第4話 盗作

「しかし、今回の事件、やっかいですね」


 さすがの飛騨亜礼も頭を抱えている。


「『作家でたまごごはん』の作者の作品『奴隷ハーレム三姉妹』がまるまるコピーされて、小説投稿サイト『夜空文庫』に投稿されている。ところが、盗作した作者がこれは自分の作品だと言い張ってきかなくて、逆切れしてる……。まったく困ったものね。しかも、盗作者は中学生だし」


 神楽舞も今回はさすがにため息しかでない。

 とりあえず、『夜空文庫』にメールして証拠保全のために作品削除できないようにしてるけど。

 盗作された作者はすでに警察に行ってしまったし、刑事事件になってしまうかも。


「打てる手は打ちましたから、推移を見守るしかないですね」


 飛騨はいつもと違って大人しい。


「自己承認欲求ってやつですかね」 


 飛騨はぽつりと言う。


「盗作による偽りの自己承認。たぶん、はじめは自分は小説書いてるんだと学校の友人に自慢したかっただけじゃないかな。それがどんどんエスカレートして引っ込みがつかなくなった。他の作品も読んだんだけど、文体とか文章の癖が違うから、全部、盗作かもね」


 舞は本当にやりきれない気持ちになった。

 最近、こういう事件ばかりだ。

 格差社会が可視化されるネット社会があり、それに対して情報を発信できるSNSがこれだけ発達すれば、それも仕方ないことかもしれないと思う。


「世も末ですね。最近のネット炎上事件も何とも容赦がないというか、日本人全体に心の余裕がなくなってるんでしょうね。古き良きネット社会には戻れないものですかね」


 モニター越しの飛騨の瞳はどこか遠くを見ていた。


「おお! 俺の作品がジャンルランキングに入ってるよ」


 飛騨は叫び声を上げた。


「いや、飛騨君、いいこと言ってたかと思ったら、そんなもの見てたのね。ちゃんと仕事やってよね!」


 舞はがっかりした。

 仕事中にランキング見ないででほしいわ。まったく。


「舞さん、『お嬢様は悪役令嬢』が日間ランキング7位ですよ!」


 飛騨は意外な言葉で反撃してきた。


「ほんとなの! ちょっと見てみるわ! どこどこ?」


 舞は慌てて日間ランキングを開いた。


「嘘ですよ」


 飛騨はいたずらっこのような顔をして笑った。


「……まったく。仕事に戻りましょう!」


 舞はバツが悪そうに言った。

 

 三月中旬。

 春は近い、春のBAN祭りはまだまだ続くのであった。

 

 

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