1部 第1話 3
翌日からアレッドはマリカを探すべく早目に起きて、普段並ぶ4番ゲートから入るが、そこに彼女が姿を見せる事はなかった。
そこで次からは、中心にある工場周りを取り囲む8つのゲートを順に回って、マリカの現れるのを待つ事に。さらに次の日は5番ゲートと、日替りで時計回りにゲートを見張った。
そしてアレッドは、見張って3日目にようやくマリカを見つけ、回りに注意しながら近づいて、背後から声を掛けた。
「やっと見つかった、捜したんだから!」
マリカは、声に振り返ると目をまるくして、呆れ顔でアレッドを迎えた。
そして彼女は、目の前にいる忘れかけていた年下の男の子の、妙な慌てようを見て眉を潜めた。
「たしかアレッドだっけ、モノ好きね。よく私を探し出せたね」
「そんなことよか、まだ酷い目にあってなくて良かった」
「何の事?」
何も知らない風で、ただ怪訝そうな顔のマリカに、アレッドが彼女の耳元で囁いた。
「この前の男が、君を探してるんだよ」
「だから?」
「見つかったらどうなるか、分かってる?」
「はぁーっ。 分かって無くてあんな事すると思う?」
「えっつ! だって捕まったら、ケチョンケチョンの8000クレジットって」
「8000って、バカにしないでよ。私ならその何十倍の価値があるわよ」
「価値って……売られちゃうんダヨ?」
「もう……まあ、心配してくれて有難う! 今は時間ないから詳しくは、仕事終わって19時に、この8番ゲート出口で待ってて」
そう言い捨て彼女は、アレッドを残して工場へ吸い込まれて行った。
さてその仕事帰り、8番ゲートにふたりの姿があった。マリカはアレッドをひっぱるように先に歩き、彼は彼女の後ろをついて行くのに精いっぱいだった。
マリカは慣れたように周りを警戒しながら、繁華街の裏道を複雑に通り抜けて、やがてこの辺りでは比較的新しい雑居ビルの前に立った。
「ココが私ん家、来て」
我が家を前にして安心したように笑顔を見せて、階段を上がって行く。アレッドもつられるまま彼女について階段を上って行った。
「入って」
マリカが扉を開けて、アレッドが導かれたビル最上階の一室は、幕で窓を覆って明かりが外に漏れぬようにされ、うす暗い部屋の奥で怪しい光が明滅していた。アレッドは警戒しつつも恐る恐る入ると、パッと明かりが点いて部屋全体が露わになった。
どうやら、最上階のこの一室がマリカの住み処らしく、小じんまりとはしてるが、綺麗に片付いた部屋には小振りのベッド以外、見馴れない大振りの機械が何台か部屋の殆どを占拠し、忙しくランプを点滅させていた。
それはとても少女の部屋とは思えない雰囲気だが、マリカはわずかに空いた空間を指差して、座るように勧めてから装置の一部を確認するような仕草をしながら口を開いた。
「アレッド、キミの様な純粋な少年が、壺に居たとは驚きだよ。知ってる?」
「何が?」
「アソコでは、子供は商品になるって」
「知ってるよ、だからマリカが心配になって」
「解ってないナー、心配なのはキミみたいな童貞(無垢な)君よ」
それを聞いて、アレッドは顔を真っ赤にした。
「ボクッ、初じゃないよ!」
「ホントかなぁ?」
アレッドは、自分を完全にお子ちゃま扱いするマリカの態度に憤って、
「物覚え付いた頃から、独りで生きてきたんだ!」
「フン、じゃもう知ってるよね?」
そう言ってマリカは、アレッドの口を吸って舌まで入れようとする。彼はビックリして飛びす去った。
「何するの?」
マリカは少し悪戯っぽい顔をしたが目は笑っていない、更に迫力を増した。
「そんな事も知らないのをウブ、って言うの!」
「じゃあ、マリカはどんだけ知ってるのさ」
「さあね? でも大事な事は、無垢な子供程高く売れるし、ウブな顔をしてる程狙われ易いから、守り通す価値があるって事なの」
「無垢な子供は高く売れるの?」
「そうらしい、まだよく分からないけどね」
「そうなんだ……」
「まだ壺の中では、子供に商品価値があるのを知らない大人が殆んどだけど、アイツらはそれを知って言ったのか? 単に密告料目当てだったのか、だね」
「8000クレジットって言ってたけど、凄い額だよね。子供の価値と較べてどうなの?」
「全然安いよ、恐らく上玉なら一桁違うかな」
「80000って事! 凄すぎて想像出来ないや。でもそんな高額で誰が買うのさ」
「このサークルの外の世界の住人、かな」
「ココの外に何があるの? 周りは自由があるとか好き勝手に言ってるけど」
「それを今、この装置達で調べてる」
「そう言やこれ何なの、これで何が解るの?」
「教えてあげる、この世界の本当の仕組みを」
アレッドは、期待に唾を呑み込んだ。
ところが話はなかなか確信に触れないまま、アレッドはいたずらに、当たり障りのない世間話に翻弄されているうちに、疲れもあってアレッドが先に眠ってしまった。
それを見て、その愛らしい寝顔を見てマリカも安心したように、少年のすぐ横で直ぐ深い眠りに落ちていった。
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