第2話 ネットカフェ

「舞さん、このネットカフェからのアクセスしてるアカウントなんですが、全部、BANしちゃいましょう」


 Skype越しに、飛騨亜礼はこともなげに言い放った。


「いや、それはいくらなんでもやりすぎよ。何の根拠があってそれが複垢だと断定できるの?」


 某巨大小説投稿サイトの運営スタッフの神楽舞は、困惑した表情でモニターに映った飛騨を見返した。


「よく考えてみて下さい。このアカウントの持ち主は、いつもネットカフェからアクセスしてるんですよ。何故、家からパソコンとか、スマホや携帯でアクセスしないんですか? この人、今時、スマホどころか、携帯もパソコンも持ってないということですよね? そんな人がいると思いますか?」


 飛騨君、いつもながら確かにいいとこ突いてくるわ。


「飛騨君、最近、パソコン持ってない人は多いのよ。たぶん、この人は派遣社員でいつもネットカフェに泊まってるのよ。お金がないからスマホは持てないし、携帯も通話のみなのよ。そんな人のささやかな楽しみを奪う訳にいかないと思うの」


 無駄だと分かっているけど、とりあえず、反論してみた。

 我ながら素晴らしい論理展開である。

 しかし、私は何故、複垢疑惑のあるアカウントを擁護しているのか、自分でも意味が分からない。


「それと、このプロキシサーバー経由のアクセス、何でいつもプロキシでアクセスするんですか? 『作家でたまごごはん』はいつから有害サイトになったんですか?」


 飛騨の追及は今日も厳しい。

 ちなみに『作家でたまごごはん』は舞が勤務している巨大小説投稿サイトの正式名称である。

 作家のたまごと、作家でごはんをかけてみただけなのだが。


「たぶん、そのユーザーは用心深いのよ。ほら、たぶん、未成年だからプロキシサーバー経由のフィルタリング機能つきのやつでアクセスしてるのよ。そうに違いないわ」


 我ながら苦しい言い訳なのは分かっているが、とりあえず、反論してみた。

 

「未成年がどうして、ボスニア・ヘルツェゴビナとか、ベラルーシのプロシキ―サーバを経由するんですか?」


 ダメ押しである。


「うううっ………」


 ちょっと言葉につまる。


「とりあえず、『作家でたまごごはん』の規約変更して、ネットカフェとプロキシサーバー経由のアクセスアカウントは違反にしちゃいましょう」


 飛騨亜礼は冷酷に言い放つ。

 神楽舞はしぶしぶ飛騨の提案に従って規約を書き替えはじめた。


 まだ、三月初旬である。

 春のBAN祭りははじまったばかりである。

 

 

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