第9話ひとりあればぞ月を友
「姉ちゃん」
「大丈夫だよ、松ちゃん」
「絶対だね。本当に、本気に絶対だよね?」
「本当に、本気に大丈夫だよ。必ず帰って来るよ」小梅は
それでも松ノ屋の主人松太郎は小梅の
小梅の長期不在の理由がこれであった。
小梅は何も今から
とんだ
「大丈夫ですよう、旦那様。女将は明日、
「ええ、そうなのかい?」
納得した松太郎はケロリと
「まったくねぇ。あたしが出掛けるとなると、毎度々大変な騒ぎでサ」小梅は溜息をついた。「
「小梅さんはもうずっとこっちに暮らすんですか?」
「その事なんだけど」小梅は駿太郎に
これほど長居をする事になるとは小梅自身にも予想外だった。長くても2、3日と見積もっていたからこそ、手習いに来ている子供たちに
それが10日
「チマも
はぁと一段と深いため息が
小梅は故郷に骨を
「よしよし偉いぞヤタ。お前は本当に賢いな!」
まるで別世界から聞こえてくるような環の歓声がやかましい。
猫バカの
名前の由来は
黒い毛玉のような鳥が環の頭にふんわりと乗っかり、甘える様子は可愛らしかった。
駿太郎が近づくとヤタは急ぎ環を
「駿さん。ひょっとして、俺の見ていないところでヤタを
「
常に環の目が光っているのだ。「野生の鳥だから、面倒を見てくれる人間しか信用していないんだろう」
「まあ、そりゃあそうだね」
ところが、チョッチョッと小梅がねず鳴きすると、
単純に、嫌われているだけだったようである。
「ほら。駿さんは
そう言って環が
駿太郎達は今日のこの件に関して源信には声も掛けていない。医者は何かに気を引かれると足が止まり、何やかやと周囲を巻き込んで
内村については、危ぶまれていた腰痛が案の定再発し、昨日から自室に
―猫の
生き物に親しまない人々から見ればまったく馬鹿馬鹿しい話だろう。それでも。そもそもお弔いとは、死者の為だけのものではなく、死者と生者の両方を
良く心得ている住職は優しく
帰り道は心持足を早めて松ノ屋へ帰った。
「姉ちゃん、お帰り!」
松太郎の満面の笑顔に迎えられた。
------------------------
「よっぽど
檀那寺の往復の道々、そう言えばと小梅の急な里帰りの理由について駿太郎は
「ああ。その事ならもう、いいんじゃないかねぇ…。だって今更確かめようも無くなっちゃった事だしさ」小梅らしくも無い要領を得ない答えが返ってきた。そしてそのまま話題は他に移った。
それきりになるかと思いきや、松ノ屋に帰り着くなり「やっぱり駿ちゃんには見てもらって置こうかねぇ」と言い出した小梅が持ち出して来たのが前述の小皿である。
白地が少しくすんで見える
「ほら、覚えているかい。春先に常次郎ちゃんと3人でこんな
お母ちゃんの盗んだ皿。あれはその後どうなったのだろう?
一度思い出すと、そればかりが気になって
小梅は確かめる為に里帰りしてみるにした。
小梅の母、いちじくは10数年前に
それはさて置いて、いちじくの遺した数少ない遺品の中には件の皿は見つからず、今も
「いつか、おまんまの為に手放したんだろうよ。それがいつ、どこに行っちまったものやら。書付け1枚残っていなかったってんだからしょうも無いよ。それでも、もしやもしや、そんな事はあるまいとは思っても、春先に見たあのお皿と見比べてみても損は無いと」思いついたんだけど、松ちゃんがあの通りだから…。
帰宅の機会をうかがって日延べしている内に
小梅の許しを得て、駿太郎は松ノ屋の
よく分らなかった。
春先に常次郎が持ち込んで来た蛸唐草の小皿の事は、
「
------------------------
春先に見たあの小皿は―今や時すでに遅し―火災の際に失われたものと、小梅は素直にそう信じているようだ。
これは駿太郎にとって好都合。
あんな訳の分らない怪異を現しているものを、たとえ一時の事としても小梅には持たせたくない。説得をするまでもなく、
たとえそれがどんなに些細なことであっても、人の命を
そんな言葉が耳の奥底から、りんと響いてきた。
あの日もべた凪で、セロファンの表面にも似た一様な熱気で空気が
安西氏が駿太郎に助力を求めたのは、接客だった。
客と
後者の場合はこちらから先方へ
駿太郎に振られた仕事は店に
「あんたにだったら、安心して任せられそうだ」言うなり、安西氏はさっさとどこかへ出掛けて行ってしまった。
どのような人物が、いかなる
午前中に訪れた客は喪服の女だった。
女客の用向きは、不要となった
当の文箱はこれと言った特徴も無い、それどころか
「買取りをご希望ですか…。でしたら、大変失礼ですがこちらでお引取りした場合は
「いいえ、そういう訳には。それに買取りなど望んでいません。ただ、お願いしたいのはこればかりでは無くて、
「はあ…」
駿太郎の
「わたくしは
―帰山?
安西氏の仕事仲間だろうか。仲間の頼みだから断り切れなかったと言う事か。
いずれにしろ雇用主の顔を
「承知しました。こちらのお品はその懺悔話とやらと一緒にお引き受けしましょう」
ああ…。
そのように聞こえたような気もするが、
それでも次の言葉からは、深い
「それを聞くばかりです。有難うございます」
一体どのような話を聞かされるものか想像もつかないが、駿太郎としては雇用主である安西氏に
客はまるで自分の内側を
「その前にひとつ。もしもあなたの望みが叶うとしたら…それをまず心に止めておいて下さいまし」
望みという言葉自身の持つ光が、チカリと瞬いた。
そうして客が語り始めた物語の中にはしかし、そのようなきらめきを見つける事はなかなか難しかった。
「
誰にも気づかれない悪戯は詰まらない。さりとてなかなか探しに来ない鬼に
「そうして七年が過ぎたある日、父と母は―恐らくは互いに手を取り合って―水の中へ身を沈めたのです」
「心中…、という事ですか。それはまた何故?」
「さあ。当時その理由に思い当たる人はひとりも居ませんでしたし、遺書のようなものも残されておりませんでした。救い出された父が一心不乱と握っていた女物の手鏡から、母も一緒であったのだろうと…知れたと申しますか、誰もがそのように想像した。それだけが根拠となっているのです。父だけは辛うじて命を取り留めたものの、人の形を残すばかりの
母親の姿は影も形も見つからなかった。それ以降、
年老いた祖父母にとっては
幼子は迷わず母親の実家へ追いやられた。
息子の身柄は、それまで散々恩を売っておいた親類の家に押しつけた。
「これはわたくしがまだ三歳になるかならずやの頃の出来事です。母方の祖父母、つまりはわたくしの
今度は遺体が二つ揃っていた。
ここで駿太郎は苦しくなり、「疲れませんか?宜しければ、少し甘い物を入れましょう。お茶も替えます」席を立った。
これまでのところ客が語っているのは身の上話の域に
あの文箱は本当に曰くつきの品なのだろうか?
実際はそれを口実として、再び
湯を沸かし直しながら、
「これまでは
甘味で一息入れた後、客はおもむろにそう切り出した。
「わたくしが初めて父と対面したのは、わたくしが15歳を迎えた冬の事でした」
三歳になるかならずやの頃に父母と別れ、父方の祖父母も一度に失くした。そんな行く立で、本来であれば近しいはずの人々の記憶も
それはそれとして、自身が生まれ生きているのであれば父母があるのが
「父は…何と申しますか。息をしている珍しい人形でした」
人形と言うのは、美しいと言う意味合いも含めて、と客は付け加えた。
「美しいと一口に申しましても様々。
一目で嫌いになりました。
「誰にも言いませんでしたが、わたくしの印象として父は実に不吉な気配を持った人でした」
不快な会見を手早く済ませた後は勉学に
まるで
開け放しの窓から風が渡る。
真夏だと言うのにうそ寒い、冷たい風が座敷を通った。
「お父さんとは、それきり二度と会わなかったのですか?」
「いいえ。一月ほど前に父の病院から、不治の病で余命いくばくもありませんという連絡を受けて、わたくしは世間の目を気にして出掛けて行きました」
父親の病室に行くと先客らしい人影が有った。
「わたくしは少々
眼を上げた先客はしばらくこちらをジッと見詰めた後、真っ直ぐとこちらの名前を言い当てた。しかしそれよりも何よりも驚いたのは、その声が女性のものであった事である。それも聞き覚えのある。
近くへ寄って確かめ、更に息が止まるかと思うほど驚いた。
「それも祖母の若い頃に…。と、言ってもわたくしが生まれた時には五十の坂に差し掛かった頃なのですけれど」
「それはもしかして、亡くなったとされていたお母さんですか?」
「そうでもあり、そればかりではありませんでした。その人の話を信じるならば、ひとつの身体にふたつの心を収めて両親がそこに居たのです。わたくしの名を呼んだのは父の方でした」
状況が飲み込めずに絶句する駿太郎に微笑を向けて客は続けた。「わたくしも、最初は何が何やらまったく分りませんでした。ですが…」
先客の言葉遣いや声の調子、
「僕はもうすぐ死ぬようだから、もうお前のお母さんに返さなくてはならない。それで帰って来たのだよ」その人は寝台に横たわる形ばかりの父の身体に、ひたと視線を向けながらそう言った。
「それはどういう…?」
「お前には本当に済まなかったね。でも、僕は思いのままに生きてみたかった。それでお前のお母さんの人生を借りてしまった。本当に素晴らしい人生であったよ。最後にお前の顔を見て声を聞き、お前の今が幸せである事を確かめる事も叶ったのだから、もう充分だ。ありがとう、…さようなら」
今も寝台の上の父がしっかりと握って誰にも取り上げる事が叶わなかった手鏡を、その人はあっさりと摘み上げ、思いきり床に叩きつけた。
手鏡は粉々に割れて散った。と、同時に鏡を割った当人があっと声を上げて蹲った。
一体いま、何が起こったのだろう?
寝台の上の父親を見やると、どうやら息をしていないように見受けられる。医者を呼ばなくては。
残念ながらお母様の
「
促されるままに入院の手続きを取り、差し当たって優先順位の高い案件の方から手をつけた。父親の葬儀の手配だ。直系の親族といえば、もはや自分だけなのだから仕方が無い。それにしても形だけでも
必要と思われる日用品を整えて病院を訪れると、またしても先客の姿が有った。肩幅が広く、どっしりとした身体つきの男性らしい。訪いを入れるより先にこちらに気付いた男性は
差し出された名刺には帰山とある。肩書は無数に有り、よく分らないが何やらの学者のようであった。
「今日は別の友人を見舞うためにこちらに来ていたのですが、病室の中にまた別の見知った顔を見つけたのですから驚きましたよ。わたしはあなたのご両親とは年来の友人です」
ここには母一人しか居ない。それにも係わらず、この人は両親と言った。
どうやら事情の
「彼らは長い間ふたりでひとり、ひとりでふたりの生活を送って来たのです。それが急に別たれたのですから、しばらくは口を利くことも難しいかも知れません」
その人は寝台の上に身を起こしているとはいえ、
「お近づきの印にここはわたしにご
帰山氏の勧めるままに駅のカフェに場所を移した。
「こんな形でお会いするのは少し残念な気もしますがね、予定通りでもあったのですよ。かねてから、自分の身に何かあった際には宜しく頼むというのが彼の口癖でありましたからね」
「あのう…。彼と
「そうですな。そう。お訊ねになりたい事は山ほどもありましょうが、ここはひとつずつお話ししていく事と致しましょう」
帰山氏は元よりそのつもりだったのだろう、いまふたりが差し向かいに腰を落ち着けているのは周囲の
「彼、もとい彼女と申し上げた方が宜しいか。彼女の中には明らかに別個の人格がふたつ確認されました。ですから、ひとりでふたりと申し上げたのです」
「本当にそのような事が有り得るものなのでしょうか」
「現にわたしはふたりと親しく交わって来たのですから、そういうことも有り得るのですとより他に申し上げられません。いまだ見つかりませんが、海の向こうの文献を
…―症例。
「それは病気であると?!」
この場合、最も
「その可能性もあります」
まずまず納得のいく
病気であったと言うのであれば誰のせいでも無い、致し方ない事では無いか。それにしても母とは
今朝は玄関から外へ踏み出そうというだけでも、まるで漬物石でも
あのような
その日仕事から帰宅した夫を捕まえるなり、帰山氏との
「お前がその様に手放しで
夫は目をパチクリさせながらそう言った。
帰山氏の
交歓の場は旨く行き、「お前の言うとおり、愉快な人だね。
とは言え、ずっと年上の人物を相手の友達づきあいは憚られた。せいぜいが、母を見舞った際に帰山氏と行き会えば、気兼ね無く言葉を交わすという程度に収まった。
そんなある日、母が見慣れぬ
帰山氏からの見舞いの品だろうか。
趣味の良い化粧着は母に良く似合っている。友人であればこそ、母の好みも把握しているのであろう。心づくしが感じられた。
―それにしても。
ひとつだけ不可解な品も含まれていた。
古びた文箱。それも元々余り
「それが、こちらの品だったんですね?」
「ええ。この文箱です」
「ああ、それは恐らく番頭が手配したのでありましょう。わたしは一切知りませんよ」
見舞い品の礼を述べた時に帰山氏から聞かされた返事がこれだった。
「番頭?」
「彼…、もとい彼女は勤め人の様ではありませんでしたから、何か事業を起こして成功した方なのだろうと、わたしはそのように断じていました。そうして実際、何不自由の無い身の上であるようでしたな。わたしが知っているのはそれっ位です。何しろわたしは
風邪や胃痛に頭痛と言った一般な病気については、=身体の不調と
果して、そのような人に事業を起こせるものか。しかも成功させるとは?いやしかし、これは帰山氏の
「その、番頭を務める方の連絡先はお分かりになりますか?」
「知りません。そのようなお付き合いでもありませんから」
「学者さんであればそんなものだろうよ」
夫の
「それで、どうされました?」
「どうするもこうするもありませんよ。母はぼんやりしているばかりで全く口を利きませんから、何ひとつ聞き出せませんし、看護婦や受付に聞いても、忙しくて覚えていないの一点張りで
聞きたい事、確認したいことを覚え書きとして
「その帰山さんという人は、お母さんとは年来の友人との事でしたが、本当に自分の友人の暮らし向きなど一切合切知らなかったと言うのですか?」
「何でも帰山さんは若い頃から山の温泉地に避暑に出掛けるのが習慣だとか。母ともそこで知り合ったとの事です。奇しくも母も同様の習慣を持ち合わせていたので、示し合わずとも毎年そこで落ち合う事になります。顔を合わせれば友達づきあいの楽しい時を過ごしていたようです」
友達づきあいというものをどう捉えるか。大人の解釈では多岐に渡るだろう。では、子供なら?
人には誰しも、名前も正体も不明ながら、共に居てただ々ひたすら楽しく遊んだ記憶だけが鮮やかに残る友人の思い出がひとつくらいは有るものだ。帰山氏の言うそれはそのような、まるで子供の様に無邪気な関係である。
現実味が無いが嘘も無い。
「いかにも学者さんの在り様でしょう?
待てど暮らせど、母親の病室で見かける来訪者の姿は自分と帰山氏より他に無かった。
「然様ですか。はてさて…」帰山氏は
今や行きつけとなった感のある駅のカフェであった。
今日は停車場側の窓辺で差し向かいに席を占めている。床に視線を落とすと、駅前側の窓に
「思い付きですが、山のホテルに問い合わせてみましょう。わたしもお母様も同じホテルを定宿としていましたから。
「お手数ですが、宜しくお願い致します」
―ところで―
深々と頭を下げる耳に、少し
「あなたは一体何を知りたいと望まれているのですか?あなたのお話によると、その生死は元より、何十年も消息不明であったお母上とこの度再会された。しかし、共に居られる時間は短い可能性がある。現状を整理してみるとそれで宜しいですな。それならば、今この時をお母上と一緒に過ごす事が一番重要なのではありませんか?」
眼を上げるとそこには心底不可解といった表情の帰山氏の顔が有った。
「今ならその言葉の意味が分りますけれど、その時のわたくしには帰山さんが一体何を仰っているのかさっぱり分りませんでした」
「もしあなたがこれを我が事とした場合、どのようにお考えになります?」
ねえ、骨董屋さん
客の呼び掛けに、駿太郎はハッと眼の覚めるような心地がした。
別に上の空で居たという訳では無い。どこか自分と似通った客の境遇を思わず知らず“我が事の”すぐ
駿太郎には実母の記憶は一切無い。その代わりその場所にはすっきりと清子が収まっているので、その事実によって幸いにも憂いを感じた事は無い。しかし実父については不詳である。十歳の夏までは共に暮らしていたはずなのに、ぼんやり霞がかったように記憶が
「私はどちらかといえば、その帰山さんという人と同じ意見です」
せっかく帰って来た父に、今までどうしていたのかと問う事はしないだろうと思う。もしかして父がある時点で食うに困っていたり、病に伏せっていた事があるにしろ、“今”からそこへ手を差し伸べる事は叶わない。すぐに言えば知るだけ無駄である。
駿太郎の応えに客はふっと短く息をついた。
「やはり男と女では
それは果して男女の違いだけに収まるものなのだろうか?
そうした駿太郎の無言の問いに応えるかのように客は続けた。
「でも、そうではなかったのですよね。帰山さんも夫もあなたも、結局はわたくしがどうしたいのかを問うていました。よくよく考え合わせてみれば、わたくしは単純に、母が邪魔だったのです」
物心がついてからこっち、母親の所在はいつも不明だった。
幼い頃には、お前の母は遠くへ出掛けているから今ここに居ないのだよと言われ。もう少し成長してきたところで、お前の母は病を得て死んだのだと打ち明けられた。
お前の母は残念ながら、もうこの世のどこにも居ないのだ。
打ち寄せる波のように繰り返し々そのように言い聞かされてきた。なのに中年を過ぎた頃に
「わたくしがどうしたかったのか?それは、どこかに決定的な不具合を見つけて、あの人をわたくしの生活から弾き出してしまいたかったのです。わたくしと同様の境遇を生きるような人はそうそう居ませんから、わたくしの気持ちをくみ取ってくれる人は希です。それが今更痛いほど分りました。お母さんとは無条件で愛される存在のようですけれど、わたくしには分らない。だって、その人はわたくしの人生の中に最初から居なかったのですから」
これはやはり、今後二度と会うことのない人間を相手の語り捨てで、こちらも誰にも語らず聞き捨てにすべき話であるようだ。
「そろそろ少しお疲れでしょう。形ばかりですが軽食も用意してありますので、宜しければここいらで一度休憩を入れませんか」
安西氏の手配した仕出し弁当を広げつつ駿太郎も小休止に入った。
曰く付と称する品を持ち込んで来る客は皆こうしたものなのだろうか。いや皆までとは言わないまでも、圧倒的にこの手合いが多いに違いない。安西氏は恐らく逃げたのだ。駿太郎としては報酬が用意されて以上、文句をつける訳にはいかないのだが。
「それでその後、帰山さんの請け合った宿帳の件はどうなったのですか?」
「あれはもう、そのまま
宿帳に記された住所を調べてみると、そこはまた別のホテルの所在地だった。それもかなりの格式を持ち、敷居も高い宿であったため、過去の泊り客に関して問い合わせたところでやんわりいなされて相手にもされなかった。
「それでも確かに母は裕福な暮らしをしてきたのだろうと言う事だけは分りました」
平静な声で話しながらも、客の膝元に置かれた両の
「ですからわたくしは、今度は直接母に聞くことにしたのです」
「えっ」駿太郎は素直に驚いた。「それまでお母さんに話しかけた事は無かったんですか?!」
「当たり前でしょう。姿だけなら知り人に似て懐かしくとも、まったく知らない人ですし、誰とも確と…、あの年来の友人であるはずの帰山さんともまともに顔を合わせようともしなければ挨拶ひとつすら交わそうともしないのですから、あの人はわたくしにとっては息をすることが出来る珍しい幽霊でしかありませんでした」
前にも聞いたような言葉づらが飛び出した。明らかな怒りを感じるものの、一体何に対する怒りなのか、駿太郎には全く分らなかった。
―さりとて、相手が有っての事を一人決めしたところで、捗々しい首尾など得られるはずも無い。それは計算の内である。
まずは意中の相手の関心を引く為に、当の息する幽霊に向かってあれこれ話し掛ける事に努めた。
身支度をさせながら。食事の給仕をしながら、一等分り易いその日の天気の話から初めて近頃新聞紙上に取り上げられている世上や事件など、手当たり次第に喋りまくった。
けれど、俄の思い人は一向に応えてはくれない。
しかしこの女客も簡単には諦めなかった。
それならそれで、日々気がついた事を記録に留めて相手の気を引くような話題を
たまたま満腹になったから食べ残したのか、嫌いだから除けたのか分らないお菜や、“幽霊”の目線がふと触れた先に有った光景だとかを帳面につけ始めた。
帳面はまたあの文箱に収めておけば分り良いだろう。そう思い粗末な木箱の蓋を開けてみると、以前確かに入れたはずの覚え書きは一枚残らず消えており、宛名の無いハガキが一葉入っているばかりだった。
思わず手に取り、裏を返すとそれは絵ハガキだった。
「まぁ…海」
取り立てて珍しい物でも無かったが、ああ実家のすぐ傍の海岸の風景に良く似ていると思ったら自然と声が出た。
呟いた言葉に反応して、幽霊がこちらを見た。
ひたと眼が合ってドキリとした。
女学校時代の友達の誰かにそっくりな真っ直ぐな視線。
「本当に?」幽霊が初めて口を利いた。
先にお前の父だと称して話し掛けてきた時とは音色も調子も違う別人の声だった。
―彼女の中には明らかに別個の人格がふたつ確認されました―
帰山さんの言葉の意味はこういう事だったのかと、今度はしっかりと
「…何が?―ですか」問い掛けに応える問いの言葉は
「今、うみって」
「そう。解かったわ」
幽霊はくたりと寝台に横になると、そのまま眠ってしまったようだった。
ようやくに“幽霊”の関心を捕らえて言葉を交わす
「それでわたくしは自分の本心が一体どこに在るのかが、すっかり分らなくなりました。今更ながらにわたくしは、本当には何を望んでいたのでしょう…」
ものの数分か数秒間の出来事だったのだが、その寸の間に魂が
病室を出て階段を一階まで降り、また階段を一段ずつ踏んで最上階まで上がった。当ても無く各階をぐるぐる歩きまわって一階まで降りて行き、またぐるぐる歩きまわりながら最上階へ上がる事を繰り返した。そうするうちに少しずつ心の表面が波打ち始め、自分の周囲を忙しげに往来する病院職員の姿に目がいくようになった。そうして外の雨にも気がついた。
今日は雨具の用意などしていない。病院で貸してくれるかしらなど、ぼんやりと考えていると、血相を変えた様子の看護婦長がまっしぐらとこちらに走って来た。
“お母様はどちらにいらっしゃいます?ご不浄でしょうか、それとも軽くそこらをお散歩がてら歩きまわっていらっしゃるんでしょうか?”
意味が分らない。
「母なら部屋で眠っていると思いますけど?」
今にも舌打ちをしかねない看護婦長の
母が大人しく自室で眠っていたのであれば、看護婦長がこんなに
では、母は今部屋に居ないのか…。
―じゃあ、きっと海だ。
真っ直ぐにそう思った。
病院を走り出ると、風がついて激しさを増した雨が
それでも別に槍が降ってきたわけでは無い。なりふり構わず雨に打たれながら走りに走った。海岸まで出るとそれらしき人影を見つけた。
痩せて小柄な身体に雨に濡れた
細く小さな身体の向こうには、信じられないほど大きく膨れ上がっては跡形も失く砕け、砕けては更に大きさを増していくような大海原が見えた。
危ない。そっちに行っちゃ駄目、行っちゃ駄目、止まって!
でも、どう呼び掛けて伝えたら良いのかが分らない。
チョットあなた。ねえっ、アンタ。おおー…い、そこの人―。どれも違う。
「お母さんっ!」
人影がくるりとこちらを振り向き、口を開いた。
が、雨と風の音と、海鳴りに
見る間に母の後ろの海が天に吊り上げられるように持ち上がり、あっという間に母の姿を呑み込んでしまった。
「うわあぁあああっ!!?」
人のものとも思われぬような、野太い絶叫が耳を打った。
こんな声は今まで出した事も無ければ、出るとも思った事は無かった。
困惑と混乱の最中、母を
「後聞きによれば、わたくしその時母の後を追って海に入って行こうとしたそうです。それをわたくしの後を追って来た病院の方たちが必死に押し留めて―、それでもわたくしはそれを振り払って海に入って行ったのだという事でした。辛くもわたくしは命を取り留めましたが、それから十日の間わたくしは一度も目覚めなかったそうです」
駿太郎は改めて客の喪服に眼を留めながら、「では、お母様は…」多分これ以上の言葉は要らないであろうと予測しながらも、敢えて問い掛けた。
「
「ご愁傷さまで御座います」
「いいえ」
意外な返事に眼を上げると、喪服の女はすっきりとした晴れやかな顔をしていた。
今までのやりとりを思い起こせば、
しかし、目の前にいる喪服の女の表情は優しく穏やかに落ち着いている。駿太郎の想像した世界とは縁が無いように見受けられる。余りにも不思議だったので聞かずには居られなかった。
「お母様が亡くなって、悲しいでしょう?」
「いいえ」女は微笑さえ浮かべた顔を左右に振る。
駿太郎としては手詰まりとなって、この後どのような声を掛けて良いのかが分らなくなった。
喪服の女客はひとつ頷き、ひたと駿太郎の顔に眼を据えた。
「わたくしは最初に、もしもあなたの望みが叶うとしたら、と申し上げましたね?わたくしはそれが、叶ってしまったのです。ですから悲しい事などひとつも御座いません」
駿太郎は首を傾げながら、「叶ったと仰るのは。あなたの望みが、と言う事ですか?私は思い出せる限りで、それを聞いた覚えはありませんが」
「ええ、そう。そのとおりです。わたくしが今申し上げたのはそこに辿り着くまでの道筋を端折った結論だけなのですから、あなたにはさっぱり訳が分からないでしょうね」
何しろわたくし自身にも、母と共に遭難して一時でもこの世を離れてみるまでは、自分が何を望んでいるのかが分らなかったのですからね。
喪服の女は一瞬空の果てを見通すような、或いは地の底を割るような鋭い視線を足元に注いだ。
そうして喪服の客はさらに“この世を離れていた十日間”について語り始めた。
------------------------
それはとても小さくて、密やかな音。
その
朝方の、それも早い時間にはチマの足音が確実に聞こえる。
安心しきって安楽に生きているからなのか、加齢によって身体が
野良連中の事はいざ知らず、人と共に暮らしている猫が次に取る行動と言えば、人の顔に鼻面を近づけてきてウム?フム!匂いを嗅ぐのが
まだ肌寒い時節であれば、布団に入れろ!の合図だし、それ以外であれば単純に、独りでは退屈だから起きろ!の意味だ。
今は夏だから後者だろう。見当を付けて待ち受けていたのだが、チマの気配は一向に近寄って来ない。
どうした、チマ?
夢うつつの中、
ああそうだった、ここは家ではないのだ。眼を開く。
日の出の直前というところか、部屋の空気はほのかに明るく、うっすりと青みを帯びて静かに
軒先に眼をやる。この家の風鈴は一風も二風も変わっている。何でも安西氏の
そのうち風鈴は揺れずとも、継続して何らかの音が聞こえている事に気が付いた。
起き出して外の様子を確認する。
「雨か…」
雨脚は然程強くは無いようだ。しかし、すぐには止みそうにも無い気配だった。
まるで金魚鉢にでも放り込まれたような水の気配に
昨日の客の話を思い出すではないか。着地点としては、決して嫌な話では無かったのだが、何ともこう…釈然としない内容であった。
それはそれとしてひとまず置き、今日も来客が有るやらどうやらは分らない。この家の主である安西氏は
とりあえずは一通りの掃除は済ませて、いつでも客を迎えられる準備をしておくことにした。
遊びが有る…と言うよりも
こうして、いいだけウロチョロしているのにも関わらず、駿太郎に話し掛けて来るモノは皆無だった。
格式の高い店で扱われている品物はそれだけ気位も高いのだろうか。
骨董店とは
古道具屋に流れてくる輩にはお喋りな向きが多くて、よく駿太郎に絡んで来た。
面倒ではあったが、相手をしてやると過去の人々の暮らしぶりが色々と分って面白かったのは確かだ。
駿太郎は、
何しろそんなモノに出くわした事は一度も無いのだ。
それにしても、あれは一体何なのだろうと思う。
かつての主を慕って嘆く道具も居たが、道具類達との交渉とはほとんど一方通行で会話など成立するのは希だから、その主とやらが百年以上前に存命だった人物なのか、直近何年から何十年以内に慣れ親しんだ人物なのかも全く不明だ。そもそも、生きても居ない輩の記憶とは一体何なのか?駿太郎にもよく分らない。
ただ、命らしきものを宿して(いるように感じる)、その上、独特の声まで得て駿太郎に関わって来ようとするモノが居るのは知っているというだけである。
とりわけ“曰く付品”については問答無用として不問に伏す。理由は分らないが身体が本能的に反応して回避を望むのなら、触らぬ何とかには祟り無しである。
―その点でも昨日の話は全く持って腑に落ちない。
例の品は客の持ち込んだいかにも女好みの愛らしく華やかな色柄の風呂敷に包んで玄関先の下駄箱の上に放ってある。どう見ても単なる古びた汚い木箱で、それ以上でもそれ以下でも無い。
そのようなモノに何が成せるだろうか?
もしも駿太郎の店に持ち込まれたのであれば、二束三文で引き取った後は速攻、芋でも焼く為の
しかしここは安西氏の店であり、駿太郎の店は先ごろ焼失してこの世から消え失せた。そこは、今はどこにも無い場所だ。
そんな事を考えていた矢先。唐突に、
ごめんください
階下で
「いらっしゃいませ」出来る限り明るく明瞭な声音で応えて、駿太郎はトントン階段を降りて行った。
階段の終着点である玄関先で出会ったのは身形の良い小柄な男で、駿太郎の姿を認めると
「留守番の者です」
「安西さんが、あなたに留守を預けたのですか?」
「然様ですね」
「ああ、あのような方にも、やはりお友達に類するような方がいらっしゃるのですね?それは安心しました!」そう言いながら、小柄な男は手にしていたコウモリを玄関脇に片寄せて立て掛けると、許可も求めずさっさと靴を脱いでおかめ屋に上り込んだ。骨董品を
「僕はこういう者です」
差し出された名刺には紅蛇楼とある。
「―こう…だろう、さん、ですか?」
紅蛇楼は無間断の微笑のまま、大きく
これは
「ひょっとしてあなたが、帰山さん?」試しに呼び掛けてみた。
「は?」
違うらしい。
「ああ…、」
紅蛇楼氏と相前後して帰還した安西氏が、紅蛇楼氏の姿を認めて開口一番漏らしたのは、いかにもうんざりした調子の溜息だった。「コイツはなぁ、すぐに言えばやっかいな野次馬だ。だからコイツの話は丸ごと聞き流して、決して乗らない方が安泰だ」安西氏は当人を前にして、
「酷いなぁ。それは余りにも酷い言い様ですよ、安西さん。僕は飽くまでも学術的興味を持って、これまでと同様この先も怪異の探求に
「積極的に分りたいとはサッパリと思わんな。だがな、分りたくも無いのに分る事はある。
紅さんなる呼び掛けには親しみの色が有った。好悪を超えた腐れ縁とやらで結びついている相手の様だ。
紅蛇楼氏は安西氏の突き出した風呂敷包みにガバリと取り付いて、いそいそと結び目を解き始めた。実用一辺倒で余計な装飾ひとつ無く、使い込まれてややくたびれ気味の布地の間から、大人の男の片手の平をうんと開いた位の大きさの
「この中に、例の品が?」
「ああ。多分は国産品のカパーラが一口入っている」
「えっ、河童ですか?!」
一瞬、紅蛇楼氏の無間断の微笑に隙間が入り、思わずと言った
「河童じゃあ無くて、カパーラだ。ヒトの頭の骨の、
それを耳にして理解が至った時に自分がどのような顔をしていたのかは、勿論駿太郎自身には分らない。
「ところで紅さん、せっかく流れてきたカパーラだ。何か有ってもいいよなあ?」
安西氏の呼び掛けに紅蛇楼氏はニヤリと笑い、玄関先に置いたコウモリを引っ掴むと勇んで表に飛び出して行った。
「嘘だよ。探してみればそんなもんもどこかに有るのかも知らんが、ありゃあ偽物だ。それであんたを雇う事になったんだ」
それを先ごろ安西氏の懇意にしている人物が射止めたのだが、それからいくらも経たずに偽物である事が判明した。
おかめ屋は一人で切り回している店だから、八つ当たりに付き合っている間は商売が完全に棚上げになる。いつもの通り閑古鳥を良いだけ鳴かせていられるのであれば問題は無かったが、こんな時にこそ、狙ったように外せない依頼が舞い込むものなのである。
「帰山さんには甥っ子が随分と世話になっているからな、あっさり無下とは出来なかったんだ。お蔭で助かったよ」
助かったのは駿太郎の方だ。安西氏の提示してきた報酬は、なるほど環が得意満面に鼻先を高々と
「古道具屋さん、あんたイケるクチかい?」
「―まあ、多少」
真夏の盛りに地獄の如き鍋が煮えている。
とは言え、これは暦の上だけで判断した場合の話である。
駿太郎の知る限り夜明け前から降り始めていた雨は、正午を過ぎた今も休む事無く生真面目に降り続いていた。戻り梅雨と言うには季節に間が空き過ぎているが、このうそ寒さに理由を付けとするのなら、他に納得の付く答えは見つけられそうに無い。
まあともかく、今日は熱い、が=美味いに直結してしまう様な天候なのだ。
角樽の次に八百屋が、その次に魚屋が訪いを入れ、それぞれが酒屋と同様の
気候を鑑み、献立を決めて実際に包丁を振るったのは安西氏である。
安西氏は今、紅蛇楼氏が手ずから持ち込んだ葛餅に好きなだけ黄粉を振り掛け、好物の黒蜜をたっぷりと注いでご満悦の様子である。意外にも彼は下戸なのだそうだ。
「それで、
安西氏が懇意にしている人物は通り名を“達磨さん”と号しているようだ。
「障りの部分については口外を差し止められているから、紅さんにも話すわけにはいかないが、まぁ、大変だったな。見た限りの事を話せば、
達磨さんの八つ当たりっぷりはなかなか盛大なものであったらしい。
「あの、温厚な達磨さんがですか!?」
「紅さん、
息を飲んで安西氏の話に聞き入っている紅蛇楼氏の手は箸も折れよとばかりに硬い
―それにしても。
まったく日常的ではない、それどころか人の生活にはまったく不要と言っても良いような事に向けられる関心とは、一体どこから湧いてくるものなのだろう?
角樽の中身を消費しているのは専らに紅蛇楼氏である。彼だけが頻々と用を足す為に中座していた。
「安西さん。俺は今まであんなような人と付き合った事がありません」
紅蛇楼氏に嫌悪の気持ちを感じている訳では無い。単純に不思議だった。
「うん…」もぐもぐ。
安西氏はしばし葛餅を楽しんで呑み下した後、「あれを見ろ」夏座敷の果て、玄関先の姿見を指し示した。「アイツがあんな風な理由の一つは、多分あれだろう」
安西氏の言を借りれば、積極的に見たいとはサッパリ思わないがともかくそれを見た。今日は覆いが掛けられているようで鏡面が見えない。
「良く見ろ。あれは、あっち側から覆いが掛けられて居るんだ」
「ええっ!?」背中が粟立った。
「理由は分らんが、紅さんはアイツ等に酷く嫌われているようなんだ」安西氏はもうひとつ葛餅を頬張った。
用を足し終えて戻って来た紅蛇楼氏に、安西氏はとある“
「えっ…。それは―…」
余興とは何の事は無い。祟り神を押し込んである小部屋への入室だった。
駿太郎なら
「そうするとこちらの古道具屋さんが、本日仕入れたて。ほやほやの不思議話を聞かせてくれるそうだ」安西氏は駿太郎の業務報告をそのまま景品に当てるつもりらしい。
途端に紅蛇楼氏の
「
開かない。
開かずの間とは、本来こうあるべきだ!との見本のように。
紅蛇楼氏は脂汗を掻きながらも奮闘している。
まるで、内側からつっかえ棒でもかられている様ではないか?想像してゾッとした。
鏡のあちら側の仕打ち…。“サッパリ”考えたくない事柄である。
「古道具屋さん、コイツは当たりだ」
葛餅を平らげた後、安西氏は次の好物である瓜に取り掛かっていた。今
ほい、と差し出された瓜の一片を受け取って口に入れると、優しい甘味が体中に染み渡った。
「紅さん、それまでだ。もう良い」
サッと立ち上がった安西氏が祟り部屋の引き戸に手を掛ける。
アッサリと引き戸が開いた。
「古道具屋さん、アイツらは紅さん相手だとこう来るんだよ」
安西氏に名指しで呼び掛けられて、
そこは、もぬけの殻だった。
「アイツら、一体どこに行っちまうんだかなぁ」
紅蛇楼氏は落ち込みのあまり、一回りも二回りも身体を縮めて蹲っていた。
安西氏は本当に人が悪い。
「喜べ、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます