第71.5話 地球より親愛なる宇宙の同胞へ

〈コンクレイヴ・システム〉の画面に円卓が映し出される。

 質の良さそうな絨毯が敷き詰められ豪奢なフラワーアートも華やかさを演出。

 窓の向こうには海が見えていた。


 円卓には四つの席があり、カメラを気にしてか全部の席がカメラの正面に並ぶように設けられている。

 四つの席に座しているのは壮年の男性女性たち。

 それぞれ仕立ての良いスーツを着込み、にこやかな笑顔を見せている。

 その内の一人の男性が立ち上がり、喋り始めた。


『やあ、こちらは地球だ。いま画面には四カ国の首脳しか映っていないが、約三〇〇カ国の代表者が集まっていると思ってくれ。端的に言うなら、地球からのメッセージとして受け取ってくれれば良い。何よりもまず、おめでとう! 人類がかつて経験したことの無い外敵からの侵攻を君達は食い止め、そして退けた。そして今回、侵略の心配を根元から断つことに成功した! これは人類の積み上げてきた何千年……紀元前も含めて、最も偉大な功績と言えるだろう!』


 次に女性が立ち上がり、引き継いだ。


『この十年間、私達は非常に歯がゆい思いをしてきました。あなた達がすぐ近くにいるのに、見えている位置にいるのに、駆けつけて外敵を打ち倒すには力が足りませんでした。私達がいかに非力であるか、悔しさを抱いて生活しなければなりませんでした。ですが、常に心だけは共にありました。月は太陽と同じように毎日顔を見せるのですから、月を見る度に思い出すのです。忘れるはずがありません。【アイギス】の皆さんが苛烈な環境で耐えしのいでいる、私達も頑張らねば、と。しかし、私達の予想を遥かに上回る力をあなた達は持っていた。そのとてつもないエネルギーで外敵を倒してくれました。本当に感謝の言葉がつきません。ありがとう』


 その次は別の女性にバトンタッチされた。


『あなた達は元々地球軍として働いてきたし、それはこの十年間何ら変わっていないと考えています。地球から月まで約三八万四千キロメートルありますが、どんなに離れていてもあなた達が私達の一員であることに変わりありません。距離で私達を引き裂くことはできないのです。地球軍の中にあなた達の部署は今でもちゃんと空けてあります。安心して帰ってきて下さい』


 最後に別の男性が立ち上がる。


『あなた達に最も見せたい映像がある。これを見てほしい』


 すると映像が切り替わる。

 全然別の部屋で、窓が無い。

 結婚式場のような広さとテーブル配置だが、そのような派手さは無かった。

 どこかの大広間にテーブルを持ち込んだようなものだ。

 大人数が室内におり、全てのテーブルが埋まっている。

 老若男女さまざまな人達がいた。


『映っているのは、あなた達の家族だ。【アイギス】へ上って以来、会っていないだろう? 数々の苦難を乗り越え帰ってきたあなた達との再会を、ご家族が心待ちにしている。地球に帰還したら真っ先に再会の場を設けるつもりだ。存分に語り合ってほしい。そして宇宙で何があったかを伝えてほしい。私達は、ご家族も含めて、いや世界中が、あなた達の帰還を心待ちにしている』


 大広間の中でもカメラが移動していき、テーブルの一つに近付く。

 そのテーブルには老夫婦がいて、ワインを掲げながら早く帰っておいで、とコメントがあった。

 別のテーブルに行くと、そこには三十台の男性と小学生くらいの男の子。

 男の子が今度中学生になるから入学式に来てね、と手を振っている。

 別のテーブルでは大家族で食事を楽しみながら、英雄譚を聞かせておくれ、と言っていた。

 どこも笑顔が溢れており、小銃を提げた門番の兵士も笑顔で手を振っていた。

 最後に黒をバックにして白い字幕で『おかえりなさい』と出た。

 合唱のように大勢の『おかえりなさい』が聴こえた。



 数秒間、黒い画面が続いた。

 それからまた、円卓が映し出される。

 壮年の男性女性たちの表情は変わらずにこやかだ。

 その中の一人の男性が、今度は固い口調で喋り始めた。


『ここまでが全世界に放送される内容だ。ここからは心して聞いて欲しい。【アイギス】へは全ての武装を解除して帰還すること。我々の指示に全て従うこと。従わない場合、反乱の意志ありと見做す。君達は今、きちんと管理されていない野生の猛獣と同じだ。我々の管理下に無かった兵器は全て提出してもらう。武装を完全に解除し、全て提供するように。それがなされない場合、地球艦隊が君達を罰することになる。【アイギス】到着の前日までには武装解除して報告するように。色よい返事を待っているよ。?』


 大広間でを提げた門番の兵士が、笑顔で手を振っている静止画が映し出された。

 そして、フェードアウトなどせずに、ブチッと映像が乱暴に切られた。

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