第3話element

elementが必要なのよ・・・彼女はそう呟く、が、elementとは?本来は要素みたいなものや元素の様な物質を指す言葉、それはそうとこの女の出で立ちと言ったら、見る者をギョッとさせる、派手な柄の染め物で仕立てた和服をわざと乱して羽織り、着物の中は腰巻き一丁と言った具合、上半身には下着も着けて居ない、そして、その出で立ちにも充分負けて居ない美貌の持ち主、片膝を立て座って居る、男であれば先ずこの景色を正面から拝見したいと思う筈、が、それよりは・・・

「お頭」と、誰かが和室の障子越しに女を呼ぶ、しかしお頭、とは、まるで野党か盗賊の頭目だ。

「陣内殿から火急の知らせが・・・」そう言い一拍置くと「分かった、明日店に顔を出すと伝えておくれ」そう障子の外に居る者に言う。

「明日じゃ遅いんだがな」又別の声が、低く重たく太い男の声「せっかちな男だねえ」女は呆れた様に呟く。

「いいや、お前に比べれば儂なんぞは可愛いもんよ、なあ、紅緒よ」このお頭と呼ばれる女の名は紅緒、名は体を表すとは正にこれだな。男の方の名はどうやら陣内と言うらしい、が、姿が見えぬ、一体声の主は何処に?

「良いからさっさと出ておいで、何時から其処に居たんだい、この変質者は」と、毒を吐く紅緒

「フフフ・・先程からずっと居ったよ、お前が湯上がりで腰巻き一丁でこの部屋に入って来た辺りからな、いやあ実に良い景色じゃったな」

「アタシの肌なんぞとう見飽きて居るだろうに、まだ見足り無いんかえ?」と艶やかな笑みを浮かべた。「嘗てはこの儂の体躯の下でずいきの涙を流しておったお前だがな、最近はすっかり無沙汰をしているでの」そう陣内は言い、何と壁から抜けて出て来た。「何を言い出すかと思えば、呆れた助平じじいだよ、知らないとでも思ってんのかい?今外に居るうちの楓や椿、遣いにやった娘達にことごとく手を出しおって、お陰でこっちは蜘蛛の巣が張っているよ」と嘯く、この陣内と言う男、精力的にして壁から抜け出るような技の持ち主、一体何者か?

「分かった分かった、又近い内にな、お前との同衾には些か覚悟が居るでの」そう言い宥める陣内にキツく言い渡す様に「その約束、覚えたよ、違えたらその素っ首を吹き飛ばすからね」相当にドスの効いた様子で吐く様に言う紅緒

何故そこまでこの初老とも言うべき男に抱かれたいのかはさて置き「うおっほん・・それはさておきだ、ついに見付けたぞ?やはり儂の読み通り、あやつめ生まれた街に帰って来おったわ」

そう話をはぐらかす様に続ける。

「そうかい、やはり生きて居たんだね?あれほどの手傷を負わせて尚生きて居るとは、矢張り留めを仕損じて居たんだね、アタシとした事が、とんだ間抜けだよ」そう、吐く様に続ける。「あやつと死合う程の要素は手に入れたのか?無ければ又多大な犠牲を払う事になるぞ?」留めをとか多大な犠牲とか、一体何の話をしているのやら、そもそもこの者達は如何なる氏素性の者達なのか?そして、elementとは如何なる物か・・・?


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