第2詩「ふたりぼっち」


ぼくのすむおうち。

ぼくひとりにはとても大きい。


ぼくのおうちのある丘の上。

そこに咲くひとりぼっちの黄色い花。


とってもとってもさびしそう。

だからぼくとおんなじ顔をしているよ。


まんまる太陽とお月様。

びゅうんと風もさようなら。

君は今日もひとりで歌う。

君は今日もひとりで揺れる。


ぼくは今日もベッドのうえでひとりきり。

いつまでもいつまでも言葉を探してる。


「お花をくださいな。」


ドアをたたいて小さな女の子。

ひょこりとぼくをのぞきこむ。


「あのお花はだめだよ。」


悲しい目をして女の子。

とぼとぼとぼとぼ丘をおりていく。


ぐるぐるぐるりと太陽とお月様。


「お花をくださいな。」


ドアを開けてきのうの女の子。

ひょこりとぼくをのぞきこむ。


「あのお花はだめだってば。」


「どうしてだめなの。」


ぼくがひとりになるからだよ。


「けどお花はひとりじゃなくなるよ。」


みんなのまえで歌って揺れるもの。


「ぼくはひとりになってしまうよ。」


「わたしがいっしょにいてあげる。」


いっしょにお花を育てましょう。


ひとりぼっちの花がみていた街から小さな女の子。

赤いじょうろに可愛いぼうし。

小さい体に小さいかばん。

眠たい眠たい種はきみの植えたたくさんの歌。


ゆらりゆらりと丘の上。

ふわりふわりとわたげがとんでくように空と街。

さらさらながれるぼくらの歌。

丘を彩るぼくらの歌。


「お花をちょうだい。」


お母さんのお誕生日だから。


「お花をいただけませんか。」


こんど、結婚するんです。


「お花を分けてもらえますか。」


お庭にお花畑をつくりたいの。


丘の歌声が街にひとにひろがってつたわって

ぼくのおうちはいつのまにかひろくなくなって

せかいはきらきらきらりと彩られて

ひとりぼっちの花はひとりぼっちじゃなくなって。


よごれたじょうろとくすんだぼうし。

いっしょにいっしょに

きみとすごしてきた丘の上。

ぼくはそれをベッドからながめることがおおくなって

きみはいつかぼくをのぞきこんだように

ぼくのとなりにいることがおおくなって

いつしか歌声はちいさくなっていった。


一輪のこった黄色い花。

きみにあげようと決めたのはとおいとおい日のこと。

あの花がひとりぼっちじゃなくなった日のこと。


ぼくのすむおうち。

ぼくたちにはちょうどよい。


ぼくのおうちのある丘。

そこに咲くふたりぼっちの黄色い花。


とってもとってもしあわせそう。

だからぼくとおんなじ顔をしているよ。


まんまる太陽とお月様。

びゅうんと風もさようなら。

ぼくらは今日もふたりで歌う。

ぼくらは今日もふたりで揺れる。


ぼくは今日もベッドのうえでひとり。

いつまでもいつまでも言葉を探してる。


「お花をくださいな。」


ぼくの横にいるあの日の女の子。

ひょこりとぼくをのぞきこむ。


「あのお花はきみのものだよ。」


悲しい目をして女の子。

ぽろぽろぽろぽろ涙をながしてる。


ぐるぐるぐるりと太陽とお月様。


「お花をもらっていいの」


まどをあけていつもの女の子。

ひょこりとぼくをのぞきこむ。


「あのお花はきみのものだよ。」


「どうしてわたしにくれるの」


ぼくはひとりじゃないからだよ。


「けどわたしはひとりになってしまうわ。」


「ぼくはいつでもきみのそばで歌っているよ。」


きみといたあの丘の上に咲いているよ。


黄色く黄色く高く高く

空と街につつまれたふたりの丘の上。


ひびくひびく歌声はだれのもの。


黄色く黄色く高く高く

「ぼく」と「きみ」の丘の上。


ひびくひびく泣声はだれのもの。


黄色く黄色くどこまでも高く

ぼうしの横にゆれる君。


ひとりぼっちだったぼくと君。

ふたりぼっちになれたぼくときみ。


黄色く黄色くどこまでも高く

ぼくらはあの丘に咲いていた。

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