番外編2 あみと家族 後編

 その後、あい、あき、あやの退職による引き継ぎ業務が発生した。

 彼女たちが主に担当していたのは、相談窓口係だった。引き継ぎ業務が終わると、多くのスタッフは三人を惜しんで涙した。

 それだけ、彼女たちは周囲から信頼されていたということである。

 「それで、あなたたちは今後どうする予定だったのかしら?」

 あたしは三人に訊いた。

 家族である以上、できるだけ詳細を知っておこうと思った。

 かつてのあたしがそうだったように、険しい道なだけに必ずどこかで壁にぶつかるはずだから。

 だからこそ彼女たちを助力したいと、心から思っている。

 まず、あいはこう答えた。

 「私はまず、一般の美容院に就職します。そこで修行をして、私たちみたいな子が気軽に来られるような美容院を開くんです。実は美容師免許、持っているんですよ」

 次にあきが答えた。

 「私は女の子向けのバーを開いて、同時にネットでの相談窓口を開設します。実際に自分の足で向かうのって、結構勇気が要るし、まだまだ悩んでいる子は隠れているはずだから」

 そしてあやは最後に笑った。

 「私、この前両親にカミングアウトしたんです! 最初は激怒されましたけれど、最終的には実家の病院で心理カウンセラーをすることになりました。そのためにはまず、大学に進学します。精神科という医学的な面でも、私たちと同じ悩みを抱える子を支えていきます!」

 それから独立します、とあやは付け加えた。

 三人とも、頼もしい顔をしていた。

 あたしはそんな三人のことを誇りに思った。

 同時に、この会社を立ち上げ、行動したことが間違いではなかったと確信した。

 今までの葛藤や恐怖が恥ずかしくなるくらいだった。


 後日、他のスタッフの子たちが派手な送別会を開き、三人の門出を祝った。

 なかには涙する子もいたけれど、あたしはこう励まし、背中を擦った。

 「次はあなたたちが前を走っていく番よ」

 その子は力強く何度も頷いた。

 あたしには、姉と弟だけでなく、これほどたくさんの家族がいる。

 この日ほど強く思うことはきっとないと思う。

 あい、あき、あやの成功を、あたしは養母と流れ星に願った。


 あたしが四十二歳になったころ、姉は新しい家族を得た。

 春日さんといって、人徳に恵まれている男性だった。

 姉はあたしのことまで話していたのか、彼は嫌悪感を抱くことなく義妹として受け入れてくれた。

 姉が再婚したのは冬だったけれど、寒さに負けないくらい幸せそうに笑っていた。

 さらに夏になると、姉はなんと十分丈ではなく七分丈の服を着るようになった。

 そでから覗く痣など、気にも留めていないようだった。

 それくらい、春日さんは姉を変えてくれた。

 あたしは異性である義兄のことを珍しくも恐れることなく、むしろ誇らしく思った。


 そして、今日。

 弟の陽一の紹介で、一人の相談者が会社を訪れることになっていた。

 それは仲間、家族が増えるということ。

 家族の形は距離ではない。血縁だけではない。結婚だけではない。親子だけでもない。

 さまざまな形があっても良いと思う。


 「いらっしゃい。待っていたわよ。あみです」

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