第23限 【side:叶】
週末の店の慌ただしさに、シンクの中、溜まった洗い物しながら、俺は生田の言葉を思い出していた。
『香耶があたしに言ったの。『アタシは叶になるんだ』って』
正直、俺はそんな香耶の真意がわからずにいた。
同情なのか……それとも、愛情なのか……。
それは、俺が自分自身にも、以前問い掛けたことがある事だったから。
結局、答えがみつからなくて、そのまま考える事をやめてしまったけど……でもそんな事は、今の俺にとって、どうでもいい事だったのかもしれない。
生田の言葉を聞いても、たとえ聞かなかったとしても、俺の出す答えは決まっていた。
――そうだ。香耶に預けてある穂奈美さんへのプレゼント、取りに行かなきゃな……。
自分でも驚くほど、すんなり辿りついた答えに、そんな事を思う。
そしてバイトが終わった俺は、約束通り、穂奈美さんに連絡を入れた。
バイトの後向かったのは、アパートではなく、24時間営業のファミレス。俺はそこで、穂奈美さんと待ち合わせをした。
先に着いた俺が、座って待っていたテーブルの前に、あとからやって来た穂奈美さんが座る。
「夜遅く、わざわざ呼び出したりして、ごめん」
「連絡してって言ったの私だよ? だけど、なんでファミレス?別に叶ちゃんのアパートに私が行ってもよかったのに」
「穂奈美さんと、ちゃんと、話したかったから」
「話しなら、余計、二人っきりの方がよくない?」
「ほら。二人っきりだと、話どころじゃなくなっちゃうかもしれないしさ」
冗談ぽく本音を言って笑った俺に、穂奈美さんは小さく吹き出して俺を見た。
「叶くん、怒ってるのかと思った」
「俺が怒る? なんで?」
「ホントに、何も聞いてないの?」
穂奈美さんは、少し驚いた顔つきで、俺に訊く。
「何も聞いてないけど……?」
「そうなんだ……」
穂奈美さんは、少しほっとしながらも、どこか腑に落ちない顔つきで呟いた。
「取り敢えず、なんか頼もっか?」
穂奈美さんへメニューを差し出した俺に、それを受け取りながら、穂奈美さんが言う。
「なんの話とか、叶ちゃん、私に訊かないの?」
「訊かなくていい」
「どんな話なのか、気にならないの?」
「聞いた俺が怒る様な話なら、俺も訊かない方がいいし……それに……」
「……それに?」
言葉に詰まった俺を、穂奈美さんがオウム返しする。
「きっと、どんな話を聞いても、今の俺の気持ちは変わらないから」
「叶ちゃんの……気持ちって?」
「最初から話すと長くなるけどいい?」
小さく笑って訊いた俺に、穂奈美さんが頷いた。
俺はずっと胸に秘めて、抱いていた穂奈美さんへの気持ちを、始めからちゃんと穂奈美さんに伝えようと決めた。そうじゃなきゃ、何も始まらない。きっと、始められない。
「俺ずっと、穂奈美さんの事が好きだった。兄貴と付き合ってる時から、ずっと……」
唐突にそんな言葉から始まった俺の話を、穂奈美さんは俯きがちに、ずっと黙って聞いていた。
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