第11話 終わりなき日常

「飛騨君、サーバーは復旧したんだけど、例の盗作事件の関係で警察に事情聴取に行ってくるわ」


 神楽舞は新しく買った桜色のストールを首に巻いて出掛ける支度をし始めた。

 もう四月だし、京都も桜がちらほら咲き始めている。


「その間、運営管理は誰がやるんですか? まあ、当然、俺なんでしょうけど」


 飛騨は今日はダークブルーのサイバーグラスをしているが妙に素直だった。

 というか、所属してるIT企業の「カレイドスコープ」に連絡して、正式に「作家でたまごごはん」に出向扱いにしてもらっていた。

 飛騨が申請した休暇がまだ三週間残っていたのも好都合だったし、「作家でたまごごはん」の社員のほとんどがこの前の襲撃で亡くなっていたので緊急の処置でもあった。

 とりあえず、小説投稿サイト「作家でたまごごはん」の再建が急務だった。


「では、お願いね。えーと、引継ぎだけど、ツイッターで相互評価依頼した作者のアカウントを規約違反で消して………あらら、もう退会してるから、それはいいわ。それから、100人規模で相互評価してるグループがあって、この調査をお願いしたいんだけど、まあ、地道にやるしかないわね。ラノベのプロ作家の作品が日間一位になった件は、運営的には全く問題でないというか、元々、小説を誰が投稿しても自由なので。あと、残りの仕事が10件ぐらいあるけど、このメモに書いておいたので、よろしくお願いします」


 神楽舞は白い帽子を被って、日除けの黒いアームカバーをして日傘を持った。


「そうだ。サイトの再建が終って仕事が落ち着いたら、カオルちゃんたちも呼んでお花見でもしない?」


 ドアを開けかけた舞はふと振り返って飛騨に言った。


「いいですね、お花見。定番の円山公園、平野神社、鴨川の河川敷辺りがいいですかね。京都南部の笠置山自然公園というマニアックな選択もありですね。思い切って奈良に遠征とかもいいかも」


「奈良かあ。奈良公園、平城宮跡なんかもいいわね。でも、奈良南部は秘境らしいから気をつけた方がいいわ。特に十津川村とか帰って来れなくなるらしい」


「そうなんですか? それはまた。では、大変でしょうけど行ってらっしゃい」


「はい、行って来ます」


 舞は飛騨にそういうと階段をとことこ降りて行った。

 エレベーターも故障中で修理はもう少しかかるらしい。

 

 会社のある京都の伏見区にも桜がちらほら咲き始めていた。

 舞は川沿いに咲いている桜を眺めながら、しばらく、歩くことにした。

 世の中はすっかり春めいているが、舞の仕事はまだまだ続いていく。


 終わりなき日常を生きろと言った人もいたけど、ほんと、これからも無限ループのような日常が続いていくだろう。 


 公安の仕事のカモフラージュではじめた小説投稿サイトの仕事だったけど、今では結構、気に入っている。最近では天職なのではないかとも思っている。


「あ! 『お嬢様は悪徳令嬢』更新しなくちゃ!」


 舞はそんな独り言をいいながら、桜の花にしばらく酔いしれていた。

 

 



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