第14話

 あのゴリラ野郎を倒すには、頭にアレを当てるしかないだろう。通常の弾はたとえきいても殺すことは不可能だろう。そして不意打ちで当てたあとはまた避けてくるだろうから。

 これで、不意打ちが失敗したら逃げの一択だな。死ぬなんて論外だ。デスペナルティの事もあるが、なにより、命は1度失えばもう戻らない。もちろんここはゲームの中だしデスゲームという訳でもない。

 宿主たるプレイヤーであるならば、命は無限だ。しかしエリンは、この世界の住人は死ねば終わり。俺はこの世界に住みに来たんだ。遊びにきた宿主とは違う。俺は、宿主でありエリンである、そういう風になりたいんだ。


 「ふぅ……やろう」


 深呼吸をして落ち着かせる。すでに吹き飛ばされた先から移動を完了し、ゴリラはこちらを見失い必死にあたりを探し回っている。

 風下に逃げたお陰で匂いでもバレていない。

 あとは不意打ちするだけ、なんだけどどうやってやるか考えてないんだよね。どうしよう。


 ピコン!


 おわっ!?ヒビった……。なんで今通知来るんだよ。心臓に悪いわ。ゴリラ来たかと思ったんだが。他で暴れてる音かあるからそれは有り得ないとは分かっていてもそう思ったわ。

 で、何が来たんだ?


 《発芽》


 短くこれだけ。発芽……種スキルか。どうなったんだ……。


 世界樹因子:発芽直後。type特殊lv1

 世界樹から託された種が発芽した。世界樹の持つ力の一部を行使することができるようになる。

 アクセス権限

 武装組み換え

 所持している武装を組み替えることが出来る。どの程度組み替えかによりかかる時間が変化していく。

 また、明確なイメージが無ければ組み換え失敗となる。


 ほう……。出来るかな……あれ。アンチマテリアルライフル。

 自動小銃とリボルバーの球を抜き、二つを重ね合わせる。

 明確なイメージか……。設計図を思い出せ……ただし口径はリボルバーに合わせ……いや、自動小銃とリボルバーの口径が違うのに同じ銃弾を使えていたからシステム補正があるのだろう。なら口径もそのまま。

 この長さのままだと素材が足りなくなるから銃身を短く、1発撃てればいいのでいらない機構も全て排除。

 撃ちやすさは求めるな。必要最低限のみを残せ。

 じわじわと二つが形を変えていく。このままだと……あと1分くらいか?

 ゴリラが森を破壊する音をBGMに待つ。出来たのはアサルトライフルほどの長さのライフル。極限まで銃身を薄くしているので1発でお陀仏になるだろう。もとより1発勝負だ、問題はない。

 スコープなんてものはついていないが精密射撃スキルに全てを託そう。

 破壊の音のもとへと風下から静かに近づく。

 いた、距離約100mほどか?本来のスナイパーなら必中距離だ、行ける。当たる。

 まだ、ゴリラがこちらに背を向けるまで待て。動きが止まるまで、待て。

 ひたすらに耐える。確実に当たるように《追尾弾》も使ってある。不意に、ゴリラの動きが止まった。なぜか、などと考えることもなく訪れたチャンスを逃さずに引き金を引く。

 轟音と共に銃弾が砕けた。耐久値が無くなったのだろう。

 そして、その砕ける銃身の奥に見たのは右に全力で飛んだゴリラの左腕がもげて飛んでいく光景だった。


 「外した......!!いや避けられた!《雷脚》!」


 避けられた事を確認した瞬間に逃亡をはじめる。武器を失った今、先のように近接戦闘をしようとすれば確実にやられる。

 クソッ......!明らかにこちらに気付いてわざと見せた隙だっただろう!

 逃げながら考える。移動速度は辛うじてゴリラよりも速い。片腕を失わせたお陰だろう。だが、そんなことに喜ぶ元気すらない。

 喜べるわけもない。本来ならば、俺がしっかりとあの停滞について考えて入れば今頃は俺は逃げていなかっただろう。

 あるいは、あいつが俺を認識してすぐにしてきていれば考える余裕もあっただろう。

 それをさせないためにあいつは待ったのだ。俺が焦れるのを。近接戦闘の時から俺は相手に隙がある時にしか攻撃を行わなかった。さらにその後の吹き飛ばされる前のあの攻防で切り札がある事も察知されてしまった。さらにあの時の切り札を隠すための行動で慎重であることすら気づかれてしまった。

 そのために時間をかけてこちらを焦らし、焦れて撃ってくるかどうかのギリギリで隙を見せて確実に死にはしないように行動してきていたのだ。

 完敗だ……。

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