第14話 転生ID

「今日は事後報告になりますが、テンプレ小説は規約違反ではないかメールが来まして、マリアさんの指示通り、おそらくオリジナルだと思われる『パーフェクトレッドソルジャーキリオ』と『魔法少女魔女っまゆちゃん』の原作者に多少のテンプレ模倣はOKという許可は頂きました。一応、お知らせで告知しておきました」


 メガネ君の報告に満足げにうなづく坂本マリアであった。


「うむうむ、良きに計らってよろしい」


 とひとことだけ言うと、くるっと椅子を回してパソコンとにらめっこをはじめた。


「マリアさん、いつもどんな仕事をしてらっしゃるんですか?」


 こいつどうせ仕事してないだろ感いっぱいだったが、興味本位の質問である。

 確かに、正社員は坂本マリアひとりで、派遣+アルバイト軍団20名が妙に有能で大概の仕事は彼らがこなしてしまうのも事実だった。

 経費節減しすぎだが、何とか仕事が回っていた。


「ランキングの監視よ。私はいわば、人気アイドルグループABCに例えると総監督よ。大所高所の視点からこのサイトの大きな流れを把握している必要があるのよ。わかるかしら、メガネ君」


 何か凄いことを言ってるようだが、単に今の流行を自作品『細川ガラシャは悪役令嬢』に取り込みたいだけに思えた。


「あ、それと、あの例の『転生ID』問題についてですが、どうしましょうか?」


「あ、あれね。まあ、いいんじゃないの。特に規約にはそういう定めはないし、大体、メアドとパスワードで登録できる気軽さがこのサイトのいい所なのよ。新規登録者が以前、ID削除された人間だということをどうやって把握するかという問題もあるし、なかなか特定は難しいと思うわよ」


「確かに、そうなんですが、何となく作風や文章の癖、あとは転生前はそこそこ人気作家だったり、ガンガン更新する作者だったりして、僕なんかがみると転生は明らかに思えるんですが」


「このサイトはね、プロ、アマ問わずに小説を自由に掲載して楽しむサイトなのよ。他人の作品につべこべいってる暇があったら、自作品をバンバン更新すべきよ」


「なるほど、そうでしたね」


 確かに、仕事を派遣+アルバイト軍団に極限まで権限委譲して時間を作り出し、一日五回も自作品を更新しまくるという実践者である人の言葉には説得力があった。


「巨大掲示板の『サブちゃんねる』の管理人サブちゃんが、サブサブ動画を始めた時の名言に『もう一億総評論家のは時代は終わった。これからは一億総クリエイター時代のはじまりだ!』というものがあるわ。不毛な議論をしてる暇があったら、小説を一行でも更新して書きまくるべきだわ!」


 マリアの言葉に迷いはない。

 あまりの神々しさに背中に後光が差してるように見えた。 


「作者だと決めつけるのもどうかと思いますが。でも、確かにそうかもしれないですね。逆にその不毛な議論をコメディタッチで作品にしてみるのもいいか」


 メガネ君はひとりで納得してるようだった。


「それいいわね。少しだけならウケるかもしれないわね。私にはそんな暇ないけど」


 マリアにはそんな暇はないのは言うまでもない。


 『複垢調査官 飛騨亜礼』(作者:メガネ君)の誕生秘話である。

 『二―ト忍者の戦国転生記』の更新はさらに遅れるのであった。

 メガネ君も困ったものである。


 

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