第5話
結論から言おう。狩りに行こうと東西南北にある門全部に行ってみた。そう、全部に。
人がごった返し、あの人口密度の中で銃なんて使えば大惨事になること待ったなしである。
諦めて街を散策しようと思い、門の前から引き返そうとしたところ、知らない人に声をかけられた。
「君、修練をしたいがあの人数で出来なくて困ってると見受ける」
「ああ、その通りだが」
「であろう。私はこの街の訓練場で教官をやっているイレイズというものなのだが、どうだろうか。訓練場に行ってみはせんか?魔物を倒したときに手に入るような経験値は貰えぬが武器の扱いは上達するぞ?」
願ってもない申し出である。即座に申し入れを受け入れることにした。というかNPCかよ。気づかなかったわ。あ、そういやアイニもNPCなのに人間相手にしてるみたいだったな。ArcadiaのAIの技術すげぇな。
「にしても、お主ら宿主は経験値を貰えぬと言った瞬間に訓練場への興味を失ってしまう」
「えっと、すいません。教官の言っている宿主というのは」
ちなみに教官ということなので敬語を使うことにしている。まぁ、雰囲気を楽しむためだ。
「あぁ、宿主とはお主のように種を宿した者達の総称だな。異世界に飛ばされたりとよく分からない部分はあるが、そこと種を宿しているところ以外は我々エリンとなんらかわらん」
エリン、とは流れ的にNPCの総称なんだろうな。というかNPCにとってプレイヤーはそういう扱いになっているのか。
「は、ついたぞ」
「ありがとうございます。あ、今更ですが俺はクロナといいます。それで、この訓練場はどこでどんな武器の訓練をしてもいいんですか?」
「あぁ、聞くのを忘れていたな。で、クロナの武器はなんだ?」
「銃です」
「銃……か」
「問題がありますか?」
武器を言ったら教官の表情が曇る。まさかこの訓練場ではあつかえない、とかあるのだろうか?
「いや、問題はない。遠距離武器は奥にある場所を使って訓練するといい」
そういい、俺達が歩いてきた道を教官は歩いていった。また俺のような人を探しにでも行ったのだろうか?
訓練場は入場料として100gとられた。が入場後は出ない限り使い放題のようだ。
訓練場にはほとんど人がいない。過疎ってるな。
まぁ、関係の無い話か。ゲームだしな。
一番奥に射撃訓練場のような場所があった。イメージはアーチェリー場のようなところだ。
1人の青年が弓を撃っているだけで他に人はいない。よし、やるか。
まずは自動小銃の方を構え、的を狙い撃つ。バァンという音ともに的からすこしズレたところに命中。なかなか難しいな。的までの距離は50mほどだろうか。この程度の距離で外してしまうのは不味いだろう。次にリボルバーを構え、撃つ。先程よりも大きな音がなり、またも的を外してしまう。弓を撃っていた青年が驚いてこっちを見ている。頭を下げて、また銃を撃つ。30分ほどしたところで銃のスキルレベルが上がった。ついでに、的に当たるようにはなった。まだど真ん中に当てれるほどではないが。そして分かったことだが、自動小銃のほうは15発、リボルバーのほうは6発、弾がはいるようだ。そして初期に渡されていた弾は1000発。すでに残り100発を切っている。
「うーん……街で買ってからきたら良かったか……。とりあえず撃ち終わったら弾を補充してから出直すか。手持ちの金でいくら買えるかは分からないが」
今更だが、戦闘中に弾が切れるなどという悲劇が怒らないためにも弾は大量に用意しないといけないよな。弓も矢がなくなると撃てなくなるだろうし。
遠距離武器ってどうも不遇な気がしてならない。
そういえばすっかり忘れていたけどアーツを使ってみるか。
的を狙い、発動。
「爆裂弾」
……あれ?弾が出ない。引き金を引くと今まで同じく弾が発射された。しかし、的に当たった後が違った。的に着弾した途端、爆発が起こった。
なるほど、アーツを使用してから撃つ必要があるわけか。
SPゲージが5%ほど減っている。つまりSP消費は6くらいというわけか。コスパいいな。クールタイムになっているのが、なんという感覚でわかる。そしてはかってみたがクールタイムは20秒ほどだ。あんまり威力は上がらないのだろうな。
その後もアーツを使ったりしながら射撃を続けた。
「弾、切れたしとりあえず買いに行かないと」
銃をしまい(ちなみにレッグホルスターが両足についてる)闘技場を後にしようとした時に、弓を撃っていた青年に話しかけられた。見た目は金髪碧眼の美青年だ。いや、少年と言ってもいいかもしれない。身長は175くらいだろうか。
「銃、か。珍しい武器を使ってるね。僕はルイって言うんだけど、矢が切れたんだ。たぶんだけど君も弾が切れて買いに行くところだろうし良かったら一緒にいかない?」
「よく弾が切れたってわかったな。俺はクロナ。一緒に行くのは構わないが、俺店知らないんだよ」
「あぁ、それは大丈夫だよ。闘技場で売ってるから」
なるほど。少し考えればわかりそうなものだ。訓練場で矢や弾を売ればそれは儲かるだろう。盲点であった。
「ところで、さ。クロナはこの世界をゲームって思ってないかな?」
何言ってんだ?こいつ。
「あぁ、いや。僕もゲームっていうのは分かってるんだけどね。ほかのゲームとは違うんだよ」
「つまりどういうことだ」
「クロナ、弾買えるだけ買おうとか考えてない?」
「ああ、いちいち買いに行くのはめんどくさいからな」
「それは、出来ない」
「は?」
出来ない?いや、そんなことはないだろう。
「出来ないんだ。仮に、矢を10万本、とか言っても在庫が無ければ売ってもらえないし、他のお客さんがここにはいるから全部売ってもらうことも出来ないんだ」
「在庫?そんなもの」
あるわけがない。ここはゲームだぞ?
「あるんだよ。このゲームはリアルに作られすぎているがゆえに存在するんだ。この訓練場も使用者が減少してきているから壊してしまおう、などという話が出ているくらいだ」
「そんな……」
そんなこと、ありえない。いや、ほんとにそうなのだろうか?人間と変わらないエリン達。人を集めようとしている教官。
「僕はβテスターなんだけどね、β中にある事件が起きたんだ。あるプレイヤーが、ポーションを買おうとしたんだ。そうしたら在庫がなくなったからうれない、って。そんなことあるわけない、ってそのプレイヤー怒ってね。つい、そのエリンを殴りつけたんだ。当たりどころが悪かったのかな?そのエリンは死んでしまって……葬式なんかが開かれてさ。その薬屋さん、作り手がいなくなって潰れたんだ。本サービスが始まってから確認に行ったけど、その薬屋はなくなってたよ。話を聞いたらさ、主人が病死したから潰れたんだって。宿主のこと抜きで辻褄を合わせているんだろうけど、実際に起って、この世界に影響を与えたんだ」
「そんなことまで……」
もう一つの世界を、ふいにanotherの名前の由来が頭に浮かんだ。
「もう一つの世界を。このゲームは本当の意味でもう一つの世界として存在している。僕はそう思っているんだ」
「......」
もう一つの世界。俺達家族はあちらの世界に飽きていた。この世界に期待していた。素晴らしい、これほどとは。
「なるほど……。けど、ルイはなんでそんなことを俺に言ってきたんだ?狩りをしている連中に言った方がいいんじゃないか?」
「うん、そっちも言ってるよ。僕のギルドメンバーがちゃんとね」
なるほど。βテスターならではの強み、か。
「僕はここの担当だったわけ。だからスキルがあるわけでもないのに弓を撃ってたのさ」
え?スキルないの?けどほぼ全部的の真ん中に当ててましたよね!?
「なんというか……凄まじいな」
「そうかな?あ、それで理解してもらえた?」
「あぁ、ここは異世界なんだな。異世界Arcadia、βテスターがそう呼んだのが今、本当の意味で理解出来た気がするよ」
「……」
ルイが俺の目をじっ、と見てくる。嘘をついているとでも思われているのだろうか?心外だ。
「いやいや、嘘を疑ってるわけじゃないよ?」
「やっぱり俺って心読まれやすいのかな!?」
そういうえばアイニにも心読まれてたよね!AIにすら読まれる心、なんか悲しくなってきた!
「うん、やっぱり。クロナ、一つ聞いても?」
「おう」
「君、ペインアブソーバの設定どうしてる?」
ペインアブソーバとは、痛みをどの程度感じるかの遮断率のようなものである。ちなみにこのゲームでは自由に調節することができる。といってもある程度の痛みは絶対に感じるらしいのだが。
ちなみに俺は遮断していない。
「俺は使ってない。リアルと同じだ」
「うん、やっぱり、か。どうしてかな?」
「俺は、このゲームに新しい世界を求めてやって来たからな。あぁ、俺矛盾してたんだな。新しい世界を求めてやって来たくせに結局ゲームだって考えてた。ルイ、ありがとな」
そうだ。俺はここに、新しい世界を求めてやって来たんだ。それなのにゲームだし、と考えていたとは我ながら笑えてしまう。だからルイには感謝しなければならないな。
言われた張本人のルイは少しキョトンとした後に笑ってこういった。
「え、ああいいよ。そんなことより、クロナ。僕のギルドに入る気はない?」
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