第7話 「鳩を飼う…1」

 僕が秋田に住んでいた頃、伝書鳩のブームだったんです。全国では鳩を飼う人が多く、大人が中心となってブームを作っていたんです。そんなある日、父親が1羽の白い鳩を買ってきました。なんで父親が鳩なんか買って来たのかわからないけどさ、文鳥か十姉妹かなんかの小鳥を飼うような気でいたのでしょうね。でも鳩って知ってるでしょうが、文鳥なんかよりでっかいの。その白い鳩を1羽がやっと入るようなカゴに入れて飼うようになりました。前から飼っていた白い文鳥と合わせて2羽になったんです。

   

 「鳩ってのは、飼ってると自分が飼われている場所を覚えていて、放してやると帰ってくるんだぞ」って父親が自慢するように言うんです。僕は、しばらく飼って・・・ここに慣れたら外に放してみようかって言いました。父親はニコニコしてました。

   

 翌年の正月のこと、僕たちは岩手の一関って街にある母親の実家に行くことになって、鳩と文鳥を置いて3日間家を空けることになりました。僕は文鳥と鳩にたっぷりと餌と水を与えてから家を出ました。そして4日後、僕たちが帰ってみると鳩は元気に生きていましたが、小さな文鳥の方は死んで冷たくなっていました。

   

 それからしばらくして、僕は試しに鳩を外に放してみることにしました。母親は「帰ってこないから、やめなさい」って止めるんですが、僕はもう鳩を放したくて仕方がありませんでした、放した鳩が家に帰ってくるのが見たくて見たくて・・・。カゴを開けても鳩は出てきません。怖がって“ウウウウ”って鳴くばかりでね。仕方がないからカゴの後ろからつつくと鳩はバタバタバタってカゴから出て飛びました。でも、すぐに家の前の電信柱に止まってこっちを見ています。「あ、こうやって帰ってくるんだな」って、でもよく考えると鳩が帰ってくるところがないんですよ。小さなカゴを鳩に向けましたが鳩は見向きもしない。当たり前ですよね(笑)。しばらくすると鳩は「ククウウウ」って鳴いたかと思うとどっかに飛び去っていきました。そして二度と帰ってきませんでした(笑)。

   

 普通はそれで懲りるんですが、父親は僕を喜ばそうと思って、またまた鳩を買ってきました。今度は2羽。雄雌の番でした。今度は鳩が帰って来れるようにって小さな鳩小屋まで作ってたんですよ。今考えればまめな親父ですよね。6年前に亡くなってるけど・・・感謝してます。

 

 その日は遅かったので、2羽の鳩を作ったばかりの鳩小屋に入れて、翌日、じっくり鳩を観察するのを楽しみにして寝ました。そして次の日の朝、僕はわくわくして鳩小屋に行くと、鳩小屋の様子がなんだか変なんです。小屋の前にたくさんの羽が散乱していたんですね。鳩小屋の中をよく見ると2羽の鳩が血だらけになってて動かないんです。怖くなった僕は、正視できないんですよ。しかたがないから父親に知らせると急いでやって来て、小屋の中を見てくれました。「猫にやられてる。2羽とも首がなくなっている」って言うんです。ショックでしたね。

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