第32話 プレセア王国にて

 あたしたちを出迎えてくれた馬車は、猛スピードで街中を駆け抜けていく。

 同席している案内役の男性はとにかく城へ……というだけで、お互いに名乗りも上げていない。

 通常時であれば失礼な行為ではあるのだが、それだけこの国が逼迫した状況である事が分かる。

「ここはまだ魔法生物に侵されてはいないようですね」

 さすがにいつもの口調というわけにはいかず、あたしは外行きの丁寧な言葉でそう言った。

「はい、王都防衛に全力を挙げておりますので、何とか持ちこたえております」

 案内役の男性……甲冑を纏ったその姿から恐らく騎士……がそう答えた。

「被害状況はどんな感じ?」

 こちらはいつものままで、エリナがそう問いかけた。

「西部地域から中央地域については、もはや人の立ち入れる状態ではありません。この王都がある東部地域についても、かなり厳しい戦況です」

 ある程度は予測していたとはいえ、やはりこの国が危機的状況である事が分かる。

「先に我が国から派遣した討伐隊はどうなりましたか?」

 目下、一番気になる事を聞いた。

「はい、王都を守る強靱な結界を張って頂きました。獅子奮迅の戦いをされていますが、なにぶん多勢に無勢。王都付近の防衛が精一杯であります」

 良かった。壊滅はしていなかった。

 なにしろ、あたしの命令でこの国に派遣したのである。

 もし全滅などしていたら、ちょっとしたトラウマになっていただろう。

「急がないとまずいわね。早く『蓋』しないと……」

 エリナがぽつりと漏らす。

「『蓋』?」

 あたしがそう問いかけると、エリナはこちらを見た。

「『大結界』の修繕よ。正常に戻れば、少なくとも魔法生物たちの地上現出は止まるわ。あとはちゃちゃっと掃討するだけ」

 そう言って小さく笑みを浮かべる。

「ああ、そういうことね」

 無尽蔵に『大結界』から溢れ出てくる魔法生物たちを止めない事には、なにをやっても無駄だろう。これは急ぐ必要がある。

 馬車は街中では危険と思うくらいの猛スピードで、プレセア王国王城へと滑り込んだ。

「国王陛下がお待ちです。どうぞこちらへ」

 馬車が止まるのももどかしく、案内役の騎士が馬車のドアを開けて飛び降りる。

 あたしたちは転がり落ちるように馬車から飛び降り、騎士に続いて城内に駆け込んでいった。

 それにしてもこのドレス、すっごく動きづらい!!

「陛下。アストリア王国魔道院院長殿をお通しいたしました!!」

 そして程なく、おそらくは謁見の間であろう広い部屋に通され、騎士が大きく声を上げる。

 あれだけダッシュしたのに息一つ上げないとは、恐らくこちらの速度に合わせてくれたのだろう。

「おお、お待ちしておりましたぞ。ここまでのご無礼、なにとぞお許しを」

 部屋の一番奥、一段高い場所に設けられた玉座から立ち上がり、プレセア王国国王、えーっと……名前なんだっけ?

 まあ、いいや。とりあえず、国王殿下が玉座から立ち上がって出迎えてくれた。

「はぁはぁ、少々お待ち願います……」

 情けない話だが、息が思い切り上がっているあたしは、とりあえず呼吸を整える。

 はい、深呼吸。吸って~吐いて、吸って~吐いて……。よし。


「大変失礼いたしました。あた……私はアストリア王立魔道院院長、マール・エスクードと申します」

 自分でも鳥肌が立つくらい丁寧に、あたしは国王殿下に最敬礼をした。

 いちおう、あたしだってこのくらいの礼節はあるのだ。念のため。

「エスクード殿。堅苦しい挨拶は抜きにいたそう。アストリア魔道院よりすでに連絡をうけておる。なんでも、この忌々しい魔法生物どもを一掃する策があるとか……」

 ……え、もう連絡いってるの?

 まあ、この街にも『支店』はあるし、事前連絡することは可能だが……。

 そんな報告、あたしは受けていない。

「国王陛下、私は魔道院遺跡調査部所属エリナ・ムラセと申します。詳しくご説明させて頂きます」

 通常であれば、国王陛下に発言許可を求めるのが礼儀ではあるが、それを省略してエリナは説明を始めた。

 『大結界』の事を上手く隠し『遺跡』の防御システムの暴走で魔法生物が溢れ出てしまった事、その『遺跡』に『蓋』をしないと始まらない事をプレセア国王殿下に詳しく解説していく。

「以上で現状のご説明は終わりです。ご不明な点はございますか?」

「なるほど、その遺跡とやらが原因なのだな。あい分かった。我が国には遺跡とやらの専門家がおらぬゆえ、魔法生物の件全てをアストリア魔道院院長殿に委ねさせていただく。物も人も使えるものは全て自由に使って頂いても構わぬ。頼んだぞ」

 この瞬間、あたしは対魔法生物の件について全ての責任を負う事になった。

 本当は嫌だが、そうとは言えない。

「このマール・エスクードの名にかけて、早急に対処いたします」

 魔道大国アストリア王国の看板を一身に背負い、あたしはそう答えた。

 これでもう、しくじるわけにはいかなくなった。

 魔道院の名声などどうでもいい。あたし個人のプライドである。

「さっそく国中に触れを出そう。魔法生物討伐を成す時まで、全ての貴族その領民はエスクード殿に従う事。必要な物資、人員を惜しまず提供する事。マール殿の命は我が命と思えと」

 すぐそばに控えていた官吏が、素早く紙にしたためて謁見の間から駆けだしていった。

 えーと、それって一時的とはいえ、国王の名代って事になっちゃうような気がするんですけど……。

 内心冷や汗タラタラ垂らしつつ、あたしは最後に最敬礼したのだった。


「ふぅ、死ぬかと思った……」

 国王との謁見を終え、あたしは大きく息を吐いた。

 ここは、王城内に用意してもらったあたしたちの部屋だ。

 ドレスじゃなにも出来ないので、あたしは動きやすい普段のローブ姿に戻っている。

「さっそく掛かるわよ。まずは、この城の地下に行って、「アレ」が使えるか見ないと……」

「「アレ」って?」

 あたしはエリナにそう問いかけた。

「行けば分かる」

 ……あっそ。

「いよいよ遺跡探査ですね。ずっと憧れておりました」

 そう言って、セシルは『穴』からロング・ソードを取り出した。

 彼女がそれを鞘から引き抜くと、ただの剣でないことは一目で分かる。

「セシル、ちょっとその剣『鑑定』させて」

 そんな場合じゃないのは分かっているが、あたしは好奇心に負けてそう言った。

「はい、どうぞ……」

 セシルが剣を鞘に戻し、それをあたしに差し出した。

 見た目によらず軽いそれは、それだけで普通の鋼で造られたものではないと分かる。

「……その真の姿を見せよ」

 床に剣を置き両手を当てながら、ささやくように言いながら魔術を放つ。

 これは、遺跡探査の必須魔術『鑑定』である。

 遺跡で見つかる様々な発掘品の中にはあまりよろしくないものもあったりするので、こうやって『鑑定』するのである。


銘:無

種別:片手剣

材質:オリファルコン

付加魔術:風・火


「ぶっ!?」

 あたしは思わずふいてしまった。

「あ、あの、どうされました?」

 そんなあたしを、セシルが不安げに見つめた。

「お、オリファルコンって超希少金属じゃないの。しかも、『多重魔剣』だし!!」

 これを街のまっとうな武器屋に持って行って売ったとしよう。

 ちょっとした城が建つ。マジで。

もっとも、あまりに高価過ぎて逆に値段つかないかもしれないが……。


「そんなに凄いものなんでしょうか……。実家の倉庫に転がっていたのですが……」

 あたしが差し出した剣を受け取りながら、セシルがそう呟く。

「あのね……オリファルコンってのは金以上の価値がある金属なの。それを加工できる職人も限られているし、こんな立派なロング・ソード見たことないわ。しかも『多重魔剣』ときたら、いくらになるか見当もつかないわね」

 「多重魔剣」というのは、その名の通り一振りの剣に複数の魔術が込められたもののことだ。

 ミスリルなどの魔力を吸収しやすい金属を使うのが一般的だが、通常は1つの魔術しかかけられない。

 しかし、特殊な技法を使うと複数の魔術が込められた剣を造る事ができるのだが……当然ながら、思わずちゃぶ台をひっくり返したくなるくらい超高価である。

「そうですか……知りませんでした」

 知らぬとは恐ろしい事である。

「和んでるところ悪いんだけど、さっさと仕事しましょ」

 なんとなく呆れたような口調で、エリナがそう言ってきた。

 ……いかん。脱線した。

「そ、そうね。ささっと片付けましょう」

 そう言って、あたしは腰掛けていたベッドから立ち上がった。

「えっと、地下行くんだっけ?」

 あたしが問いかけると、エリナは頷いた。

「そう、この城の地下に面白い物があってね。上手く動くといいんだけど……」

 なにか祈るようにエリナが言った。

「妙に詳しいわね」

 あたしがそう言うと、エリナはにやっと笑った。

「遺跡調査部に移る前はこの国の「支店」にいてね。色々知ってるわよ」

「なるほど……」

 セシルといいエリナといい、ずいぶんと世界的に行動していたものである。

 それはともかく、あたしたちは城の地下へと急ぐ。

 ほどなくして、衛兵が護る大きな部屋の前にたどり着いた。

「あっ、これはエリナ殿。お久しぶりです」

 顔見知りなのか、衛兵の1人が声をかけてきた。

「挨拶は抜き。悪いけど『アレ』使わせて」

 エリナがそう言うと、衛兵は顔を険しくした。

「ここに設置されているものは王族専用です。いかにエリナ殿とはいえ……」

「あたしが使うんじゃなくて、ここにいるマール様が使うの。国王の通達はもう届いているでしょ?」

 エリナがそう言うと、衛兵ははっとした表情を浮かべた。

「こ、これは失礼しました、マール様。どうぞお使い下さい」

 ばしっと礼をしながら、衛兵たちがが道を開けた。

 あたしが使うということは、同行するエリナが使うということでもある。

 てか、勝手にあたしの名前使うなっての……。

「ありがと」

 そう言って部屋の奥に進むと、そこは何もないがらんどうの部屋だった。

 部屋の中心にある床に、巨大な魔方陣が描かれている。

「ちょっと待ってね……」

 そう言って、エリナは部屋の出入り口近くの壁に備えられた、なにやらボタンがたくさんついた箱状の物を弄り始めた。

「ここ何?」

 あたしがそう問いかけると、エリナは作業の手を止める事無く答えてきた。

「アストリア王国の『高速転送システム』と同じ原理の機械よ。あっちは魔道士たちが使う魔術で維持してるけど、こっちは魔道工学の粋を集めた「機械」よ」

 ……へぇ、こんな便利な物があったとは。

 これでエリナの考えが読めた。

 あたしたちを『大結界』の近くまで転送しようという腹だ。

 しかし、『高速転送システム』は……。

「エリナ、かなり無茶じゃない?

 『高速転送システム』で送れるのって、せいぜいちょっとした箱くらいまでが限界だったはずだけど……」

 そう、アストリア王国が誇る「高速転送システム」は転送距離にもよるが、最大でもちょっとした箱まで。

 過去に何回か「人間」を送ろうという試みがなされたが、いずれも失敗して死者や行方不明者まで出しているのだ。

 普通に考えて広大な大陸の端から端まで1度で『転送』というのは無茶があるのだが……。

「魔道工学を甘く見ないでね。これは緊急時に王族が脱出出来るように設置されているもので、国内のどこでも瞬時に行けるわよ。ちなみに、最大定員は5人まで」

 そういうエリナの声は、自信に満ちあふれていた。

「それホント!?」

 あたしは思わず声を上げてしまった。

 もしそうだとしたら、アストリア王国は『魔道大国』などとふんぞり返っている場合ではない。

「嘘もホントもないわよ。あたしが設計して設置したんだから。もちろん、自分の体で人体実験済み」

「……大丈夫なのそれ?」

 一抹の不安を覚え、あたしはエリナに言った。

 特に理由はないが、動物的直感というやつである。

「なによ。あたしが信じられないの?」

 なにやら不満だったようで、エリナが手を止めてこちらを睨んできた。

「うん」

 あたしが即答した瞬間、エリナは派手にコケた。

「あ、あのねぇ。あたしあんたに何かした!?」

 よろよろと立ち上がりながら、エリナが噛みついてきた。

「いや、単なる直感」

 あたしがそう答えると、エリナは頭を抱えた。

「ちょ、直感って、また非論理的な……。いいわ、証明してあげる!!」

 なにか闘志に火がついたらしい。

 エリナはガチャガチャと派手な音を立ててボタンを押し始めた。

「よし、起動!!」

 最後にタンッとエリナがボタンを押した時である。

 魔方陣に淡い光がともり、部屋を薄明るく照らした。

「ほら、魔方陣の真ん中に乗って!!」

 有無を言わさぬ口調で言うエリナに押され、あたしは魔方陣の真ん中に立った。

 もちろん、セシルも無言のままあたしに習う。

『オートモードで作動。転送座標ロック。システムオールグリーン。転送シークエンス開始。転送までTマイナス三十秒』

 どこからともなく、無機質な声が聞こえた。

 少し遅れて、エリナがやってきた。

「もう一度聞くけど、本当に大丈夫?」

『Tマイナス二十秒』

 あたしの声と無機質な声が重なる。

「任せなさい。実験済みって言ったでしょ?」

『Tマイナス十秒、九、八、七、六……』

 魔方陣の光が一気に明るくなっていき、強烈な魔力の流れを感じる。

 これは凄い……

「ただし、行きだけで帰りは使えないけどね」

「まあ、それはいいけど……」

『三、二、一、転送開始』

 瞬間、魔方陣から膨大な魔力があふれ、あたしの視界は白濁した。

 その次の瞬間、あたしたちは草原のど真ん中にいた。

 辺りを見回すと、すぐ近くに見覚えのある形をした『遺跡』があった。

「はい成功。これで分かったでしょ?」 

 と得意満面のエリナ。

「す、すご……マジで成功した」

 ここはエリナを褒め称えるべきなのだが、それより先に驚きが立っていた。

「これほどとは……早速院長に報告せねば……」

 いつもクールなセシルさえ混乱したらしくそんな事をブツブツ呟いている。

 ……はい、院長ここにいますよ-。はい。

「当たり前でしょ。自信が無い機械なんて王城に設置しないって」

 さも当たり前と言わんばかりにエリナが言った。

 まあ、そうなんだけど……。

 『転送』したら、どっかとんでもないところに出てしまったというのはお約束というか定番のパターンである。

 それを覆すとは、やるなエリナ……。

「さて、早速『大結界』の修理に入りましょう。今度はややこしくならないから」

 そう言って、エリナは道具袋の中から小さな『オーブ』をとりだした。

「そうね。あたしの出番か……」

 目の前の『遺跡』を見つめながら、あたしはそう呟いたのだった。

 魔法生物があふれ出していると聞いていたので、派手な戦闘を覚悟しながら進んだのだが今のところ出現する気配はない。

 『遺跡』に慎重に近づき、無事に祭壇に着いた時にあたしは大きく息をついた。

「ふぅ、まずは第1段階クリアね」

「今のうちに、とっとと始末しちゃいましょう。えーっと……」

 エリナが『祭壇』に登り、あちこちチェックを始めた。

「変なところ触らないでよ」

「分かってる」

 あたしの声に、エリナが短く返してきた。

「よし、ここか……」

 そう言って、エリナは手にしたオーブを『祭壇』においた。

 すると、ズズズズズと地鳴りのような音が響き、『祭壇』がゆっくり降下し始めた。

「おっと!!」

 取り残されるのは勘弁なので、あたしは慌てて『祭壇』に飛び乗った。

 もちろん、セシルもあたしに続く。

 派手な音を立てながら地面に沈んでいく『祭壇』は、今のところ異常は無い。

「最初からこうするのが正規手順だったみたいね」

 エリナはそう言ってため息をついた。

 もちろん知らなかったとはいえ、多数の犠牲を出しあたしたち自身も遺跡をさまよった日々を考えると何とも言えない心境になる。

 ゆっくりと降下する『祭壇』は、やがて見覚えのある最奥部の『結界の間(勝手に命名)』に到着した。

「これは酷いわね……」

 エリナが顔をしかめた。

 無理もない。『結界の間』は。何かが大暴れしたようにズタズタになっていた。

 強固な魔術……いや魔法で強化されているはずの壁や床がぼろぼろになり、床に描かれた魔方陣もかき消えてしまっている。

 これでは、本来の効果を発揮しないだろう。

「さて、早速『修理』しますか……」

 と、エリナが言った時である。

 あたしは首筋にぞくりと気配を感じ、反射的に防御魔術を放っていた。

「メガ・ウォール!!」

 四大精霊全ての力を使ったこの防御魔術は理論上最強である。

 その一瞬ののち、ど派手な火炎があたしが展開した壁にぶつかった。

「レッド・ドラゴン!?」

 防御魔術を解き、障壁が消えたその先には、真っ赤な鱗が特徴的なレッド・ドラゴンの姿があった。

「うぁ、最悪……」

 エリナがぼやく。

 無理もない。

 その赤い鱗は全ての物理系攻撃を防ぎ、生半可な攻撃魔術では傷一つ付けられない。

 出遭ってしまっが運の尽き。それがドラゴンという生き物である。

「さて、どうするかって……!?」

 大きく息を吸い、再び『炎の吐息』を咲き出してくるレッド・ドラゴン。

「メガ・ウォール!!」

 再び同じ魔術でそれを防ぐ。

 広大な室内の気温が一気に上がる。

「この魔術はあと一回が限界よ。レッド・ドラゴンが次の一撃を放ってくるまでが勝負!!」

 最強の防御魔術だけあって、魔力消費量も著しい。

 そうそう何回も使えるものではない

「マール、あの魔術いける?」

 エリナがそう問いかけてきた。

「あの魔術って……アレ?」

 エリナが言いたいことを察し、あたしは聞き返してしまった。

 メガ・ウォールと発動原理は同じ。あと1発、いけなくはないが……。

「アレは屋外向きよ。こんな閉鎖空間で使ったら……」

 そう言うと、エリナは小さく笑みを浮かべた。

「結界張って遺跡がぶっ壊れないように調整するから大丈夫。あれじゃないと、あたしたちだけじゃ勝ち目はないわ」

「……分かった」

 何しろ時間が無い。

 あたしは即決して、さっそく魔術の構成を練り上げて行く。

『世界の源なる4つの力よ……』

 呪文でリズムを刻みつつ、あたしは全神経を集中させていく。

 この魔術はあたしが使える攻撃魔術の中で最強であり、理論上もこれ以上はないという究極のものだ。

『我が力となりて共に破壊の道を歩まん……』

 あたしの体から膨大な魔力が放出され、複雑な『構成』となって現出していく。

『生なる『光』の力を捨て、純粋なる破壊の『闇』となれ……』

 そして、あたしの魔術が完成した。

「メガ・ブラスト!!」

 ドン!!と衝撃を伴い、前方に突き出した両手から純白の光球が飛び出した。

 それは、瞬時にしてレッド・ドラゴンに命中し、その体を消滅させると同時に大爆発を起こした。

 そして、辺り一面真っ白の光に包まれ、何も見えなくなる。

「ふぅ、さすがにシンドイ……」

 光が収まったとき、そこはただひたすら広い『結界の間』が広がっていた。

 もちろん、レッド・ドラゴンの姿はない。

 あたしはその場にへたり込んでしまった。

「さすが、『魔道院の最終兵器』ね。ドラゴンを一発でぶっ飛ばすなんて、あんただけよ」

 エリナがそう労い? の言葉をかけてきたが、答える気力もない。

「これが噂の……驚きました」

 セシルがそのまま床にぶっ倒れそうなあたしの体を支えてくれる。

「さすがにキツそうね。少し休んでちょうだい」

 エリナに言われる間もなく、あたしはもう限界だった。

 セシルに体を委ねながら、あたしはゆっくりと目を閉じた。

 メガ・ブラストなどここ数年使っていなかったが、やはり体の負担が多すぎる。

 威力は申し分ないのだが、やはり気軽に使えるものじゃない。

 うっかり寝てしまいそうだが、今はそういうわけにはいかない。

「疲れているところ悪いけど、さっそく魔方陣の再構成に入ってもらえる?」

 エリナの問いにあたしはうなずいて答えた。

 あたしがここにきたのはこのためである。

 思わぬ珍入者があったが、これで作業に集中出来る。

「じゃあ、始めるわね」

 そう言って、あたしは部屋の中央に立ち精神を集中させた。

 脳裏に魔道院の中庭で散々練習した魔方陣をイメージする。

 この魔方陣は『大結界』の一部。つまり、あたしが得意とする『結界系』魔術である。

「……在るべきものを在るべき姿に」

 あたしが呟いた瞬間、室内に描かれた魔方陣が赤く光り輝いた。

 同時に、ぼろぼろだった壁が次々に元の綺麗な壁面に修復されていく。

 これはあたしの魔術ではない。

 恐らく、魔方陣の力が戻ると同時に、遺跡本来の姿に戻ろうとしているのだろう。

「はい完了。これで大丈夫だと思うけど……」

 魔方陣からは確かな力が伝わってくる。

 初めてなので分からないが、これで大丈夫だと思う。

「さて、地上に戻りましょうか。これからが勝負かもしれないけどね」

 あたしがそう言うと、エリナは頷いた。

 これで新たな魔法生物が地上に出ることはないだろうが、残存している魔法生物たちを殲滅しなければならない。

「じゃあ、行くわよ。王都に向けてね」

 エリナの声に、あたしは頷いて「祭壇」に乗った。


 なんとなく予感はしていたのだが、これがあたしたちの激闘の幕開けだった。

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