第11話 悪人

 徳山はとある工場の事務所でテレビを見ていた。

 「おっ、やってるやってる」

 テレビで速報が流れた。字幕スーパーでの流れるニュースは天皇陛下襲撃についてだ。

 「チャンネル変えろよ。多分、今頃、特番に変わっている局もあるだろ」

 徳山の言う通り、チャンネルを変えるとすでに特番に切り替わっている局があった。そこで天皇陛下襲撃事件として、報道されていた。

 幸いにも天皇と皇后は無事だったようだ。現在、安全を確保するために移動中らしい。それ以外としては現場には警察官、一般市民も含めて、負傷者が出たらしいとの事だった。

 「やっぱり、殺せなかったな」

 徳山と一緒にテレビを見ている男が笑いながら言う。

 「当然だ。日本の警察の能力は高いからな。簡単にはいかないよ」

 「自動小銃や対戦車ミサイルでも持たせてやれば、良かったんじゃないか?」

 「バカな。そんな大きな物を持って、歩き回っているだけで、すぐに摘発される。出来る限りに小さくしたから、取り敢えず、発砲するところまで行けただけさ」

 テレビの画面ではレポーターが興奮気味に銃撃があった施設でレポートをしている。彼等はそれを楽しそうに見ているだけだ。

 「一人は無事に死んでくれたみたいだな。他の三人も逃げ出したようだ」

 「みたいだな。出来れば、全員が死んでくれたら良かったのに」

 徳山は素っ気なく言う。

 そこにゴム引きの白いエプロンにゴム手袋、長靴の男が入って来た。その姿は食品を扱う職場の恰好だ。

 「おう、作業が終わったぞ」

 「あぁ、すまないね。また、いつものように混ぜておいてよ」

 「構わないさ。こっちも量が増えるしね」

 エプロンの男はニヤリと笑う。それを見てから徳山はソファから立ち上がる。

 「そうか。腹飯前の仕事をしてくるとするか」

 彼はそう言って、テーブルの上に無造作に置いた自動拳銃を手に取る。それを見たエプロンの男は笑いながら問い掛ける。

 「そうか。帰ったら、コロッケでも用意してやろうか?」

 「ははは。そうだな・・・それは遠慮しておくよ」

 徳山は仲間を連れて、ある工場の事務所から出て行った。

 駐車場に停めてあった車の後部座席に乗り込んだ徳山の隣に座った男がスマホを見せる。

 「ようやく、編集が終わったよ」

 「そうか。まだ、流すのは早いからな」

 「わかってるよ」

 車はゆっくりと走り出した。外は田園風景が広がる。

 「田舎だな」

 徳山はそう呟く。それを聞いた仲間たちが笑う。

 「まぁ・・・これで、ここともおサラバさ」

 「そうだな。とっとと、国へ帰るとするさ」

 彼等はまるで、お祝い気分で騒ぎながら、車をとある場所へと向かわせた。

 その頃、工場に残された男は、休日で従業員が一人も居ない工場の中で清掃をしていた。ここは食肉加工の工場だ。冷凍倉庫には肉が幾つも吊るされている。ここで一度、凍らせて、加工をし易くする。

 凍らせた肉を骨から剥がして、ミンチ製造機に投入する。そして、ハンバーグやコロッケなどに加工するミンチ肉が出来上がる。

 骨は破砕機に掛けて砕く。どんな肉も跡形も無く消え去る。それが食肉加工工場だ。男は休みの日もそうやって、新たなミンチ肉を産み出していた。その肉はハンバーグ製造のラインに入れられ、焼く前のハンバーグへと変わっていく。それを、次の出荷用に番重へと入れて、終わりだ。

 男は薄ら笑いを浮かべて、出来上がった商品を冷蔵庫へと入れる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る