5月13日 久々の良いこと!

 久々の良いこと――!!

 

 今日、水汲みの仕事終えたあと、「夕食一緒に食べない?」って、新人宮廷女中の子たちに話しかけられたの。

 

 もう、うれしくてうれしくて!「もちろん!」って答えた。

 

 本当に、どれほどうれしかったか。ベルシーと仲良くなるための作戦はことごとく失敗するし……。


 そう。わたしは何度か、彼女に歩み寄ろうと努力していた。勤務時間が違う日は、彼女が戻ってくるまで起きてて、これ以上ないってくらい勇気を振り絞って色々話しかけてみたり。


 でもねー。「わたし疲れてるの」の一言で、会話が終わってしまった。そういわれてしまっては、話しかけるのも申し訳ないじゃないの。


 けっきょくわたしは、いまのところ同室の子について……。


・名前

・年齢

・信仰しているもの


 しか知らないということになる。これ以上の情報を得ることができれば、きっと奇跡。


 だからこそ、べつの新人宮廷女中の子たちと仲良くできるかもって思っただけで、心が励まされた。

 

 その子の名前はレジーナ=グランダ、十六歳。わたしがいつか生まれ変わったら、勇気を振り絞って声をかけようと思ってた、存在感のあるゆるふわな金髪の可愛い女の子。


 と、レジーナと社交界で出会って以来、友人になって、一緒に新人宮廷女中として働くことになったていう、お洒落なピアスを見せてくれたリリアナ・フロール、十五歳。


 と、背が高くてすらっとしてるシモーヌ・コートバン、十七歳。


三人ともやたら甘いバラの香りがするから、どうしてって聞いたら、浴場でバラ石鹸を使ってるから、だって!めちゃくちゃお洒落!今度貸してくれるって言ってくれた。もう、とびきり良い子たちじゃない?わたしの赤毛のことも指摘しなかったし!

 

 ただ、ちょっと気になったことが、ひとつ。わたしがどれだけ別の話題を振ろうと、最後は必ず、


「ね、ね、コレットって、あのマシュー=ガレスとどれくらい仲良いの?」

 

 に戻ってきちゃうってこと。これがなければ、もっと楽しい会話ができたはず。


 マシューのことはもういいでしょうよ。今日だって中庭ですれ違ったけど、無視されたしね。


「そんなに仲良くないよ。ケンカもしたし……」

「ケンカ?ケンカしたの?なんで?」

 

 ああそれと、レジーナは「なんで」が多い。一日に三十回以上は「なんで」って言ってるんじゃないかな。

 

 でも、女の友情は愚痴から始まるものだもの。わたしは「えぇぇ!何それ!ひどいね」という相槌をもらうことを期待して、目の前で二人の兵士に野暮ったい話をされたことの怒りをぶちまけた。

 

 すると。


「えぇぇ!何それ!なんで断っちゃったの!?」

 のけぞりながらレジーナがいった。


「もったいなぁーい。マシューって、めちゃめちゃカッコいいのにぃ。ベテラン宮廷女中の中にも、マシュー狙ってる人がいるんだよぉ」

 ありえない、というように首を横に振りながらリリアナが続けた。


「トマス=レオルトのほうがいいとか?」

 興味津々にシモーヌが身を乗り出してきた。


 本音をいうと彼女たちの反応に心底驚いたけど……そうね。たぶん、田舎と都会では、ほんの少し考え方が違うのよ。厚い友情をはぐくむという点では、まったく問題ないけれど。


 わたしはあいまいに笑いながら、「と、年上派なの」とさりげなく主張しておいた。


「兵隊長のロランさんとか、かなり素敵だと思うけど。マシューはその、同い歳だし、ねぇ。あはは」

「ふーん。すっごく理想が高いんだ」

「いや、あの、別に声かけてもらいたいとか思ってるんじゃないよ。わたしなんか、選べる立場じゃないし!いまはさ、素敵な人を見てるだけで幸せになれるのよ」

「でも、ユービリア国の婚約適齢期って十五歳から十八歳って言われてるじゃない?そんなこといってると、あとで後悔するよ」

 

 うっ。手厳しい。わたしはナイフのような鋭い言葉にあまり強くない心をザクっとやられたことを悟られないように、ちょっとおどけた。


「あの、でも、わたしの場合、結婚の前に働かないといけないの!結婚の前に労働!というのも、実家がね、ちょっと、資産不足になっちゃって」

「ふーん。大変そー」

 

 あんまり大変そうに思ってくれてないように聞こえたけど、きっと気のせい。


「そーいえば、コレットの同室の子って誰?」

 

 思い出したようにリリアナに聞かれて、わたしは「ベルシーだよ」と答えた。


「あー、あの、変わってる子かぁ。何か部屋で気味悪いことやってない?」

 シモーヌが不憫そうにいった。


「魔女崇拝の子でしょ。おっかしいよね」

 レジーナが自分の頭をちょっと指さしてみせると、他の二人がくすくす笑ってた。


「ね、コレット。部屋移ってきなよ」

「え、でも、そんなことしたら女中頭補佐に怒られるんじゃあ……」

「女補は融通利かないけどさ、女頭はけっこう話分かるヒトだよ。同室の子がイカレてて、こっちまでおかしくなりそうだから、部屋を移住させてって頼めばいいんだよ。わたしが言ってあげようか?」

 

 とかって、提案されたんだった。そういえば。


「あー、ええと、うん。考えとく」

 って答えて、かわしたんだっけ、わたし。

 

 改めてここに書き連ねてると、なんだか、微妙な気分になってきた。

 

 あの子たち、悪い子じゃないけど、何て書けばいいの?えーと……。

 

 まあとにかく、親友とはまだ呼べないけど、一緒につるむ女の子の友人ができたってこと。

 

 けど、どーしてだろう。そんなにうれしくない。声かけられたときはうれしかったのに。

 

 ヘンなの。


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