7 開幕戦

 三月二十九日、金曜日。

 明日はプロ野球開幕である。

 いくら視聴率が悪くなっても、やっぱりプロ野球は子供からお年寄りまで、まさに老若男女が楽しめる国民的スポーツである。

 その人気に便乗して、テレビサンライズの『ニュースの停車場』(午後九時五十五分〜十一時五分)は各チームの予告先発をア・ナ両リーグ全監督に口頭で直接発表させるという企画をプロ野球コミッショナー事務局に持ち込み、「地上波で扱っていただけるなんて大歓迎ですう」と超もみ手で同広報室の歓迎を受けてあっさりと許可をとり、開幕前夜の今夜十時半ごろからの生放送が決定した。

 昼間、ベイサイドスタジアムで、最終調整に勤しんだ風花は、その話しを事前に聞かされておらず、調子こいて鈍足、宗谷と五十メートルダッシュや、腰高の潜水相手に相撲の四股を踏んでみせるなど、普段やらない熱血指導でヘロヘロモンスターになっており、

「これで、酒飲みだったらビールがうまいんだろうなあ」

 とほざきながら、ダイエットコーラを十本も飲んでカフェイン中毒に陥っていた。興奮度MAX!

 そこへテレビ出演、しかも初めての生放送の話しが来て、

「おーう、全国に風花マリンズのお披露目といこうじゃないか!」

 と大きな口を叩いたのが午後四時。しかし、次第に心が落ち着いてくると、いつもの小心者、社会不安症が心臓と一緒に飛び出てきた。

「佐藤さーん、やっぱ嫌。河東さんか舟木さんに代わって貰って。だって、二人とも現役時代は『代打の神様、オタスケマン』だったじゃん。オールドファンにウケるよ。なんならギャーギャーさんでもいいな。ニギヤカシにさあ」

 などと監督室でダダをこねる風花に、

「他の監督さんがみんな出演するのに新任で素人のあなたが欠席するなんて、敵を増やすだけです」

 佐藤智子マネージャーはそういうと静かにハリセンを振り下ろした。

 風花気絶。

 あとはテレビサンライズお迎えのハイヤーに乗せれば一丁オーライである。


 午後十時三十五分。

 六本木にあるテレビサンライズ本社の第百八スタジオに、明日関東圏で開幕を迎えるア・ナ両リーグの監督たちが横並びに座らされていた。その顔ぶれは、東京キング武衛頼朝、対するメトロサブウェイズの知将、日比谷由。そして大阪タワーズの吉本興行新監督に、大阪の孔子苑球場が春の選抜じゃんけん大会……ではなく選抜高校野球大会で使えないため、開幕主催権を貰ったラッキーくん、我らがマリンズ風花涼素人監督のア・リーグ勢、ナ・リーグの埼玉ザウルス、所沢丈二監督に神戸バイソンズの大輪田泊里監督と、一人を除いて錚々たるメンバーが居並ぶ。

 あの憎っきカーボーイズの豊田佐助老は、名古屋開幕のため瀬戸内バイキングスの遍路遥春監督とともに愛知ウイローテレビのスタジオから中継。ナ・リーグの福岡ドンタック、菅原道草監督と仙台インパルスの伊達正男監督は博多どんたくテレビ、札幌ベアーズの昼間照義監督、舞浜ランボーズの千葉秋胤監督は北海道どさんこテレビからの出演である。

「さて、みなさん。お待ちかねのプロ野球開幕直前スペシャルです」

 『ニュースの停車場』司会の太刀魚一郎がにこやかにコーナーをスタートさせた。その声を聞いた風花は、

「あっ!」

 と大声を上げてしまった。

「どうしました? オープン戦一勝で優勝。今話題の風花監督」

 太刀魚がすかさずつっこむ。

「ああいいえ、なんでもござらぬ……」

 完全になにかある返答をする、風花。他の監督たちは冷ややかな笑いを起こす。まずい! 実は風花、気絶してスタジオ入りしたため、デパ●錠を飲んでいなかったのだ。しかも緊張のし過ぎでデパ●の存在すら忘れていた。それで思わず声をあげてしまったのだ。ここは急いでデパ●ちゃんを飲まないと。ああ、手のひらに『人』って字を書いて飲んでないで、お水お水!

「ああ!」

 なんという天の恵み、テーブルに冷たいお茶の入ったグラスが並んでいるではないか! 大慌てで胸ポケットからデパ●を取り出し、一気にお茶で飲み干す。

 するとその姿がカメラにばっちり押さえられ、

「風花さん、いい飲みっぷりですねえ」

 と太刀魚にまたからかわれた。風花のいじられキャラが全国のお茶の間に知れ渡る。

「さて、それはともかく開幕投手、発表をお願いします」

 スポーツ担当の宇佐木優子ちゃんが本題に入る。

「まずは、ナ・リーグ。札幌のスタジオの昼間監督!」

 昼間は《ヨウちゃん》こと人気先行の土方を指名し、どよめきが起きる。対する舞浜は、エース成田。続いて埼玉は白桁、神戸は宮島のエース対決。福岡、仙台も島津投手対陸奥投手と、エース順当の当番である。

「さて、次は新生マリンズの番ですよ、風花監督」

 宇佐木ちゃんが風花を指名する。すると、

「うふふ……教えない」

 風花が突然スカした。

「え?」

 アドリブのきかない宇佐木ちゃんは言葉を詰まらせた。

「ここでいったんCMです」

 太刀魚が上手に事故を回避。

 そのとたん、佐藤智子マネージャー、コミッショナー事務局の樫木さん。『ニュースの停車場』プロデューサーらが風花を取り囲んで、

「なに冗談やってんだ! 真剣勝負の場だぞ!」

 と散々に責め立てる。なかでも一番怒っているのが太刀魚キャスターで、

「テレビをなめないでください。やり方ひとつで、国民全員を敵に回すことにもなりかねませんよ!」

 と風花を叱りつけた。はい、CM開けます。

「さあ、仕切り直しです。風花監督、今度はちゃんとお願いします」

 宇佐木ちゃんが若干顔を引き攣らして風花に振る。

「ふふふ……」

 またも不敵に笑う風花。まさか、またスカすのか?

「マリンズの開幕投手は……大陸です!」

 風花に取っては予定通り。世間では予想外の名前が出た。

「ええっ?」

 スタジオが土方のときの百倍どよめく。さらに、

「うちは先発オーダー発表しちゃうもんね。

 一番、ショート・元町

 二番、セカンド・富士

 三番、サード・アンカー

 四番、ライト・トラファルガー

 五番、レフト・台場

 六番、ファースト・宗谷

 七番、センター・潜水

 八番、キャッチャー・亀岡

 でーす」

 と風花大盤振る舞い、大サービス。

「ちょっとまってください。台場選手は怪我で開幕は無理だって言っていたじゃないですか?」

「大陸は先発に転身ですか? キャンプではそんな様子ありませんでしたが?」

「トラファルガーってフランスからきた練習生じゃないんですか?」

 テレビサンライズプロ野球解説者の松岡氏、南尾氏と小上氏が慌てて尋ねる。すると風花は、

「戦とは化かし合いである。吃驚して平常心を逸したものの負けである」

 と静かに言い、突然立ち上がると、髪の毛をむしり取り(カツラだった!)、

「今日より天魔と戦う者となる」

 なんと、いつの間に剃ったのか丸坊主のスキンヘッドを披露するとスタジオから去ってしまった。

 唖然とする一同。

 その後は大汗をたらした大阪の吉本新監督からエース新地の発表があり、残りの監督も平然を装っていたが騒然とした空気は番組終了まで消えなかった。


 そのスタジオ裏の楽屋で、風花は必死にハゲカツラを引ん剥いていた。

「しっかし、いきなりテレビ出されるんだもんなあ、イテテ」

 ハゲカツラの粘着テープは強力らしく羽二重にくっついて離れない。風花は強引に引き剥がした。

「本当は明日の開幕戦前のセレモニーで、観客やタワーズの連中を驚かしてやろうと思ったのに残念至極だなあ」

 風花は敵の心理をかき乱して平常心を失わさせる作戦を考えていたらしい。

「大陸の先発も、予告先発制でインパクト薄れちゃったし……それに僕、なんで先発オーダー、言っちゃったんだろ? 台場の大怪我情報とかトラファルガーは練習生とか大ウソついてきたのにみんなパーじゃん……デパ●のせいで躁状態になっちゃったかな? マジに減薬しよう」

 そういうと風花は誰にも断らず、テレビサンライズお抱えのハイヤーで安アパートに帰って、とっとと寝てしまった。

 明日は果たしてサプライズはあるのか?


 三月二十九日、金曜日 晴れ。

 横浜のみなとみらい21地区にあるマリンズの本拠地、ベイサイドスタジアムへ行くには普通、JR根岸線か横浜市営地下鉄で関内駅に出るか、東横線経由みなとみらい線で、みなとみらい駅に降りて徒歩で球場に向かうのが普通である。

 しかしその日、風花は東横線を横浜駅で降りると東口のデパート『いそごう』方面に歩き出した。そして『いそごう』を突っ切り反対側まで出る。するとそこには桟橋が架かっていた。そう、横浜港周遊観光船乗り場である。料金は二千円かかるが港の景色を眺めつつ、のんびりと海を進む。やがて、船は山下公園を経由して終点ベイサイドスタジアム内ドックへ入って行く。知る人ぞ知る穴場コースなのだ。しかし、方向音痴の風花がなんでこんなコースを知っているんだ? それは離婚された元妻、カトリーヌとの想い出のデートコースだったのである。船に揺られ、風を受け、何を思う?


 ユニフォームに着替えた風花は監督室に投打の主要コーチを招集。(招集たって腰を低くしてお招きするんだけどね)本日の大阪タワーズ戦の対策を練る。昨夜の前哨戦では完勝したけど、あれは猫だまし。決まり手にはならない。

 まずはオープン戦最終戦以外、超不振だった打撃陣に付いてだ。

「まあ、オープン戦通り、四、五、六番以外は粘らせて相手投手のスタミナを消耗させるのがいいんでない?」

 沖合コーチが口を開く。

「そう、タワーズ投手陣はブルペンが弱い。新地を打ち込めばあとは楽勝だ」

 河合コーチが続く。

「新地はいい左腕やから、うちらは大きいの狙わせんと、コツコツいかせますわ」

 左打撃コーチの水門がホームラン狙い禁止を名言する。

「その分、アンカーとトラファルガーに期待ですね」

 と、風花。

「で、沖合くん。トラファルガーはどうなの?」

 老松打撃総合コーチが尋ねる。

「想定外ですよ」

 沖合はそう言うと、はにかんだ。

「次は投手陣。大陸は何回までいけますかね?」

 指名しておいて無責任な風花。

「まあ、三回でしょう。そのあと網元か灯台を待機させてロングでいかせます。締めは砲でよろしいですか?」

 尾根沢投手総合コーチが風花に返答し、指示を仰ぐ。

「三回ですか? もっといけるでしょ。でも、だめだったら尾根沢さんの言う通りにしましょう」

「だめだったらって、なんか違う事、考えてますな」

 甘夏が聞くと、

「へへへ、完全試合!」

 風花がにやつき、コーチー陣がずっこけた。


 グランドではマリンズの打撃練習が行われていた。

 注目は大怪我虚報の大砲、台場八郎太と超秘密兵器、トラファルガーの打撃練習である。

 実は彼ら二人の開幕出場には伏線があった。

 二日前の開幕出場選手登録の際、二人とも名簿に名前を連ねていたのである。しかし、それに注目する記者はほぼ皆無であり、気が付いたスポーツジャパンの東記者とライターの綱渡に対して風花は、

「トラファルガーは盲腸を起こした甲板の代わりに守備固めに入れときました。台場は『一打席の代打くらいはできる』って水門コーチが言うからお守り代わりにベンチにいれておきます。なんたって、ウチは選手層薄いからねえ、東さんの髪の毛みたいだ」

 と、辛辣ジョークで東記者を怒らせ、あやふやにして逃げていたのだ。

 さあ、まずは台場の打撃が始まる。

 第一球!

『ボテボテ……』

 バットの芯を外した打球がファールゾーンに転がる。

「なんだ?」

 報道陣やそっと様子を見に来た大阪タワーズの山羊打撃コーチが愕然とする。

 第二球。

『クルリンパ』

 親会社の宣伝でもするような見事な空振り。バランスも崩れてとても打てそうにない。

「きっと、ぶっつけ本番だぜ。風花は俺たちを吃驚させるためだけに台場を先発オーダーに入れやがったんだ」

 山羊コーチが断定する。周りの報道陣の多くも賛同している様子。そこへ、

「もうやめや、台場!」

顔を真っ赤にした水門コーチが打撃ゲージに走り寄る。

「恥ずかしゅうてみておれんわ。ストレッチでもしとれ。バカもん」

 そう怒鳴ると台場のバットで彼のヘルメットを軽くこずいた。

『グォン』

 くぐもった音が響く。そして子弟揃ってベンチに帰ってくる。その姿を見て、グランド入りした風花は、

「やっぱり50キロの鉄入りバットじゃ打てないよね」

 と台場を慰めた。

「はい、無理っす。でも本番のバットが軽く感じて打ちやすいっす」

 なんと、台場は鉄アレイなみの特製バットで打撃練習していたのだ。風花野球は『巨●の星』でも目指してるのか?

 続いてゲージにトラファルガー登場。報道陣の注目が集まる。しかし……。

『ポテッ』

 なんとトラファルガー、送りバントの練習を始めた。またこれが上手に球の勢いを殺したバントだ。

「好い加減、秘密主義はやめろよ」

 出入り〜スポーツの南記者が怒鳴ると、

「ウチは四番も送りバントする、全員野球なの!」

 風花がやり返した。

 はい、こうしてマリンズの打撃練習時間は終了した。

 

 午後四時。

 大阪タワーズの打撃練習が始まると同時に、スタジアムが開門され観客がスタンドに入ってくる。例年のこのカードではタワーズファン七対マリンズファン三の割合だが、今日は新生マリンズご祝儀相場か、黄色とマリンブルーがイーブンにスタンドを染めている。

「いやあ、超満員だわね。儲かりまんなあ、いや盛り上がりまんなあ開幕戦は」

 球場に駆けつけた上島オーナーがご満悦の表情でグランドに現れ、意味もなくスタンドに手を振っている。すると勘違いな観客がウェーブを始める。上島オーナー人気沸騰中!?

「さて風花はん。開幕前から得意のマジシャンぶりを発揮しているようやね。その調子で本番も頼みますわ。四月にスタートダッシュしてくれれば、契約更新ですわ」

 忘れてた。風花は派遣社員だった。(コミッショナーには内緒ね。表向きは統一契約書に署名しているから)オープン戦かろうじて一勝しかしてない(優勝しちゃったけど)現状では次の契約更新はない。なので風花は、

「はい。トリックプレーを連発して敵をギュッと言わせてみせます」

 と声高らかに奇襲野球を宣言した。

「おー、頼もし〜ぃ」

 上島は叫ぶとオーナー席に消えた。


 午後五時半。

「元町さん。ちょっと始球式をお願いします」

 運営スタッフが元町選手を呼んだ。

「はあ? まだ五時半だよ。それに、ホームチームの俺がなんで始球式に立つわけ? タワーズの選手だろ」

 不服そうな元町。

「ええ、でも相手さんが、『元町さんをどうしても』と指名してきたんです」

「へえ、俺のファンかね! いいよ、ひょいひょいと三振してきやす」

 元町がおどける。すると、

「いえ、向こうさんの希望で真剣勝負、お願いします。しっかり素振りしておいてください」

 スタッフはそういうと忙しそうに去って行った。それを見た元町が、

「ヨイショ」

 と選手控え室からグランドに出て行くと、フィールド内では、スーパーアイドル《SKⅡ48》が酸素ボンベを傍らに置いて、必死に新曲フライング・ヘブンを歌い踊って、スタンドを大興奮させていた。なんと言う熟女ブーム。必死に踊るメンバーの何人かは今にも《フライング・ヘブン》してしまいそうに青白い汗をかいている。

「さて、始球式の相手はだれかな?」

 元町が周りを見回すと、突然!

「レーディースアーンドジェントルマン! これより20×○年度プロ野球ア・リーグ開幕戦、横浜マリンズ対大阪タワーズのオープニングセレモニーを行いまシュワッチ!」

 マリンズ広報担当兼スタジアムアナウンサー・ギャーギャー斉藤がマリンバ君ともう一人を連れてマウンドに現れる。その瞬間、スタジアム全体が地鳴りをあげた。

「みなさーん、聞こえますかーシュワッチ」

 ギャーギャーが大声を張り上げた。

「聞こえまーす」

 スタンド中がきちんとお返事する。

「さあ、今日の始球式。投げるのは!」

 ギャーギャーがスタンドにマイクを向けると、

「さだちゃーん!」

 と大合唱があがる。

 そう、昨年の最終戦、元町に場外ホームランを打たれ『普通のお婆さん』に戻ったはずの菅井さだがリベンジ登板だ。

「なるへそ」

 一人納得した元町が左バッターボックスに入る。そして、

「さだ婆さんは縁側でお茶でも飲んでれば良いものを! 返り討ちにしてやるぜ」

 と大声で挑発。スタンドからは大ブーイングが起き、元町は完全にヒールと化す。

「では、さださん。どうぞだシュワッチ」

 ギャーギャーが促すと、さだはプレートを踏んで投球に入った。

「来い! 世間から批判されても、ブログが炎上しようとも、オレは打つ」

 ホームなのに完全アウェー状態の元町はムキになって構える。

「それっ!」

 さだが繰り出したボールは、去年と同じ時速二十五キロのひょろひょろ球。

「ぐは! 戴きじゃ!」

 フルスイングする、元町。しかし……ホームベース手前でボールは揺れながら落下。元町のバットは宙を切り、自身は尻餅をついた。

「なんだあ?」

 恥ずかしさを、大声で紛らわす元町。

 それに対して菅井さだは、満面の笑みを浮かべて、

「伝説の名投手、ニークロ直伝の『ドリーム・ナックル』よ」

 と叫んだ。さだは、この対決のためだけにアメリカまで行って修行をしていたのだ。恐るべき執念。そして、

「菅井さだ七十七歳の喜寿、《SKⅡ48》に復帰します!」

 と声高らかに宣言した。

「さだちゃん、おかえり」

 《SKⅡ48》のメンバー達が一斉にさだを取り囲み祝福する。スタンドからは大歓声と紙テープのシャワーが飛ぶ。それを見た元町は、

「これからは老人の時代だね。若者のオレには敵わんよ」

 とぼやいてベンチに帰った。

 それを見ていた風花は、

「おおや……いやオーナー、やるなあ」

と感想を述べた後、

「あのナックル、ワンポイントに使えるんじゃないですかねえ?」

 と周りに真顔で尋ねたが、皆に無視された。

「……まあいいや。僕ちょっと監督室に行って来ます」

 風花はそう言い残すとベンチ裏に消えた。

 

 風花が監督室に入ると、机に白い箱がリボンを付けて置いてあった。

「何だろう? 開幕祝いのプレゼントかな?」

 喜んで風花が開けた瞬間、

『パーン!』

 という轟音が響いた。

 風花は背後の壁に猛烈にぶつかり、そのまま気を失って、床に後頭部を強打して倒れた……。

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