1部 第2話 1 半分同棲生活

「エミリア、お前はとても従順で良い子だから、パパからのご褒美だよ」

「わぁー! とうとう連れてってくださるのね、サークル★ランドアトラクション。楽しみでしたわ」

 可憐なお嬢様風の華やかなドレスに身を包んだ少女は、待ちこがれた約束の日を前に父親の腕にまとわり付いて、全身で喜びをあらわした。

 しかし少女の笑顔とは対照的に、父親は笑いながらも目はすこぶる覚めていたが、少女は気付くも無しに、勧められるままリムジンに乗せられ、ドアが閉められた。窓から顔を突き出しながら、目を輝かせた。

「パパはいっしょに行かないの?」

「大事な仕事が有るからね、後で行くよ」

「うん、待ってるね?」

 リムジンは赤い靴を履いた少女を乗せて、迎えにくることの無い、高くそびえる白壁に設けられた、金色の豪華な門の中へと吸い込まれるように消えていった……。


「マリカ、マリカったら! 大丈夫かい?」

 マリカはアレッドの声で、もがくように飛び起きた。その時彼女は身体中汗ビッショリだった。

「どうしたのさ、大丈夫か」

「私、いつの間にか寝てたのか」

「うなされてたけど、悪い夢でも見たの?」

「なんだろう……良く覚えてない」

「スッゴい暴れてたし、自分の首まで絞めようとして」

「そんなことを? ……シャワー浴びてくる」

「ここ、シャワー有るの?」

「うん、キミも後で浴びなよ」

「ありがとう」

 マリカは部屋の隅のカーテンを捲って洗面所へ入った。部屋着のワンピースを脱いで素っ裸になって、コックを捻ると温かいお湯が彼女を癒した。

 なぜか? 顔を伝う湯水と一緒に涙が止めどなく流れた。外ではアレッドが彼女が終わるのを待つ間、タブレットの画面を見ていた。


 しばし後、アレッドが予定を確かめながら、

「今日はマリカも工場休みだよね」

 それを聞いた後、丁度シャワー室から出てきたマリカが、頭を拭きながらモニターに見とれるアレッドの背後から、

「そだよキミも? さあシャワー浴びたら?」

 そう言われたアレッドが振り返ると、マリカは素っ裸だったので、彼は目のやり場に困って、顔を真っ赤にしてモジモジしていると、

「なーに意識シチャッテるの、経験有るんじゃ無かったカナ?」

「あわわ、あるよっ!」

 慌ててシャワー室へ駆け込むアレッドに、マリカは追い打ちをかけた。

「溜まってるんならヌイてあげよっか?」

「バカッ! イヂワル」

「ふふ、カワイイの」

 マリカは、シャワーの音がするのを横聞きしながら、外着に着替える。壁掛けの鏡を見ながら髪を整えているうちに、アレッドが服を着て洗面所から出てきた。

「ご飯食べにいこっか」

マリカは、彼を見るなり朝食に誘って、先に部屋を出た。


 ふたりは再び街に出た。ご飯と言っても大したモノが食えるわけではないが、マリカが住むダウンタウンはまだ良い方だった。マリカ達は、近所の屋台や出店が並ぶ一軒に入って、マリカは合成肉ソーメンを頼んでから空いた席に座り、アレッドも場の雰囲気に少し緊張しながら、彼女の向かいに座った。

「ボクの家の方には、こんな繁華街ないや」

「夜は風俗街にもなるけどね。そうだ、良かったらキミもこっちに来る?」

「家賃高いんでしょ? 今の家はタダだから」

「そっか。普通に工場で働いてたんじゃ、食べてくのが精一杯だよね」

「そうだよ。でもマリカは裕福そうだけど何かしてる?」

「ここいらの住人は、大抵何かの金づるを持ってるでしょうね。私は情報提供、見たでしょ? 部屋の装置」

「場所の情報とか出てたけど、アレで何を調べてるんだい?」

「壺の住人が欲しがってる情報だよ。アレッド、キミ文字が読めるんだね」

「うん、字も書けるよ。でも壺に来て長いけど正直どういう所かわかんないや」

「誰も知ってるヤツなんか居ない。あ、来た来た食べよ」

 ゴッついマスターが無造作に置いたどんぶりの麺を、空いた器に分けて半分をアレッドに渡す。彼も慣れない手つきで彼女を真似て、箸を使って食べる。

 会話をしている最中に、昨夜マリカに言った話をアレッドは思い出した。

「そういや昨日ココの秘密教えてくれるって言ったよね? まだ話してもらってないぞ」

「話さなかった?」

「どうでも良い話してるうちに、ボクが先寝ちゃったじゃない」

「そうね、じゃまた今度かな」

「えーっケチ、教えてよォ」

「ケチって……あ、そうだ。今からアレッドの家行こうよ」

「ボクの家?」

「私ン家に住みなよ、色々手伝って欲しいし。だから荷物取りに、ね?」

 マリカは返事も聞かずに、クレジットカウントを済ませてから、

「さっ、引っ越し忙しいよ」

 先に店を出てしまうので、またまたアレッドも従わざるを得なかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る