1部 第3話 1 新しい仲間
マリカの家にアレッドが同居を始めてから、さらに1ヶ月が経とうとしていたその日も、ふたりが屋台で朝ご飯を食べているとき、マリカが気になる事をアレッドに漏らした。
「最近工場以外だと寒くない?」
「マリカもそう思う?」
ここ数日の、気候の変化の話題になった。
「来て以来ここは、温暖な地域の筈なんだけどな」
「暖房の燃料費ケチってんじゃない?」
「バカね、こんな巨大な壺の中全部を暖めてると思ってたの?」
「そうだよね、ははは。年中通してずっと寒くなかったから」
「ここは、カルフォルニアって言う所」
「カルフォルニア……。マリカもしかして、外の世界を見たことがあるの?」
「さあ、良くワカンナイけど、それだけは知ってる」
「ここ最近、何か外で起こってるんじゃ」
「そうかも知れない。ねえ工場で何か聞かない?」
「大人は自分の事でイッパイイッパイみたい」
「私達だって大差無いからね……あれ?」
マリカは通りの向こう側に、チラッと見覚えのある人影を見た気がして、思わず席を立った。
「どうかした?」
「アレッドはここに居て、すぐ戻るから」
そう言って、彼女は人影が消えた路地を追いかけるように曲がる、しかし長い真直ぐの路地の先には誰も居なかった。
「気のせいかなぁ」
「私に用か?」
後ろの声に驚いて振り向くマリカの目の前に、見覚えのある顎ヒゲをたくわえた老人が、いつの間にか立っていた。
「貴方はやっぱり!」
「人につけられるのは嫌いでね、誰だ?」
「ごめんなさい私はマリカです、以前追われている所を助けて貰いました」
それを聞いて、ヒゲ老人の表情が緩んだ。
「あのお子かぁ」
理解を得ると、マリカは改めて深々と頭を下げた。
「あの時は本当に助かりました、ありがとう」
「気にせんでイイ。自分の探すのに似たお子が追われてたので、助けたまで」
「私に似た子供を探しているんですか?」
「ああ、丁度あんた位のマロンブロンド髪の女の子で、名はエミリア様と言う」
「エミリア……?」
そこへ、マリカが戻るのが遅いので、心配したアレッドが飛び込んで来た。
「どうした……あれれ」
アレッドは老人を見て身構えた。
「お前は誰だ!」
アレッドはいつぞやの老人と気付かないらしい。マリカは慌てて老人の事を説明すると同時に、アレッドを老人にも説明した。
「あの時の達人? あの技は凄かったー」
見よう見まねで老人の技を再現するアレッドだが、その形振りが余りに滑稽なのに、老人は吹き出した。
「ぶははははは! そうだったか?」
久しぶりに老人は笑った気がした。マリカも老人が優しそうな人だと解って思わず大笑いした。
気を良くしたアレッドが老人にたずねた。
「爺さん、名前は何て言うの?」
「おうそうだな、私はサジメと言う」
「サジメ爺って呼んでいい?」
「いいぞボウズ。あ、アレッドだったな、スマン」
「サジメ爺みたいに強くなりたいから、今度格闘技教えて貰えないカナ?」
「お主も男子だな、いいぞ教えてやろう」
「ありがとう! じゃ今からサジメ爺じゃなくてお師匠だな」
「おっ、気合い入ってるな。はっはっは」
「私はサジメ爺と呼ぶわ」
「解ったよ、マリカ」
マリカはサジメの奥深い笑顔に、やはり安心を覚えるのだった。
その後、マリカ、アレッドは改めて屋台に戻って、友好の印にサジメと一緒に朝ご飯を食べた後、その日は次の再会を約束して、それぞれの仕事に向かって行った。
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