5月16日 槍玉?

 どうしよう。


 何か最近、ヤな雰囲気になってきた。


 新人宮廷女中のみんなが、ベルシーを見て笑うの。大笑いじゃなくて、ヤな感じの忍び笑い。何がおかしいのか分からないけど。掃除中とか、食事中とか、浴場とかでも。

 

 ベルシーは何ともないみたいだけど。しれっとしてるから。でも、あれって無理してる気がする。だって、食堂には来なくなったし、浴場へ来る時間もずらしてるみたい。


 そりゃ、気分悪いよね。何もしてないのに、くすくす笑われると。その赤毛いったいどうしたの、っていわれるくらい嫌な気分。だって悪意があるんだもの。悪意がある言葉って、本当にいやな気持ちになる。

 

 それなのに、わたし……部屋に戻っても、ベルシーと会話ができない。

 

 まあ、もともとそんなに話をしてたわけじゃないけど。いまだに部屋の中は魔女色に染められてるし。

 

 考えたくないけど、いまの状況って……これって、槍玉?嫌がらせ?

 

 ベルシーが?なんで?彼女、何にも悪いことしてない。ちょっと、まあ、変わった主義をもっているというか、珍しいものに興味があるだけで。

 

 胸がざわざわする。わたしが嫌がらせをされてるわけじゃないのに、すごく落ち着かない。

 

 こんな調子で、仕事にだって連帯感が生まれるわけない。ああ、どうしよう。とくになんでもない日でさえ仕事に集中するのが難しいのに、こんな状況じゃますます集中できない(今日、ぼーっとしてて、書室の前で箒をにぎったまま突っ立ってたら、女中頭補佐がいつの間にか背後に立ってて、「居残りがお好きなようですね」っていってきた。体温がひゅんって下がった)。


 でも、でも、どうすることもできない。


 だって、こういう状況のときにベルシーに声かけたら、次はきっとわたしが嫌がらせを受けることになる。


 そーいうものなんだもの。

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