第8話

 地図と、現在進行形で埋まっているマップを見比べながら宿屋を探していく。方向音痴というわけではないが、方向感感?が良いというわけでもないのでいちようだ。

 紹介された宿は特別に高級という程でもないがそこそこにいい宿のようだ。1泊500g、1食15gとのこと。結局1gの価値がよく分からない。100円くらいだろうか?

 そう考えると訓練場使用料高くないか?いやでも、的代や丸太代含めての値段と考えるとそうでもない……のか?丸太って1本いくらくらいするんだろうか。そもそも丸太って折れるものなんだろうか?

 考えても栓のないことか。街を行く多種多様な種族の人を眺め、無駄なことを考えながら宿へと向かい歩いていく。

 そうして訓練場から10分ほど歩いたところにその宿屋はあった。落ち着いた雰囲気のいい宿だ。

 うん、俺はこういうの好きだね。問題は宿の部屋が空いてるかどうか、だ。2万人もの人が宿をとったのだ。俺みたいに青空のもと、寝ていたバカがいるとは流石に考えにくい。もしかしたら、もしかしたらそんなバカがいるかもしれないけどな。


 ピコン


 ん?通知音?フレンドもいないから運営からか?

 詳細を開いて見てると、次のような事が書いてあった。


 称号

 ホームレス

 効果

 どのような場所で眠ることの出来る強靭な体を得ることができる(睡眠時状態異常無効)

 取得条件

 街中で、切り詰めたなどの理由もなく屋外で眠ることにより取得可能


 嫌味かこのやろう。なんでこのタイミング。あれですかねぇ?切り詰めてないって今証明できた感じですかねえ?


 ピコン


 またかよ……。

 今度はなんだ?メール?


『みんなのアイドルアイニちゃんです。面白かったので称号を作ってみました。やったね!世界初、ホームレスの称号をゲットだ!』


 いらないです。というかホームレスって切り詰めて生活できてないからあーなってんだろ?おかしくないか?

 まぁ、いいや……。このゲームAI自由過ぎるだろ。なんだ作ってみましたって。

 いやまぁ?いいんですけどネ?

 気を取り直して宿、行くか……。


「すいません、部屋の空きってありますかー?」


 中は1回左に受付、右は酒場。正面に階段がある。とりあえず受付に向かいながら声をかけると割腹のいいいかにも女将、いった風情の女性が奥からでてきた。


「あるよ。1泊少し高めで500gだけど、何泊していくつもりだい?」


 そう、だな。残金はだいたい25000gと少し。明日の今日の昼間のクエストに備えてポーション、spポーション、防具……はいらないからあとは食料に水。これを買ってあまりで余裕を持たしたいところだからとりあえず4泊でとっておいて、後から伸ばしていけばいいか。


「4泊でお願い」

「あいよ、2000gだね。……たしかに受け取ったよ。鍵はこれだよ、あそこの階段を登って突き当たり右の部屋がお兄さんの部屋だよ。私はこの『春の夜風亭』の女将をしてるガルシアだ」

「俺はクロナ。女将、外出する時、鍵はどうしたらいいんだ?」

「受付であずけていっておくれ、代金が支払われた分の日数は部屋に入らないが過ぎても戻ってこないとなかにある持ち物は全部受付に移動するからね。もし10日間受け取りに来なかったらこっちで処分するよ」

「おーけー、分かった」


 ということで言われた部屋へと向かう。部屋は8畳ほどの部屋だった。ベッド、机、クローゼット。調度品は多くない。そして装飾なども特にはされてはいないがしっかりとしたいい作りのものだ。買おうと思うと相応のお値段になってしまうのではないだろうか。

 まぁ、買う気なんてさらさらないがな。

 そうそう、この世界では普通に持ち家を買うことができる。そのため調度品なども当然のように売っていはするのだが、家を買おうと思うと現代日本で家を買うのと同じくらい大変らしい。妹情報であるから真偽は分からないが。ていうか白はなぜネットにもないような情報も普通にしっているのだろうか?

 謎である。

 考えても仕方ないことか。

 うん、宿も無事に取れたし、広場に向かうか。待ち合わせの30分まえである事を考えれば妥当だろう。

 そうして向かった広場。今もちらほらログインしてきた人が見える。

 商売を始めている人の姿もある。屋台とかすでに出してるやつ、逞しすぎるだろ。

 そんななか、知ってる顔がいた。ルイだ。どうやら一番最後に来てしまったようだ。

 うぅむ、30分前に来ているとはいえ最後に来たとなるともうしわけさを感じてしまうな。


「ルイ」

「ん?やぁ、クロナ。来てくれたんだね」

「このギルドに入ることになったんだし、当然だろうが」

「ふふ、そうだね」

「で、残りの4人が」

「うん、このギルドの全員だね。これが我が『縛られた翼』の総戦力だよ」

「なら、自己紹介しとくか。俺はクロナ。戦闘方法は銃。前中後衛どこでも出来る。よろしくな」


 言いながらレッグホルスターに入った2丁の銃を軽く叩く。


「クロナ、よろしくね!ボクはこのパーティの遊撃を担当してるシエルだよ!使う武器はこの体!」


 最初に自己紹介をしてきたのは赤い髪に猫の耳を生やしたいかにも元気そうな女の子。見た目どおり元気いい挨拶をしてくれた。


「私はラウェルナといいます。役割としては俗にいう盗賊、ですかね。短剣を使ってる戦いは行いますが戦闘は得意ではありませんので期待はしないで頂きたい」


 慇懃にそう述べたのは青い挑発の女性。モノクルをつけ、ローブを着込んでいる姿からは魔法使いのような印象をうける。


「こらこら!ラウェルナ!嘘はダメだろう!お前はこのパーティのヒーラーだろう!」


 ルイが声をあげる。ですよね。格好が魔法職だったから軽く焦ったぞ。


「ルイルイー!ばらすのはやすぎですよー!」


 なかなかにおちゃめな人である。


「あいつらはいつもあんな感じだ!そして俺はこのパーティの要!仲間を守る壁!タンカーのロックだ!岩のように、という意味をこめてロックだ!ふははは!」


 フルプレートの鎧をつけ、ヘルメットを小脇に抱えた男だ。明るい賑やかな奴だな。嫌いじゃない。

 見た目は短く刈り込まれた茶髪のごっつい、と思われる巨漢だ。ごついと断言できないのはフルプレートを着ているせいで中の体が見えないからだ。

 そして最後に残った女の子は


「リザ」


 そう短く名乗り口を閉ざした。え、嫌われちゃいましたかね?おにーさん泣きそうなんだけど。

 見た目は黒髪を肩甲骨あたりまで伸ばした小柄な女の子だ。特徴的なのはその目の色。真っ赤な目をしている。


「あー、クロナ。リザはあんまり喋らない子だから誰にでもこんな調子なんだ。気を悪くしないでほしい。ついでに役割は武器や防具の作成だよ。戦闘の時は魔法を使う。そして僕、ルイだよ。役割は遊撃かな。バランスのいいパーティではないけど僕らのパーティはこんな感じ」


 たしかに、バランスがいいとは言えないパーティ構成だな。物理に偏っている。とかいう俺も物理がメインなんだけどね!


「ねぇねぇクロニャきゅーん」

「くろにゃ?」

「いえーす、クロニャ君。フレンド申請していーい?」

「ん?ああ、構わないぞ。というか全員に送っておくわ」

「ありがとー」


 話しかけてきたのはシエル。クロニャ君呼びは別にどうでもいいから置いておこう。

 フレンドか。今までいなかったんだよな。なんで昨日のうちにルイとしておかなかったんだろうか。

 全員にフレンド申請を送り、無事に許可された。良かった……リザとか反応しないんじゃないかとおにーさん心配だったんだぞ。なんだろう、今日はおにーさんな気分なんだろうか俺。きっと白に会ってないからお兄ちゃん出来ないからか。シスコンじゃないですよ?


「さてと。フレンド申請も終わったし、クエストを受けるとしよう。けどその前にクエストのおさらいも兼ねてクロナに説明ね」

「頼む」

「まず、このクエストは推奨レベルが10。内容としてはゴブリンの巣に潜入。最奥にいるキングの撃破。ここまではみんないいよね?」


 俺以外のメンバーが頷く。いや、まてまて。俺は全然肯けないんだけど。


「推奨レベル10って全然足りてないんだが」

「大丈夫大丈夫。レベル足りないっていっても所詮ゴブリンだから」

「まぁ、ルイが大丈夫っていうなら信じるが」

「うん、で次。ゴブリンの巣はインスタンスマップになるからほかパーティと遭遇することは無い。さらに決まった形がある訳でもないからボス部屋の位置は不明。手当り次第見つけた部屋に突入する形だね。で、ドロップアイテムは落ちた人の物。ここまでもいいかな?」


 とくに問題はない。ようはサーチアンドデストロイだろ?


「大丈夫みたいだね。気をつけるべき点はとくにはないかな。βの時だと状態異常とかも使ってこなかったからじゃあ、行こうか」


 パーティ申請が飛んできた。加入すると、いままで視界の左上に表示されていた自分のHPSPMPバーの下にパーティメンバーのHPバーが小さく表示された。


 ゴブリンの巣は東門をでて少ししたらあるそうだ。道中、ほかの人がモンスターの取り合いをしているので敵に襲われることもなかった。途中で空気が変わるような感覚があったことからインスタンスマップのエリアに移動したんだろうこともわかった。そうして見つけたゴブリンの巣は崖に掘られた洞窟だった。

 入口に3匹のゴブリンが屯している。


「シエル、ロック、僕で仕留める。気づかれないように進みたいからクロナは攻撃待機。うち漏らしはラウェルナとリザ、任せた」


 ルイが指示を出す。

 ロックが不意打ちとかできるのか......?

 という心配は無用だった。ロックはゴブリン全員がこちらを見ていないすきに猛烈な勢いで盾を構え突進し、一体を突き飛ばした。

 ゴブリンの頭上にHPバーと名前が表示される。

 そのすぐ後にシエルが残ったゴブリンの一体の目に指をつきいれ、口を持ち、頭を割っていた。えぐい。ルイは残る一体の喉に剣をひとつき。使用してる武器は片手剣である。

 そうこうしてるうちにロックも突き飛ばした一体の頭を砕いていた。

 HP残量など関係なく、急所を潰せば一撃で相手を死亡させることができる。そのためにできる芸当だ。


「どうでした?」


 ラウェルナがルイに尋ねる。


「βの時からとくに変わったことはない。唯一変わってたのはゴブリンの名前が雑兵ゴブリンからポーンゴブリンに変わってたことくらいかな」


 ポーン、チェスか?

 まぁ、名前の違い程度気にしなくてもいいか。


「敵に気付かれた気配もない。進もう」


 洞窟内は暗かった。当たり前ではあるのだが、これは考えてなかったな。明かりを灯すようなものを持ってきてないぞ、と思っていたらラウェルナが魔法を掛けてくれた。その名も『ナイトヴィジョン』その名の通りの効果である。暗視効果を付与する魔法だ。

 そのまま通路を進む。時たまにポーンが出てくるが全て音もなくルイ、もしくはシエルに倒されていっている。今も一体倒されたところだ。あ、レベルが上がった。

 ちなみにドロップアイテムと経験値の設定はパーティ均等割、となっている。要するに経験値はパーティ全員に均等に配分され、ドロップアイテムの落ちる確率も等しい、ということだ。

 レベルが上がるのもすでに三回目で申し訳ない気分である。


「みんな止まって。部屋を発見。ロックに扉を開いてもらい、突入。321ゴー」


 立ち位置を入れ替え、ロックを先頭にして部屋に突入。

 でてきた敵は鎧を着ており、ランスを持ったゴブリン。それが2体。

 表示された名前はゴブリンナイト。


「ギギィ!」


 声を上げられた。隠密もここまでか。


「クロナ、攻撃を許可!片方はロックがタゲを!片方は僕が!」


 言うやいなやルイがナイトの片方に駆け寄り切りつける。あいつ、盾を持ってるわけでもないのに壁役やるつもりかよ。


「ロックがタゲを取っているナイトを俺とルイ以外で攻撃!撃破の後にこちらのナイトを落とそう!」


 俺はこのメンバーと連携なんて取れないからこれがベターな回答だろう。ちなみにベストは俺が片方を抑えているうちに残りのメンバーで残ったもう片方を撃破することだ。

 メンバーが頷くのを確認し、ルイが斬りあっているナイトの後ろに移動。そのまま銃を構える。がルイに誤射する可能性があるので撃てない。


「くっそ!『雷脚』!」


 脚に紫電を纏わし、ナイトに向かい走り横から蹴りをぶちかます。

 そして当たる直前にさらにアーツを使用。


「『練気』!」


 蹴りはランスにより受けられたが問題ない。目的はルイからナイトを離すことだ。そして蹴られたナイトは吹きばされている。いける。


「『爆裂弾』『追尾弾』!」


 銃アーツを使い引き金をひく。と同時にナイトへ向けて走る。まだ脚に紫電が纏われていることから雷脚の効果は続いている。20mほどあった距離を一瞬にして駆け抜ける。


「クロナ!?」


 ルイの驚く声がきこえるが、無視。銃弾があたり爆発を起こしているところに突っ込む。ランスが付きこまれて来るが、左の掌で受け止める。激痛が走るが、無視。

 ナイトの首と胴体の鎧の継ぎ目に銃口をつき込み、撃ち込む。ナイトのHPバーが消し飛び、ドロップアイテムを獲得したことを知らせるウインドウが開かれる。落ちたのはどうやらナイトが使っていたランスのようだ。一瞬で確認を済ませ、残っているナイトの方を見る。HPバーが2割を切っていることからもうそろそろ終わるだろう。左手からは今も激痛を感じるが気にせずにルイの方へと歩いていく。

 すると、レイが走ってきて怒鳴られた。


「クロナ!馬鹿か!?これはパーティ戦なんだよ!?ソロとは違うんだ!無茶をするな!HPをみてみろ!残り3割だぞ!死ぬところだったじゃないか!」

「掌貫かれただけで死にかけるって言うのも変な話だよな。リアルなら別にこの程度平気なのに」

「たしかに!リアルなら大丈夫だけれど!この世界ではそのルールは適用されないんだ!」

「うん、気をつける。ごめんなさい」


 向こうの世界とは違う。極論、紙で指を切っても死んでしまうことのある世界なんだよな。その辺りはゲーム要素とのすり合わせで仕方の無いことなのかもしれない。

 そうこうしてるうちにもう一体のナイトも倒すことが出来たらしく、レベルアップした。あ、HPとSP全快してる。レベルアップすると回復するのか。

 そんな新事実に1人感動してると向こうのナイトを倒していたメンツにも怒られた。

 一番辛かったのはリザの視線だった。馬鹿を見る目と心配する目と怒った目が若干の涙目で無言で送られ続けるのは辛かった。

 あとはロックには抱き着かれたのも辛かった。フルプレートで抱きつかれるのは痛い。すごく痛かった。見た目的な意味でも、痛い。おい、ラウェルナスクショすんな。

 こうして、ナイト戦は終了した。

 一つわかったことがある。このギルドのメンバーは本気でこの世界をゲームと考えていない。その上でこのゲームに適応している。

 俺はこの世界を向こうの世界と重ねている。だからこそ掌を貫かれても死なない、と無意識のうちに考えていたのかもしれない。


「クロニャ君きいてる!?」

「シエル、聞いてる。聞いてるから関節決めるのをやめて欲しい」

「だめ!反省しなさい!」


 けどまぁ、こうやって騒いで楽しめて、この世界に来てよかったなぁ。と考えてながらもギルドクエストは進められていく。

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