第27限 【side:叶】

 桜の木の下に敷いたレジャーシートの上、落着かない様子で、香耶が言う。

「成斗、遅いね? やっぱり駄目だったのかなぁ?」

「じゃあ、賭ける? 成斗が生田を連れて来れるか? 来れないか?」

 からかって笑った俺に、香耶は呆れ顔を向けると、何かを思い出した様に叫んだ。

「あ、そうだ」

「ん?」

「そう言えば、アタシと叶が付き合うってなった日。橋の上で、叶はなんの賭けしてたの?」

「香耶が振り向くか、振り向かないか。もしあの時、香耶が振り向かなかったら、今の俺達はなかっただろうな」

 そう、俺は……あの時、ひとつの大きな賭けをしていた。

 香耶が振り向いたら、自分の気持ちを告げようって――

「じゃあ何? 振り向かなかったら、叶は気持ち伝えてくれなかったってこと?」

「でも、香耶は振り向いた。それで、今の俺達がある。結果オーライだろ?」

「そんなもん!?」

「そんなもんだよ。恋愛なんて危ういもんは、ちょっとした事で、どっちにだって転ぶ。逆に考えれば、それでもこうして一緒にいる今があるんだから、俺達はスゲーってこと」

 俺はむくれ気味だった香耶の頬を、指で小突いて笑う。すると香耶も、満開の桜の下、向日葵の様な眩しい笑顔を俺に向けた。

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