第65話 防衛官僚、バリュースター上場

「北朝鮮のミサイル防衛のために最新イージス艦を配備したいです。とりえあず、時価総額1500億円が目標です。北朝鮮の本当の狙いはイカ釣り漁船です。僕もコンビニの8-12でビールのつまみのスルメイカが値上がりして非常に困っています。職業、防衛官僚って」


 神楽舞はついつい声に出して読み上げていた。

 スマホで<バリュースター>の新着欄を見て驚いている。

 そこは『石田三成オフ会』会場の京都の妙心寺の塔頭たっちゅう桂春院けいしゅんいん」である。

 塔頭たっちゅうとは、禅宗寺院で、祖師などの死後その弟子が師の徳を慕い、大寺に寄り添って建てた塔、庵、小院などのことである。

 方丈と呼ばれる四角い畳の間から、四方の新緑が鮮やかな庭園を眺めながら、石田三成手製の抹茶とお茶菓子を参加者が楽しんでいた。


「時価総額1500億円集めるために、スルメイカ→イカ釣り漁船→北朝鮮のミサイル防衛→最新イージス艦配備という大風呂敷を広げてきたか」


 飛騨亜礼も感心している。


「これはちょっと応援したくなるな。『8-12でビールのつまみのスルメイカ』という庶民感覚から『北朝鮮のミサイル防衛のために最新イージス艦を配備』につなげるという荒業だけど、妙な説得力がある。ネット民が喜びそうなネタだし」


 メガネ君も鋭く指摘した。


「私もVSバリュースター大量保有しちゃおうかな」


 <さえさえ☆>も乗る気になっている。

 <バリュースター>のムードメーカーであるランキング一位の彼女が動けば人気殺到銘柄になってしまう可能性もでてくる。


「しかし、ここ一週間ぐらいの<バリュースター>はバリューコインの大幅値下がりから急騰したり、バリューコインの分岐問題から<バリュースター>の売りに驚いたモデルさんがヌード写真集を優待につけたり、それをGK前略トレーダーという投資家さんが『自分を安売りするな!大切にしろ!』と諭したりする事件も起きたり。いろいろありますね。<バリュースター>も」


 メガネ君が一週間を振り返る。


「<バリュースター>の参加者にはIT起業家、ブロガーなどのネット有名人も多いが、写真家、モデル、漫画家、作家、アーティスト系の人々や編集者、プロデューサー、実業家、トレーダーなど様々な職業の人々が参加している。中には元ニートのぱふぇさんとか、専業農家、人工知能研究者、学生などもランキングで人気化しているし、そこが<バリュースター>のSNSとしても面白さかな。何か一芸に秀でているだけでなく、名の無き人でもサービス公開直後の五月末とか参加時期が早ければ注目されてランキング入りしている。チャンスはみんなに平等にあったかもしれないね。ただ、7月になって参加者が二万人を超えた辺りから無名の人間がランキングを上がるのは困難になってきている。単純に数が増え過ぎればひとりひとりの希少価値が減るし、<バリュースター>の値上がりも続いているとはいえ、そろそろ利益確定売りもでてくるからね。つまり、これは運とも言えるのだが、僕はこういうサービスの情報感度が高い炎上ブロガーと言われている『池早隼人イケハヤハヤト』氏のブログを愛読してたので、ここにいるという訳だ。2<バリュースター>ぐらいしか売れてないけどね」


 飛騨が感想を述べる。


「ああ、<ガリガリ君>かあ。<バリュースター>ランキング4位でしたね」


 メガネは勝手に仇名をつけているらしい。

 おそらく痩せ過ぎの体型からの発想だろう。


「イケハヤハヤトファンの女子の間では<スナフキン>という名前で通ってるわ」


 舞が補足する。


「私は<スナフキン>さまと呼ばせて頂いています。四国の自然の中で農業を営みながら最先端のIT系のブロガーやってるというのはかっこいいと思います。さっき、本にサインしてもらいました」


 <さえさえ☆>はファンらしい。

 メガネ的には残念である。


「彼は炎上ブロガーと呼ばれているけど、俺は『ただブログを書くのが好きなだけではないかな』と思ってる。中学生時代に個人ニュースサイトをやっていて一日4回更新したり、ネット雑誌に取り上げられて連載ももってたらしい。高校時代はゲームの<RMTリアルマネートレード>にもはまっていたらしくて、そこでネットの稼ぎ方も覚えたようだ。彼にとっては今の生活もその延長線上にあるんだろうね」


 飛騨は感慨深げに語った。

 <複垢調査官>というネット系IT会社の仕事をしている彼の人生とも何か共通点があるのかもしれない。


 オフ会の方はのんびりとした雰囲気の中で進行していた。

 トレードマークの麦わら帽子を被ってるイケハヤハヤトのそばには人が集まっていた。

 参加者は石田三成の抹茶を楽しみながら、思い思いに新緑美しい庭園を眺めたり語り合っている。

 神楽舞の著作『お嬢様は悪役令嬢』のサイン会もなかなか盛況のうちに終了していた。

 担当編集の上山氏もひと安心で別の仕事に消えていった。


「メガネ君、ちょっとこちらでお茶を用意していますので、皆さんもどうぞ」


 その時、石田三成が現れた。

 白のシャツにジーパン姿だが、どこか上品な感じの優男である。


「了解です」


 メガネは三成とは面識が何度かあった。 

 妙心寺には普段は非公開の茶室がある。

 そこに案内してくれるらしい。

 何となく展開の予想つくのだが、三成、そして真田幸村と会えるのは楽しみである。

 たぶん、あの方も来てるのだろうし。








(あとがき)



  VALUでも事件が色々と起きてるみたいだけれど、これがビットコインなどの最新フィンテック×資本主義の縮図であるVALUというものなんでしょうね。


 こういう変動は資本主義の常識なので、株とかやってる人は慣れてるけど、精神的心理理的強さが必要な時代ですね。


 VALUも株も資本主義も心理ゲームのような所があるね。

 ランキング上位にトレーダー関係者がVALUに多いのはそういう訳ですね。




トヨタはテスラと再提携しないと日本の自動車産業は壊滅する?世界で進む電気自動車シフト、iphone、スマホシフトの再現か?原発オワコンから電気自動車、太陽光発電へ

http://ncode.syosetu.com/n1979cm/58/


VALUで、あられもない姿を晒すモデルさんとか出る始末 「資本家」と何の縁も無かった人たちが、いきなり市場の洗礼を受けて、、、

http://markethack.net/archives/52050803.html


イケダハヤトのプロフィール(長文)

http://www.ikedahayato.com/index.php/profile

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