1部 第3話 2

 サジメは壺にやって来て3年だというが、流石大人だけあって短期間でサークルの事情を深いところまで知っていた。勿論世間の事情にも子供と違って詳しかった。そんな頼りになる大人を仲間に迎える事が出来て、マリカは近い内にサジメに自宅でやっている事を見せようと考えていた。


 それからというものマリカ達は、工場では休憩になるとサジメと示し合わせ、アレッドはサジメの特訓を受け、それをマリカが眺める事が多くなった。強いサジメが一緒に居るので、誰も子供に手を出す者は居なくなった。

 サジメが強い秘密は、誰も知らない柔術という、武器を使わない格闘技を極めている事にある。その技は、相手の先を読んで超絶な速さで接近戦に持ち込み、相手の体格に関係なく瞬時になぎ倒す。そんな格闘技を誰も目にしたことが無かったのだ。

 昔は我が身を守る、いわゆる護身術から発達したものらしいが、今では攻めの技術も取り込まれて戦闘に使われるが、その本質はとても深く、むやみに人を殺めずという精神を、極めるのを真髄とするらしい。

 殺人を前提において行われる、戦争を好む国々には人気が無かったか、ここ何十年はこの柔術を全うできる者は居なくなったという。でもアレッドは人を殺めないのが基本という点が、たいそう気に入っていた。

「この技を通して知って欲しいのは、戦に勝つことではなく、負けない様に精進することだ」

 と教えてくれた、その気持ちは見ているマリカも共感して、護身術として覚える事になった。


 その後もマリカとアレッドは、工場で仕事をしながら柔術を学び、夜は壺や、その外の世界の情報を集めようとしたが、そっちの方は思うように集まらなくなっていた。

「ねえマリカ、最近ネットが繋がりにくくなってないかな」

「そうだね、今日は持ち場の工場で一部機械が止まったわ。どうも電源供給が不安定みたいだね」

「ボクの方でもあったし、皆それでここがヤバイんじゃないかって落ち着かない」

「ねえ、これ見てよ」

 マリカがモニタを指す所には、この地域の温度と気圧が色分けされて、刻々と変化している様が表示していたものの、アレッドには詳しい事は解らなかった。

「なに?この動いてる、円く青いとこ」

「地上で気圧が低いとこは青いの」

「巨大な物体が飛んでるよう、何で綺麗に円いの?」

「空気が渦を巻くとそうなるのよ、渦を巻いて空高く凄い速度で昇っていくの、タイフーン(台風)だわ」

「タイフーン、って何?」

「私も現物を見たことは無い。数年の内では初めてだけど、ここの所大きいのが増えてる」

「このサークルより大きいの?」

「何十倍もある」

「じゃあこっち来たら、ここどうなるのさ!」

「何十倍と言っても危険な中心部はここと同じ位。でも相当上昇気流が早いから、直撃すれば壊れちゃう」

「エライ事だ! でも、何時来るのか心配だ」

「未だ大丈夫よ、大抵は反れていくからね」

「教えたら皆ここを抜けだそうとするだろうね」

 この事を、壺の管理者が知らないはずは無いとは思うが、どうしたものか?

「皆じゃなくて管理者に教えたらどうかな」

「私達がやってる事がバレるでしょ」

「そっか。ココの管理者って誰なの?」

「国軍、と言ってもまともな軍じゃないらしいけど。そうだアレッド、今クレジットいくら持ってる?」

「20000位かな、どうするのさ」

「私は50000万位。よし、じゃあ半分使っても十部余裕あるね。わたし20000出すからキミ10000出して」

「30000ものクレジットを何に使うの?」

「軍を買収するの」

「買収してどうするの?」

「この事を知ってるかどうか確かめたいし、知ってればその対策を皆に教えるの。それに脱獄情報も知りたいし、ね」

「それも商売なの?」

「商売抜きよ。人はできれば助けたいから」

「それなら出すよ」


 その計画を翌日サジメに話すと、志は買うと前置きしてから、

「そんなはした額では、精々監視棟の親玉位しか買収出来ないよ。それに奴等は知っている筈だよ」

「えー! 30000クレジットって高額だと思ってたのに」

「外のレートは百倍だし、それでもここなら下っ端位は喜んで食いつくから、それで彼等から脱出ルートを聞き出すんだ」

「決まり、そうしましょう!」

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