第28限 【side:音央】

 クロスバイクを引きずる成斗くんの横を、あたしはまだ半分夢心地で歩いていた。

 あたしの大学合格祝いとお花見も兼ねて、香耶と叶くんが場所取りをしているところに、成斗くんと二人で向かう。

 桜並木を歩きながら、現実なのか夢なのか、まだよくわからずにいた。そんなあたしに気付いた成斗くんが、優しい声と眼差しを向けて訊く。

「どした?」

「なんかまだ夢みたいだから……」

「じゃあ、起こしてやろっか?」

 悪戯に笑った成斗くんが、何をするかと思えば……チュッ。

 不意打ちもいいところで、あたしに風の様なキスをした。

 起きるどころか、想定外もいいところの出来事に、フリーズしてしまう。

 歩き出していた成斗くんが、フリーズしたままのあたしを振り返って笑った。

「起こしたつもりだったんだけど、もっと濃厚なヤツじゃなきゃダメだった?」

 照れくさいのと恥ずかしいのとで、つい憎まれ口をきいてしまう。

「バッカじゃない!?」

 言うが早いか、走り出したあたしは、

「捕まえたっ」

 成斗くんの左手に、簡単に捕まってしまった。成斗くんはそのままあたしの右手を、クロスバイクのハンドルに置き、その上に自分の左手を重ねる。

 あたしは思わず嬉し涙がこぼれそうになって、急いで顔を上に向けると、まだ水色を残している空を仰いだ。

 ひらひらと散る桜の花びらに、手を伸ばしてみる。

 あともうちょっとというところで、あたしの手をすり抜けていく花びらに向かって、あたしは小さくジャンプした。

「「とれたっ」」

 ハモッた声に、あたしと成斗くんは、お互いの手ひらを広げてみせ、瞬間、掴んだそれぞれの花びらが、風に乗って高く舞い上がる。

 それを二人で見送って、お互いクスッと笑い合うと、あたし達はまた並んでゆっくり歩き出した。

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