第13話 呪縛
僕らは・・・本当は戦う必要なんて無い。
僅か15年を生きただけの人生で、僕等はただ、命を弄ばれた。
この世に神が居るならば、なぜ、目の前に居る悪魔を滅ぼさない?
僕は神を呪う。
それだけが、この一瞬、僕に許された唯一の自由だからだ。
手にした拳銃のスライドを引っ張る。中のスプリングが押し込められるのに抵抗する。それでも引き切ると、弾は弾倉からせり上がり、薬室へと押し込まれた。そして、スライドから手を放す。スライドは元に戻り、弾を薬室に閉じ込める。
さぁ・・・撃てる。
腕は跳ね上がる。狙いは目の前に居る舞だ。彼女も俺を狙っていた。どっちが早く撃てるか。いや、もう一人がどっちを狙っているか。考える事は腐るほどある。だが、そんな時間など無い。やるべきことは一つ。目の前の敵を撃てだ。
舞は咄嗟に横に飛んだ。多分、それは他の二人からの狙いから外れるためだろう。だが、動かなければ、良い的だ。僕も駆け出した。その瞬間、三人の銃口が火を噴いた。弾丸が耳の横を通り過ぎる音がした。
真鍮製の空薬莢が宙を舞う。銃弾が飛び交い、僕等は生きる為に戦った。
意識はぶっ飛びそうだ。弾は当たっているのか?それとも、自分に弾が当たっているのか?もう、何が何だかわからない。目の前に居る同級生達を撃ち殺す。あの日、悪夢のようなサバイバルゲームの時より、幾分か、気分はマシだ。
殺せる。殺せる。殺せる。
最後の一発が撃ち終わった。スライドは後退したまま、止まった。
はぁはぁはぁ。
僅か、数分の撃ち合いのはずだ。だが、まるでマラソンでもやったように息が上がっている。目の前に立つ、舞も同じだ。彼女の銃もスライドが後退して停まったままになっている。
そして・・・一人の少年が大の字で床に転がっている。確かめるまでも無い。奴の胸には穴が開き、背中から大量の血が床に染み渡ってゆく。
塩田だ。
彼との記憶など、普通の同級生程度にしか無い。それでも目の前で死んだと思うと何故か悲しくなる。だが、そんな感傷に浸る時は無い。舞は拳銃を捨てた。素手で、戦おうと言うのか。確かに格闘技もあの地獄で、叩き込まれた。素手で人を殺す事は出来る。そうだ。素手で僕等は人を殺せるはずだ。
僕も身構えた。
何かの呪いだろうか。体はしっかりと人を殺す方法を覚えている。頭の中ではいつの間にか、舞をどうやって殺すかを考えている。怖い。そのはずなのに、身体はただ、相手を殺すために筋肉を動かしている。
この戦いで全てが決まる。銃撃戦の時は流れ弾を気にして、姿を隠していた徳山達も姿を現した。まるでプロレスか何かを観る観客のように彼等は笑いながら僕等を見ていた。
舞の目は本気・・・いや、狂気だ。まるで野獣のような殺気を感じる。殺される。確実に殺される。とても人間とは思えない。
喉が渇く。
目が霞む。
頭が痺れる。
僕の体は極度の緊張から、異常を発していた。
相手も同じだろうか?
そう思うなんて、ちょっと気が抜けてないか?僕は少し、自問してしまった。
どちらが先に仕掛けるか。
舞は一足飛びに飛んできた。あまりに身軽で素早い動きに僕は彼女の蹴りを防ぐしかなかった。ガツンと一撃がガードした左腕に響く。何とか、彼女の一撃を凌いだが、動きが止まってしまう。刹那、舞は更に拳を腹、背中、首などに叩き込んでくる。それを防ぐために僕は懸命にガードするしか無かった。
彼女の連撃は執拗だった。パンチ、蹴りが隙間なく、叩き込まれる。僕はただ、ボロボロになるだけだった。
お母さん
僕はガードの隙間から彼女を見た。彼女は泣きながら、お母さんと呟いていた。
殴り合いでは相手を倒すことは難しい。素手で確実に相手を殺すには首の骨を折るのが最適だ。頸椎を骨折すれば、神経障害で体は麻痺する。骨が折れた事で気道が曲がり、窒息してしまうだろう。相手を確実に殺せるのは首しか無い。
舞はデタラメと言って言い程に連撃を重ねている。手も掌底から握り拳に変えて、打突でこちらを倒そうとしている。だが、それは指を痛める。下手をすれば、すでに何本か折れているだろう。対して、こちらはしっかりとガードをしているから、ダメージはあるが、致命的では無い。
冷静に
冷静に
何度も繰り返し、反撃の好機を待つ。幾ら、鍛えていようと、体力にはおのずと限界がある。ましてや相手は女子だ。基本的な体力面での違いがある。
ハァ
ハァ
ハァ
時折、漏れる彼女の吐息。
僕は、その一瞬を待った。彼女のパンチの速度が鈍る。その腕を掴み、脇に抱えて、へし折る。そして、地面へと叩き付けた。
がぁああああああ!
彼女は悲鳴を上げた。それは痛みからか、死への恐怖からか。母を助けられない嗚咽だろうか。僕はそれを気にせず、床に倒れ込んだ彼女の背中に膝を乗せ、体重を掛ける。逃げ出そうとする彼女を押さえつけ、その頭を掴んだ。
武器で殺すのとは違う。
指先にはっきりと、生きている人間の頭を感じる。
このまま、僕があり得ない方向に首を曲げるだけで、彼女の首の骨は折れる。
無論、即死では無い。彼女は苦しんで死んでいくだろう。トドメを刺す方法は無い。もし、奴等に慈悲があるなら、トドメぐらいは刺してくれるかもしれない。
僕はそんな気持ちを持ったまま、彼女の首をへし折った。
彼女が動かなくなったのを確認して、僕は立ち上がる。
そして、徳山達を見た。彼等は拍手をした。
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