変移

Vegetableが所属する事務所 シーザー。

大根と人参はマネージャーの大豆と一緒に、社長室に呼び出されていた。

しかし肝心の社長はまだ来ていない。

「マネージャー、どういう事だ?」

「私からは言えない」

「っくそ」

「大根先輩、落ち着いてください」


ガチャッとドアが開き、50代くらいの白髪のオールバックヘアーに、白いスーツを着たハンサムなおじさんが部屋に入ってきた。その横顔は誰かに似た面影を感じさせる。

彼こそ、この事務所の社長であるシーザー社長である。


「突然呼び出して、申し訳ない。

次に予定が入っててなゆっくり話す暇は無い。

単刀直入だが、お前達に紹介したい新メンバーがいる!」


「えっ……?」

「はぁ?メンバー?聞いてねぇぞ」

大根は大豆マネージャーを睨む。鋭い睨みに怯むことなく、普段通りの澄ました顔で首を横に振った。

「Vegetableに新しいメンバーが入るってことですか?」

人参は恐る恐る聞く。

「ああ。今は二人だが、本日で三人、いずれは五人になる予定だ。残りの二人は後日紹介する」

「勝手に決めんな!俺は認めてないぞ、ジジィ!」

「ここでは社長と呼べ。言うことが聞けないなら、解散させてもいいんだぞ?」

「っぐ」

大根が大人しくなるのを見計らうと、シーザー社長はドアに向かって「入れ」と言う。


ドアを開いて入ってきたのは、無口そうな青年だった。ベージュから黄緑色にグラデーションされたマッシュ型の髪。前髪が長く、目が隠れていて表情が読み取れない男。

「紹介にしよう。彼の名前は、玉葱たまねぎだ」

「………………よろしく」

微かな声で、素っ気なく呟いた。


「俺は認めねぇから。あんな根暗そうな奴」

「そんなこと言わないで下さいよ、大根先輩!」

大股で早歩きする大根の後を人参は追う。

気に食わず、社長室を飛び出てしまったのだ。

「俺達二人でVegetableだ。他に三人もいらねぇよ」

(そりゃ、僕だって…)


大根先輩は急に止まる。

ドンッ!

大根の拳が壁に大きな穴があける。


「……ジジィは俺がうまくいってるのが気にくわねぇんだ。だから、掻き乱して楽しむ。

あの時と同じようにな」

(あの時って?)

聞こうとしたが、 はじめて見る大根先輩の険しい表情に言葉が喉の奥で詰まった。


「っ………」

思えば、

人参は大根先輩の事を何も知らなかった。


(ほんとに僕は相棒なのか……。

こんな時、気の利いたセリフ一つかけられないなんて相棒失格だ)


去りゆく大根先輩の背中を見つめながら、人参はその場にただ立ち尽くすことしか出来なかった。

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野菜のPrince! ( ˙-˙ ) @amako_ama

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