第13話 悪役令嬢
「マリアさん、また、規約違反通報メールが来てますよ」
メガネ君は午前中のいつもの儀式である報告した。
「今日は何なの? メガネ君の判断で良きに計らってくれてもいいのよ」
いつものことだが、面倒な仕事はやらないぞ!という態度の坂本マリアであった。
IT企業<カレイドスコープ>の上司であった飛騨亜礼が失踪してしまい、現在、巨大小説投稿サイト<作家でたまごごはん>の運営などをやることになってしまって、正直、面倒なことには関わりたくないのだ。
今日も無事、時が過ぎればそれに越したことはないという事なかれ主義だった。
やる気の全くない27歳である。
「それが事はかなり重大でして、これはマリアさんの判断を仰ぐしかないかと思いまして」
メガネ君はいつになく深刻な顔をしている。
運営の仕事と小説のゴーストライティング二本を抱えた仕事のしすぎの26歳だった。
「もったいぶらずに、早く言いなさいよ」
その時、メガネ君の机にいつものミルクコーヒーが置かれた。
アルバイトの織田めぐみが軽く微笑む。
今日もかわいい20歳である。
しかも、彼女の入れるミルクコーヒーはスタッフの中では『魔法のミルクコーヒー』と呼ばれ、市販のインスタントものを使ってるにも関わらず、彼女がいれると絶品の味になるのだ。
ミルクとコーヒーの配合の黄金比率があるらしく、某名古屋の有名喫茶店で学んだらしいのだ。
「実は<悪役令嬢>は規」
「却下よ! みなまでいうな!」
メガネ君は最後まで言うことができなかった。
坂本マリアの返事の反応速度が音速を超えていたからだ。
「今、脊髄反射というより、首のあたりで反射的に答えたでしょう」
メガネ君はあきれていた。
「<悪役令嬢>が規約違反? はぁ、そこに何の根拠があるのよ」
いつになく戦闘的な態度の坂本マリアである。
「僕も全く根拠などないと思いますが、いつもの『サブちゃんねるの規約違反スレ』のやつらの論理では<悪役令嬢>は元祖である『お嬢様は悪役令嬢』(作者:神楽坂舞子)の作者に著作権があり、他の作品はいわば『二次創作』に当たるのでは?ということらしいです。『お嬢様は悪役令嬢』以外の『悪役令嬢』模倣作品の全削除を求めて来ています」
メガネ君は無茶苦茶な論理展開だが、いつもながらいいとこ突いてくるメールに困惑気味である。
「うーーーーーー来たわね、屁理屈のウルトラC的論理展開! とにかく、『二次創作』に結び付ければ何とかなるという凄まじい執念を感じるわ。そんなことしたら、<作家でたまごごはん>の女性作者の暴動が起こるわよ!」
坂本マリアもちょっと困ってるようだった。
「神楽坂舞子こと、舞さんは今、失踪してるし―――あ、メガネ君がゴーストしてるんだっけ。あーこれはまずいわ。どう対応しようかしら。そうだ、メガネ君はどうするつもりなの?」
いつものように仕事を投げっぱなしジャーマンにしようとする坂本マリアだった。
ちなみに、プロレスだじゃれです。
「僕ですか、そりゃ、二次創作解禁!と言うしかないですね」
用意していた答えを提案する。
「いいじゃない、いいじゃない、それ、グットアイデアじゃん! メガネ君、頼むわ」
といい終らないうちに、クルッと椅子を回転させてパソコンの方を向いてしまった。
何か真剣に打ち込んでいるようだった。
メガネ君がそっと後ろから覗いたら、『細川ガラシャは悪役令嬢』を更新中だった。
見なかったことにしよう。
ブックマーク40、ポイント234という微妙な評価な作品だったし。
まあ、100ポイント超えてるし、このサイトの底辺作家は卒業していて、上位20%に入ってるのだから立派なものである。
それはともかく、規約違反の通報メールはまだまだ来ていた。
メガネ君の苦闘は続く。
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