第18話 ハッキング~『作家でたまごごはん』の一番長い日 中編~

「<作家でたまごごはん>のサーバーは九州の大宰府の第一サーバーの他に、岡山県の吉備高原都市の第二サーバーがあって、自動ログ保存プログラムでバックアップを取ってるから大丈夫よ」


 神楽舞は飛騨亜礼の指示でここにきたようだが、あまりにもタイミングが良すぎる気もした。

 何か事前情報があったのかもしれない。


「そうなんですか。では、それをユーザーに告知して、パニックを収拾しましょう。それから、ウィルスプログラムの解析と駆除をお願い」


 坂本マリアはほっとした表情で神楽舞を見つめた。

 彼女はゴスロリ風の黒の軍服ワンピースを着ていた。

 金色のボタンに金の縁取りがあり、腕の袖には金色の三本線が入っていた。ショートカットにした髪が凛々しく、頭には金色の三本線のミリタリーベレーをかぶっている。

 足は黒の二―ハイソックスに靴ひもを編み上げたミリタリーブーツを履いていた。

 結構、かわいい。


「舞さん、一体、今までどこにいたんですか? 飛騨さんは?」


 マリアが事情を訊いた。


「かなり込み入った理由があって、事情説明は難しいのだけど、飛騨君はちょっと来れないのよ。連絡も当分取れないし。それと、飛騨君のパソコンから第二サーバーにはアクセスできるそうよ」


 神楽舞は奥歯に物が挟まったような言い方だった。

 プラグラマー軍団が早速、アクセスを試みる。

 

「あの、岡山県のこの第二サーバーなんですが、飛騨さんのパソコンからアクセスできるんですが、IDとパスワードがわからないと操作できないようです。それとサーバーへのアクセスページに『Mag Air Auk』という奇妙な文字が書かれています」


 チャラ夫君が報告してきた。


「あ、それね。飛騨君がいうのにはメガネ君なら、IDとパスワードがわかると思うよと言ってました」


 神楽舞は意外なことを言い出した。


「え? 僕は飛騨さんとは面識ないし、どういうことですか?」


 メガネ君は当惑していた。


「とりあえず、メガネ君、謎解きしなさい」


 マリアの至上命令である。

 ちょっと考えてみるか。


「『Mag Air Auk』、Magは雑誌とか、磁気という意味で、Airは空とか、空気。Aukはオークかな? ウミスズメ、ウミガラスという意味か?」


 メガネ君はしばらく考え込んで、飛騨のパソコンを色々と調べている。


「―――そうか! IDとパスワードの謎は解けました。おそらく、この単語、もしくは文章にはあまり意味はなくて、簡単なアナグラムだと思います」

 

「アナグラム?」


 マリアが怪訝な顔で聞いてくる。


「言葉遊びといいますか、文字を分解して、並べ替えて全く別の意味の言葉にするんですが、今回の場合は並べ替えた文字自体には意味はなくて、飛騨さんのことを知ってればある程度、想像がつくようになっています」


 メガネ君は暗号の謎を解説した。


「でも、メガネ君は飛騨さんとは面識ないし。パソコンから何か出てきたの?」

 

 マリアが不思議そうな顔をした。

 彼女はいつもの紺色のビジネススーツに長い髪に少しウェーブをかけていた。

 京都生まれの切れ長の目をもつ神楽舞とは対照的にぱっちりとした大きな目に白い肌が印象的である。

 確か東北出身だと言っていた記憶がある。


「違います。神棚の舞さんとのツーショット写真がヒントですかね。舞さん、誕生日はいつですか?」

 

「2月10日だけど、どういうこと?」


 神楽舞はびっくりした表情で聞き返してきた。

 メガネ君はそれを聞くと、パソコンにIDとパスワードを打ち込んだ。


「ビンゴ!です。アクセスできました」


「一体、どういうことなの?」


 マリアは狐につままれたような表情をしている。


「まあ、僕が男だから何となくわかったのですけどね。飛騨さんが僕のことを知ってる謎も何となくわかりました」


「はい、ミルクコーヒーです。なるほど、男にありがちなあるあるですね。超恥ずかしいですけど」


 織田めぐみが訳知り顔でひとことコメントしてきた。

 恋愛経験豊富と見た。


「え? めぐみちゃん、分かったの?」


 マリアはまだ、わからない。


「うわ、恥ずかしいわ。飛騨さんったら!」


 神楽舞はようやく、気づいたようだ。

 

「どういうこと? どういうことなのよ? 教えてよ」


 恋愛経験が少なさそうなマリアがひつこく訊いてくる。


「僕もわかりました」


 とチャラ夫君も気づく。


「私だけ、私だけわからないんですけどーーーー!」


 というマリアの悲鳴がいつまでも響いた。

  

 

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