第12話 支配

 天皇襲撃に失敗した僕達は集合場所として指定された廃工場でいつ、警察に捕まるかも知れない恐怖と、これから何が起きるかわからない恐怖に怯えていた。皆、拳銃を手にしていた。何かあれば、いつでも撃てる準備だ。

 緊張の為か、誰も一言も発しない。視線は常に、どこかに居るかも知れない敵を探している。

 ガン

 突然、音がした。その方に銃口を向ける。

 「ガキども、銃を下ろせ。家族がどうなっても良いのか?」

 そう声が掛けられ、全員が拳銃を下ろした。すると、そこには徳山を含む、5人の男達が姿を現した。

 「よう・・・ガキども・・・。失敗したな?」

 僕はグッと奥歯を噛み締める。

 「お、お母さんは?お母さんはどうしたの?」

 村田舞がガクガクと震えながら問い掛ける。

 「んっ?あぁ、まだ、生きているよ。約束だからな。だけど・・・失敗したんじゃあなぁ」

 徳山はもったいぶった言い方をする。

 「返して!お願い!返してよ!」

 舞は泣き叫ぶ。確か、村田の家は母子家庭だったはずだ。彼女にとって、母親は唯一の肉親なのだろう。いや、家族を人質に取られているのは皆同じだ。僕だって、喉から声を絞り出したい。

 徳山はそんな三人の少年の心を見透かしているのか、ニヤニヤと笑いながら見ている。

 「まぁ・・・少し腹ごしらえしようや。そんな精神状態じゃ、まともにこれからの話し合いなんて、出来ないからな。満腹になれば、少しは落ち着くってもんだ」

 徳山がそう言うと、一人の男が弁当の入った袋を持って来た。少年たちはそれを受け取る。弁当はハンバーグ弁当だった。

 とても、食事が喉を通る雰囲気では無かった。僕は肉の臭いを嗅いだだけで、それをそっと床に置いた。他の二人も同じだ。それを見た徳山はつまらならそうだ。

 「なんだ・・・腹が減ってないのか?せっかく用意したのになぁ」

 「それより、お母さんを返してよ!」

 「そ、そうだ。親父や母ちゃん、弟を返せよ!」

 徳山の態度に腹が立ったのか、僕以外の二人は怒鳴る。

 「慌てるなよ。言っておくが・・・お前等は失敗したんだ。家族は皆殺しにされてもおかしくないんだぜ?」

 徳山の言葉に二人はグッと言葉を飲み込む。

 「ははは。そう堅くなるなよ。俺らも無益な殺生ってのはあまりしたくない」

 徳山の言葉に僕達は何かの希望を感じたように少し、ホッとした。

 「だからって、失敗した責任は取って貰わないと、困るんだよ?」

 

 責任

 

 彼の言う責任とは、僕等が失敗した事を言うんだろう。だが、あんな作戦はバカげている。そもそも成功する可能性など何一つ無いのだから。

 「まぁ・・・君達にはもっと、期待していたんだがねぇ」

 徳山は薄ら笑いをして三人の少年を見下ろす。

 「あ、あれは無理でしょ?」

 非難めいた事を僕は言ってみた。この状況でそんな事を言ったところでどうなるわけでも無いが、言わねば、ただ、言われるだけだからだ。

 「無理?君らが死ぬ気でやっていれば、どうかな?どうせ、現場でビビって動けなかっただけだろう?じゃなければ、君等だって、発砲をして、あの場で射殺されていたはずだ。そうじゃないかね?」

 図星だ。僕は怖くて、何も出来なかった。他の二人だって、そうだろう。あの発砲が起きた時、その気なら、僕達も撃てば良かったんだ。だが、心の奥底のどこかで、誰かが撃ってくれたと安堵していた。それで、全てが終わった気になっていたんだ。

 「だ、だけど・・・かなり無謀な作戦だった。こうやって、ここまで逃げて来れただけでも運が良かったと思っている」

 僕は精一杯、言い訳をする。だが、それさえも徳山には心を見透かしたようなニタニタした笑みに僕は怖気づく。

 「まぁ・・・君たちの言いたい事もわかるよ。怖かっただろうからな。今更、もう一度ってわけにもいかないからな。まぁ、家族を返してあげようじゃないか」

 その言葉に僕等はパァーと顔を明るくする。その様子が徳山にはとても面白かったのか、声を押し殺しながら笑っている。

 「くっくっく。ただし、返してやるのは一組の家族だけだ」

 徳山は人差し指をピンと伸ばして、そう告げた。その瞬間、僕等は再び、絶望的になった。

 「じゃ・・・じゃあ、どうやったら返してくれるの?」

 舞が泣き叫ぶ。

 「君等はあの国から解放される時、一つのゲームをやっただろう?」

 解放される時に、僕等が命を賭けて行ったゲーム。

 それは思い出したくも無い。

 「なんだ?思い出せないか?サバイバルゲームだよ」

 徳山は笑いながらその悪魔のゲームの名を口にした。

 三人は互いを見ないようにした。

 「ここで殺し合えよ。道具はあるだろ?生き残った奴だけ・・・家族と一緒に家に帰してやる。それで・・・今後、一切、お前等には関わらない。これは約束してやろう。どうせ、警察にも睨まれているしな。お前等には近付けやしないから」

 徳山の言葉は信用が出来ない。だが、ここでそんな事を言っている暇など無かった。僕はすぐに残りの二人を見た。皆、同じようだ。互いに顔を見合わせる。

 撃てるのか?

 手には弾の入った拳銃。皆が同じ条件だ。距離は10メートルも無い。撃ち合えば、一瞬で終わるだろう。先に撃たねばやられる。それはわかっている。だが、身体が強張る。

 撃てるのか?

 僕はもう一度、自問した。あまりに無駄な自問だ。撃たねば、自分も、家族も・・・死ぬだけだ。

 「さぁ、命を賭けた戦いの始まりだよ。諸君。この一瞬を存分に楽しみ給え」

 徳山の掛け声で、火蓋は切られた。

 

 

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