1部 第2話 2

 アレッドの家に行った後の帰り、

「まさか、荷物そんだけとは思わなかった」

 マリカは、ちょっと呆れていた。

 なんとアレッドの持ち物は、敷物と数枚の服。それと彼には大振りな牛革製のカバンだけだったからだ。

「気がついたらこれだけ持って壺の中に立ってたモン」

「イジケないの、別にバカにしてるわけじゃないよ。でももう少しあるかと……」

 思わず時間が省けて、午前中にはマリカの家に戻っていた。ふたりは部屋に戻るとちょっと装置を寄せてスペースを作り、そこにアレッドが持ってきた荷物と、彼が身をよせる空間を作ったが、どうしてもかなり狭かった。

「寝るとこ無いや」

「何言ってるの、私のベッドで一緒でしょう?」

 それを聞いてアレッドは、また顔を赤らめる。それをマリカは見逃さず、

「何想像してるのーカナ。もしかしてあーゆー事とか、こーゆー事とか?」

「ボクだって男だゾ! 夜何をするかワカンナイよ」

「そう、良いよ」

「……えっ?」

「アレッドとだったら、そうなってもイイヨ」

「ほ、ホント?」

「あははははっ冗談よ。男子たるもの欲望に打ち勝たなきゃ、ねっ?」

「ねっ? て……」

「それよっかさ、早速手伝って欲しいの」

「な、何をさ」

 振り回されっぱなしの彼に、彼女は自分のしていることを説明した。

 それによると、マリカは3年程前にここに来て以来、早くから壺の外の世界に関心を持ち、コツコツと装置を揃えながら外の情報を集めて来たと言った。

 アレッドが見込まれた理由は、彼が文字を読み書き出来ることや、希少価値の高い純粋な子供だからだと言った。

「私達子供じゃない? これからは子供の商品価値に気づく連中が出てくる。だからそうなる前に、私達いっしょに自衛するの」

「子供の価値って、何?」

「まだ解らない事が多い。でも外に居る゛シビリアン゛が欲しがってるみたい」

「シビリアン、子供が居ないのかな」

「彼らのメールを傍受すると、居るには居るみたい」

「じゃあ何で?」

「だから、それを調べるのを手伝って欲しいの!」

「はい!」

 そう言うことで、彼はまずメールの保存方法を教わって、キーワード検索で情報を拾い集める作業を担当することになったが、さてその日の夜は疲れていたので、ふたりいっしょのベッドで、早めに眠りに就いた。


「フフフ、アレッドったらもうこんなに大きくしちゃって苦しそうね?」

「あ、あっそんなコト……」

「ほうら、今楽にシテあげるねっ」

「あ! マリカっ、そんな事したらダメッツ…………………………うっ」


「アレッド、アレッドったら!」

「ん、えっ?」

「イヤだぁ! もう、何とかしてよっ」

「何が……あっ!」

 マリカが目をそむけながら指差す先を、アレッドもおもむろに目を向けると、自分の股間の部分にシミが出来て、ピクンピクンと脈打っていた。状況を悟ったアレッドは、股間を押さえて飛び起きた。

「トイレッ、どこどこっ」

 顔を手で覆ったマリカが、方向を指差すドアに向かって一目散に逃げ込んだ。


 暫くして、ばつ悪そうに出てきたアレッドは、

「ゴメンよ、マリカ」

 マリカも顔を赤らめて、

「私こそ取り乱しちゃって。ゴメンね」

「ベッド汚れてないかな」

「それは大丈夫みたいだから、気にしないで」

「マリカ、気持ち悪く無いの?」

「男の整理現象だもんネ、仕方無いよ」

「知ってるんだ」

「工場で衛生班してたから知識はね。でもホンモノ見るのは初めて」

「女の子は変な気持ちにならないの? 綺麗な白い髪の毛だね……」

 アレッドは、ゆっくりとマリカに寄っていく、

「それは……ダメッ。これ以上もうこの話は止めよ、仕事行かなきゃ」

 彼女はこの時だけは下を向いたまま、スルリと彼の手を逃れて、シャワー室へ行った。


 その後は、お互い恥ずかしい思いをした事で、逆に打ち解け合えたようで、変に意識せずに済んだ。それからのふたりは、お互いの距離をうまく保てるようになって、翌日からは自然と同じ家から工場へ通い、戻れば情報を収集する日々を繰り返した。

 収集した情報は効率良く、また上手く出し惜しみをしても、工場内で欲しがる大人達に売れたし、夜はやはり危険が伴うので、警戒して極力外へ出ないように注意を払いながら、暮らすうちに日々が過ぎていった。

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