第9話

 その後も道中に合うポーンを倒しながら進んでいく。ナイトを倒す前に比べて襲撃を受ける頻度が上がっているが、それは侵入がバレてしまったからだろう。


 「なぁ、みんな。気づいてるよな?」


 ルイが不意に口を開く。その表情は若干厳しい。


 「ええ、もちろんです」

 「あったりまえじゃんか」

 「おう!……おう?」


 リザも頷いている。ロックは……うん、気にしないであげよう。


 「ロック……。いいや、どうせクロナには説明しないといけないことだからね。このダンジョン、手当り次第に部屋を見つけて突入、と最初に言ったよね?」

 「ああ、なるほど。つまりβの時とダンジョンの作りが変わっていると」

 「あぁ、そういうこと。一本道になっているから確実にあと二つはボスまでに部屋があると予想できる。なぜなら」

 「チェス……か。ルークとビショップ、クイーン、キングが残ってるわけか」

 「うん。キングとクイーンはセットで出ると思うからルークとビショップが出てくるとおもう。で、ロックは理解出来てる?」

 「おう!ようはあと3回強敵がでるってことだろ?」

 「うん、まぁそういうことだね」


 ふむ、チェスどおりに進むなら警戒すべきはクイーン、あとはポーンの成り上がりだろうか。ポーンはどうなったら変わるんだ?自陣とかないし……。

 そのあと10分ほどで新しく部屋が見つかった。


 「中ボス部屋だね。どっちがでるか……」

 「どっちでも俺が止めてやる!まかせろ!......いくぞ!」


 ロックが扉を開き中に入る。

 中には予想通り2体のゴブリン。武器は……レイピアだろうか。これはイメージで行くならビショップかな。魔法職で来るかな、とは考えていたが。予想が外れたようだ。

 まぁ、問題でもないか。


 「今回もさっきと同じ!僕とクロナで片方を抑えるよ!クロナは無茶しないこと!死ぬのは論外だからな!」

 「分かってる!『追尾弾』『爆裂弾』!」


 返事と同時に銃アーツを2連。一体のゴブリンにあたる。どうやらビショップであっていたようだ。

 その間にも片方のビショップが4人にボコられている。文字通りタコ殴りだ。

 こちらのビショップはルイと切り結んでいる。

 ん?ビショップのレイピアが軽く発光……!?マズイぞ!あれは魔法を使う前の杖と似ている!


 「ルイ!横にとべ!『雷脚』!」


 ルイがこちらの声に反応して横に跳ぶ。瞬間、ルイがいた足元が凍りついた。くそ!やっぱり魔法使うんじゃねぇか!


 「ロック!こいつら魔法を使ってくるぞ!気をつけろよ!」

 「どんな攻撃でも受けきってやる!!」


 ビショップに向かって走りながらロックに警告する。が返ってきた答えから彼は避ける、ということをする気はさらさら無いようだ。タンカーの鏡だな。全員に聞いたが全員にペインアブソーバを使っていないのに。

 ビショップのもとまで駆け寄り、蹴りを放つ。が軌道上にレイピアが置かれたために脚を無理やりに下に踏み込み、手のひらでビショップの鳩尾の当たりを叩き込みながらアーツを発動。


 「『爆裂掌』!」


 爆発がおき、ルイが移動していた方向へと吹き飛ばす。そしてビショップが体制を立て直す前にルイがビショップの心臓をひとつき。HPバーが消え、ビショップが倒れた。

 向こうはすでに倒し終わっている。殴った後にドロップアイテムの表示が出たからな。

 今回落ちたのは……ゴブリンビショップの目、というアイテムだ。気持ち悪いな、なんでドロップアイテム全部目なんだよ。


 「お疲れ」

 「お疲れ様、クロナ」


 互いに労い、拳を合わす。なんだろう、この戦友感は!リアルボッチな俺からしたら新鮮だな!

 いや、友達出来ないわけじゃないぞ?ただな、尽く白に言い寄るから、こう……ね?ついつい、ね?

 なんども言うがシスコンではない。

 そのあと、軽く休憩をした後にまた進んでいく。

 襲いかかってくるポーンを全員で袋叩きにしながら進んでいくとまた扉。ルーク、か。


 「ルークか。予想ではタンク系の装備でくる予想なんだが……。どうくるか」

 「クロナ、その根拠は?」

 「駒的に、そんな感じするだろ。あれ」


 どういう意味を持っているのか、などは知らないが駒の形がなんというか、堅牢な感じがするからな。


 「たしかに。けど、決めつけてかかるのは危ない。頭の片隅に入れる程度の認識でいこう。ロック」

 「おう、いくぞ?」


 いつも通り、ロックが扉をあけて中に入る。

 と、そこにいたのは杖を持った豪奢なローブを着たゴブリンとティアラをつけ、大剣をもつ、フルプレートのゴブリン。

 これは……?


 「キングと……クイーン?」


 ルイが俺の思っていた考えを口にする。

 そうしてる間にも敵は待つこともなく、クイーンがこちらに走ってくる。


 「くそ!まずはクイーンの撃破。その後にキングを撃破!ルークのことは考えるな!」


 ルイが指示をだす。ロックがクイーンの攻撃を盾で受け止める。そのままボス戦へと移行した。

 クイーンがロックを攻撃し、隙ができた時にシエル、ルイが攻撃をしていく。ラウェルナはロックのガードを超えて受けたダメージを回復しながらバフも掛けている。

 俺とリザは後ろから攻撃を撃っているのだが、これは避けられる、もしくは後ろのキングの魔法で止められている。

 くそ、あのキング地味に厄介だ。後衛と前衛に魔法で攻撃もしてきつつ、クイーンの回復もしている。

 優秀だな。ゴブリンのくせに。

 それでも、クイーンのHPは少しずつ削れている。そうして一進一退の攻防をしていき、ついにクイーンが倒れた。


 「いまだ!キングを一斉攻撃!畳かけろ!」


 ルイからの指示が飛ぶ。それに従い引き金を引きながら俺はある疑問を感じていた。

 この程度なのか?ルークのことも出ていないし、これで終わるのか?と。

 これは、チェスを適用したクエストだ。つまりチェスのルールがアレンジされてもちいられているはず。思い出せ、考えろ。俺のチェスに関する知識を余すことなく思い出せ。

 キングのHPが2割ほどまで減る。

 ……思い出した!ルークが動いてなければキングは......!


 「全員!攻撃をやめて後ろに跳べぇ!」


 俺が叫んだ直後、キングから閃光が発せられる。目を開けていられなくなり、思わず銃を手放し目を覆う。くそ!どうなってんだ!


 「なんっ!?うぉぉ!?」


 ロックの叫び声が聞こえる。そして戦闘音も聞こえる。その後にルイ、シエルの声も聞こえた。まだ視力は回復しない。

 何が起きてるんだ!?

 視界が回復して、見えたものはリザの方へと歩み寄っていくハンマーを持ったフルプレートの大きなゴブリン。

 あれがルークだろうか?いや、そんな事はどうでもいい!止めないと!銃は手放しただけなのに離れた位置に何故かある。ほかのみんなの武器も何故かいた場所から離れた位置に落ちている。そういうスキルか!!

 そうこうしてる間にもリザの元にゴブリンがたどり着く。何か手段は……!

 視界に拳大の石を見つけて、それを握る。

 そしてハンマーを振りかぶっているルークに向かい、投げる。スキルを発動しながら。


 「『練気』!!」


 投げ出すときに練気を使った時特有の力強いあの感覚がない。失敗したか?

 石が、光の尾を走らせ飛んでゆく。光の…...尾?

 ハンマーを今にも振り下ろさんとしているルークの頭に石があたり、ガァァァン!!と大きな音を立てる。そしてルークはよろめき、ハンマーが狙いからそれ、リザのすぐ左に打ち付けられる。石威力高くない!?

 いや、そんな事はどうでもいいか。


 「リザ!すぐに右に跳べ!『雷脚』!」


 スキルを発動し、ルークへと走っていく。ラウェルナだけが無事か。けれど今はルイたちの治療を行っているから支援は期待出来ない。リザは、まだ視力が戻っていないな。

 1人、か。問題ないな。

 ルークは石をぶつけられて怒っているのかこちらを見ている。好都合だ!

 相手に近づき、ルークの間合いになる。振るわれるハンマーをよけ、威力が乗る前に雷脚発動状態の蹴りで止め、練気を使い銃で逸らす。その隙に銃を打ち出すがフルプレートは貫通できずに決定打にならない。また、怒られるの覚悟で無茶をして、鎧の継ぎ目を狙うしかないか?

 そう考え出した時、振りかぶられたハンマーに大きな石の玉が飛んできてルークが体制を崩す。リザか!

 出来た隙をつき、相手の胸元へと入り、鎧の継ぎ目に2丁の銃をつき込み、打ち出す。死なない。なら死ぬまで撃つ。残っていた弾を全て打ち出した。途中でHPが無くなってたような気もしなくもないが……。いや!安全にいっただけだから!うん!


 「リザナイスアシスト!」

 「……」


 リザの方を向き、そう告げるが……向けられる視線は何故か冷たい。あれぇ?俺なんかした!?


 「えーと……リザさん......?」

 「また」

 「ん?」

 「また、無茶を使用としていたわね?」


 なんでバレてんだ!?まさか読心術!?


 「もう、しないと、約束しなさい。絶対にしないって」

 「けど今回はしてな」

 「しなさい。もう、心配はかけないで」

 「……ごめん。約束する」


 口数少ないし、嫌われているのかと思ったりもしたが。なんだ、いい子じゃないか。


 「おーいクロナ!大丈夫だったか!?」


 その直後、ルイが復活したようでこちらへ駆け寄ってくる。


 「おう、今回は無茶もすることなく勝てたぞ。リザのサポートのお陰だ」


 無茶をすることなく、のところでリザから睨まれたが、嘘はついていない。ついていないからもう睨まないでほしい。お兄さんの精神力がガリガリ削られていってるから!


 「すまなかったね。油断してしまった」

 「いや、今回は仕方ないだろう。あの光、あれスキルっぽかったから何をしても武器を落として遠くに飛ばされてたんじゃないか?」

 「いや、ラウェルナは武器を持っていたからたぶん魔法防御が高ければ防げるんだとおもう。それよりもなんでクロナはあの攻撃が来ることが予想できてたの?」

 「あぁ。別に難しいことじゃないよ。チェスのルールであるんだ。ルーク、キングが動いてなかったらチェックのときに場所を交代させることができるみたいな感じのルールが」

 「なるほど……。やっぱりルークはいるのか。これからどうするべきだと思う?」

 「進むべきだ」


 聞かれたから即答する。キングのHPは少なかった。加えて一番の強敵であるクイーンは倒し終わっている。かりにキングがHPを回復していてもMPがかなり減っているはずだ。そして残る敵はポーン大量とルーク、キングのみ。いくべきだろう。

 という理由もルイに伝える。まぁ、進むかどうかは最終的にはリーダーたるルイが決めることでもあるし、俺はシエルとロックの状態が分からないからな。その当たりも踏まえて進むか判断しないと行けないだろう。もっとも、ロックはなんとなく大丈夫そうな気もするが。


 「そうだね……。シエル!いけるかい!」

 「ロックには聞かないのか」

 「うん、ロックはHP4割くらいしか減ってなかったしね」


 頑丈だな。俺が直撃を受けていたら確実にワンパンされてた自身がある。


 「だいじょーぶー!クロニャ君迷惑かけたねー!」


 シエルが返事を返してくる。大丈夫なようだ。

 そういうわけで、進むことになった。が、流石に休憩をしたい、ということで少しの間ボス部屋で休憩をとることになった。ついでにリアルに戻って用を足してくることにもなった。

 まずは女性陣がいく。その間、残された体を守るのが役目だ。


 「にしても、お前らの装備初期のものにしては強くないか?」


 待っている時間、暇なので感じていた疑問を聞いてみる。


 「ん?ああ、俺達のこれはβテスターの特権でβテスターが製品版を始めた時に選べる装備なんだ。そうでもなければ流石に開始こちらの世界で1日でフルプレートなんて入手できんからな!」


 ロックがこたえてくれる。うん、たしかにそのとおりではあるな。


 「そう考えるとクロナは凄いね。僕らは装備がそこそこに強いものを装備してこれなのに、クロナは初期配布の装備で戦ってるわけだからね」

 「凄くはないと思うぞ。銃なんてファンタジー世界に似合わないもの使ってるから戦えてるだけだろ。そういやβの時の銃使いは強かったのか?」

 「いなかったよ」

 「……え?」

 「βの時は銃、なんてスキルはなかったんだよ。だから製品版になって追加されたんじゃないかな?」


 いなかったのか。それはなんか悲しいな。その後もβの時のことをいくつか質問した後、女性陣が帰ってきたので俺達も1度ログアウトし、用を済ましたあとにまた戻り、ダンジョン攻略が再開された。

 さぁ、ギルドクエストも大詰めだ。

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