第2話 目覚め
青年は夢を見る。
「世界を滅ぼす力を持つ者よ! この国の平和を守る為、私は貴公の首を頂戴しに参った!」
――どうして君が僕を。
「私は○○として! この場で貴公の首を貰い受ける必要と義務があるのだ!」
――嘘だと言ってくれ。
「貴公の力はあまりにも大きすぎる! 国王は貴公を○○以上の存在と認め、この場で殲滅するようにご指示をなされた!」
――これは夢なんだと僕に信じさせてくれ。
「潔くこの場で討たれよ! 我が○○よ!」
――もう、――もうウンザリだ。
青年は目を覚ます。
――ここは何処だろう?
まず青年の目に映ったものは、モノクロのみで彩られた酷く歪な世界だった。
黒線が輪郭をふちどり、何ものにも塗りつぶされていない、ひどく不安定な世界。
――何があった?
記憶を呼び起こそうとも、そこにあるものは何もない。
どれだけ真摯に訴えかけようとも、青年の疑問に答えてくれるものは一つもなかった。
「あれ、ひょっとして目が覚めた?」
そんな深層の世界から青年をすくい上げたのは、足元から聞こえてきたまだ幼さの残る少女の声で、
「よかったぁ~。ほんと、あの時はどうしようかと思ったよ~」
その少女は膝立ちのまま、青年の方へと歩み寄っていく。
青年はその時はじめて自分が横たわっている事に気付き、慌てて体勢を起こそうとする。
「ぐっ!」
しかし体中に響きわたった痛みがそれを許してはくれない。
立てようとした肘を支点に、青年はその場でもんどり打って倒れこんでしまう。
「こらっ! 何してるのよ! 君ねえ、自分がどれだけ重症を負ってるのか理解してる?」
少女はそう言うと青年の体を支え、甲斐甲斐しくも敷かれた布団の上へとゆっくりと横たえてやる。
「ごめん」
「いいよ、気にしないで」
少女は朗らかに笑うが、青年の顔色は優れない。なぜなら――
「それで、君は誰だい?」
青年にはその少女の顔に覚えがなかったからだ。
いやそれ以前に青年には『記憶』というものが無く、思い出せる事象も人物もこれ一つとして持ち合わせていなかったのだ。
だからこそ、青年は穏便に丁寧に言葉を口にした。だが、
「はあ?」
返ってきたのは氷点下のごとく冷たい声。そして、
「ふ ざ け る な あーーーーーー!!!」
振り下ろされた羽毛布団の一撃だけだった。
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