する自衛隊法第八十三条二項本文に基づく住民の安全確保のための『災害派遣命令』だったそうだ」
「伝達ミスって馬鹿なっ。こんな重大な局面でそんなミス有り得ないだろう」
そう叫びながら、同時に群長もそれが実際のミスでは無いことを悟った。
「そうか、そういうシナリオに変更になったわけか」
「そして、既に化学工場の火災はほぼ鎮火し、自衛隊には撤収命令が出されるそうだ」
「それじゃあ、この天皇陵で起こったことは一切何もなかったことになるのか?俺たちは負傷者まで出して、単なるピエロ役じゃないか?」
憤る群長に対し尾田が慰めるように言った。
「幸い、死人や重傷者は出ていない。それにこれは私の考えだが、このシナリオはもしかしたら先ほどの電話の主が手を回してくれたのかも知れない」
確かに天皇陵に立て籠もるテロリスト制圧のための治安出動であれば、理由はどうあれ、その首謀者の逃亡を黙認した尾田と群長の責任は免れない。しかし災害派遣命令なら、テロリストなど最初から存在しなかったことで彼らには何の責任も無くなる。あとは真の事情を知っている政府上層部と一部の関係者が口をつぐみさえすれば真実がマスコミに漏れる恐れもほとんどない。
電話の主はすべてを知っていて、自らの依頼に沿ってくれた尾田と群長の責任を問われないように裏から官邸に手を回してくれたのかもしれない。
そう考えると群長も、これが最善の方法かもしれないと感じた。
「しかし、この陵の周りに集まっている何万人もの『日御子の光』教団信者はどうする?」思い出したように群長が声を上げた。
「再び、主導権は私の手に戻ったようですね」
ナシメが小さく呟いた。その眼には何かが憑いたような不気味な光を宿している。
「災害派遣命令ということは、当然ですが、治安出動とは違い、自衛隊といえども強制避難や建物の撤去など応急的に警察権の一部を行使することが認められるのみで、逮捕権などは認められていないわけですから、私達の拘束は既に無効だ思っていいのですね」
ナシメはかつての外交官時代に戻ったかのように自信に満ちた表情で確認を求めた。
「しかし、あなた方は我々の行動を阻止しようとして何人かの部下を負傷させた。公務執行妨害による現行犯逮捕は認められる余地がある」群長の反論に対し、
「残念ながら妨害をしたのは、あなた方と同じ公務員であるこちらのお二人で私は関係ない」笑いながらナシメはアヤタチと洋子を指差しながら言った。
「それに公務執行妨害を成立させるためにはあなた方がこの天皇陵に侵入することが公務であったことを証明する必要がある。災害派遣による自衛隊がどのような理由で禁足地であるこの天皇陵に侵入したのかを説明しなければならなくなるわけだが、そのためには私や日御子さまがテロリストであることを証明しなければならない。そうなるとテロリストの首謀者である日御子さまの逃亡を幇助した自らの罪を認めざるを得ないし、あなたがここにいる理由が実は災害派遣ではなく、治安出動であったことを証明しなければならない」
勝ち誇ったようにナシメは言った。
「拘束を継続しようとするとジレンマというか、妙なパラドックスに迷い込んでしまうことになりますね」
群長も尾田も何も反論できず、唇を噛んだ。
日御子はともかくとして、目の前のナシメは、元外交官という立場を利用して、武器や、ポロニウムを密輸し、この天皇陵を占領したうえで政府を脅したことは事実なのだ。
しかし、事ここに至ってはナシメの言うとおり、何もなかったことにして、全員この天皇陵から撤退するしか道は無かった。
「政府としてもそれでいいのですね」
苦い表情で群長が尾田に対して念を押した。
「官邸が自衛隊の出動を『災害派遣』としたのであれば、政府の意向はすべてを穏便に闇の中に葬る方針でしょう。とすればあとのマスコミ対策などは官僚に任せて、我々は一刻も早くここを撤収するのが賢明ですね」
尾田は続けた。
「では、ナシメさん、いえ羽田米次郎さん、教団幹部として天皇陵周辺に集結している信者たちに対して撤収命令を出していただけますか?それと前方部にいるあなたの部下たち三人の面倒もお願いします」
「聞こえなかったのですか?主導権は我々に戻ったと言った筈です」
ナシメの冷たい拒絶に群長と尾田が顔を見合わせた。
「日御子さんもいない。ポロニウムもすでに自衛隊によって没収された状況であなた一人で何をしようとしているの」
洋子の声にナシメが答えた。
「たとえ日御子さまがいなくても、私にはこの陵を取り巻く信者をはじめ、全国に広がる『日御子の光教団』の数十万人の信者がいる。彼らは、私の命令ひとつで反体制組織に変わる。そして私には外交官時代の周辺アジア諸国の要人たちとの強力なコネクションがある。日本国政府の後押しが無くても彼らのスキャンダルや闇の人脈を知り尽くしている私に対して、資金面、軍事面でバックアップしてくれる国には事欠かない」
「でも、総理も米軍の脅しに屈してすでにあなたの盟友ではなくなったわ」
「しょせん、彼も私の計画の中では捨て駒に過ぎない。出来れば非暴力革命を目指していたが、ここに至ってはそうも言ってはいられない。とりあえず我々はこの仁徳天皇陵を基点として、教団の梁山泊を作り上げ日本政府と対抗しながら、時を待つことにします。いまや法的に我々に対する警察権を持たない自衛隊と政府の方には、早々にここからお引取りいただきたい」
「それは日御子さまが望んでいることなの?」
洋子の問いにナシメの表情がほんの少歪んだ。彼の日御子に対する忠誠心だけは本物だったのだろう。
思いを振り切るようにナシメは暴走を始めた。
「グリーンペペこと瀬掘洋子さん、そしてアヤタチくん、君たちも私に協力するつもりが無いのだったら、早々にここから出て行って行ってくれないか。アヤタチくん、君の戦闘能力は良くわかっているが、もし君が私に逆らったり、危害を加えるようなことがあれば、陵を囲む信者たちがどのような行動にでるか、保証は出来ない。君一人なら脱出も可能だろうが、瀬掘さんはどうなるのか、私にもわからない」
そんな脅しにもアヤタチは黙っていた。
尾田も群長もその様子を見ていたが、治安出動が取り消された今、彼らに警察権は無い。
唯一、残された方法は本物の警察を呼び、天皇陵への不法侵入の現行犯容疑によりナシメを逮捕することだが、数万の信者が陵を取り囲んでいる状況では、それも難しい。
機動隊を含む大規模な警察力を投入し、信者たちを排除すれば、ナシメの計画は防ぐことが出来るだろうが、そうすれば、これまで秘密裏に動いてきた日本政府と自衛隊の行動の経緯や隠ぺい工作を白日のもとに晒さねばならない。
失うものの大きさに尾田は判断できずに佇むのみだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます